第五章 エピローグ

第129話 報告

 軍事帝国ネメシスに帰ってきた7人は、道中の詳細と魔王との約束を報告するために、国王に会いに行った。


「なるほど。まさかあの魔王とそのような約束ができるとは、予想以上の成果じゃな」


 国王も魔王がいなくなった後の魔族の動きを心配していたのだろう、それがないとわかり安堵の表情を浮かべる。


「しかし、魔王がその約束を守りますかな?」


 赤髪のグエンは王国の兵士長なので簡単に信じる訳にはいかないのだろう、率直な感想をもらす。


「魔族との約束は"契約"じゃからのぅ。守らねばなるまいて」


 博識なグリモスの説得力のある言葉に、グエンも納得した表情を見せた。


「ところで国王陛下、ネメシスにも魔族の軍団が攻めてきたはずですが、思ったより被害が少ないようで安心しました。我が兵士達が勇敢に戦った結果でしょうか?」


 シルバが言うように、ネメシスに帰ってきた時に1番驚いたのが被害の少なさだった。街を囲む防壁に多少の傷や焦げ跡があったものの、街の中は被害は0といってもいいくらい綺麗に保たれていたのである。


「それはもちろん我が兵士達は勇猛果敢に戦ってくれたわい。じゃが、王都からの援軍がなければもっと被害は多かったかもしれんな」


「王都からの援軍?」


 国王の言葉を繰り返すシルバが、その意味を質問する前に――


「紹介しよう、入ってきなさい」


 グエンがそう言うと同時に、懐かしい2人が部屋に入ってきた。


「キリバスさん、ソフィアさんも!」


 アスカが嬉しそうに声を上げる。それもそのはず、王都にいると思っていた"ホープ"のメンバーにこんなところで会えたのだから、嬉しくない訳がない。


「やあ、アスカ。そっちも無事に終わったみたいだね。それから父さん、久しぶりだね」


「おお、キリバスか! なんでお前がここに?」


 キリバス曰く、アスカが出発してからすぐに魔族の動きを調べ始め、各都市に向かっている魔族のおおよその数を把握したそうだ。


 その数は帝都に500、王都と聖都に250ずつだったので、王都の守りは"ホープ"のメンバー数人とハンクや教授達で十分と考え、聖都と帝都に援軍を送ったのだ。


 聖都にはミスラとメリッサ、それにフローレンス兄妹が援軍に行き、ケンヤとともに戦ったそうだ。

 最初、ケンヤは怯えてばかりで使い物になりそうになかったらしいが、ミスラの『ここで戦わなかったら、アスカが物凄い怒るだろうね』という脅し文句を聞いて、泣きながら戦っていたらしい。

 しかし、そこは転生者でありLv5スキル2つ持ちであるケンヤは、並み居る魔族を寄せ付けず、一騎当千の活躍だったそうだ。


 帝都ではキリバスとソフィアが参戦し、魔族が固まって攻めてきたところを、ソフィアの《大津波ダイタル・ウェーブ》で一掃し、残った魔族もキリバスを中心にネメシスの兵達が各個撃破していったという。


 王都はハンクというか、ハンクの武器が大活躍だったらしい。あのプレゼントしたナックルは聖属性だったから、魔族を相手にするには相性バッチリだっただろう。

 学院の教授達もレベルを上げておいたお陰で、魔族にも互角以上の戦いができていたみたいだ。


 どうやら各国を襲った魔族には、側近の4人と同じレベルの者はいなかったらしく、そのほとんどがランクで言えばA~Bの強さだったようだ。

 そう考えると、あの4人が魔王と一緒にいてくれてよかったと言える。魔王とあの4人に勝てるのはアスカだけだっただろうから。


「ところで父さん、アスカの常識外れの強さにはびっくりしたんじゃない?」


「ああ、びっくりじゃ済まされないくらい驚かされたぞ。強さもそうだが、それ以外でもな。例えばあのリュックとか」


 キリバスとラグナが親子水入らずで、アスカのびっくり自慢をしている間、アスカとソフィアはセーラを交えてガールズトークに花を咲かせている。会話の大半が美味しい食べ物についてなのは、彼女の影響力が強いからだろう。


 グリモスとサンドラは、今回の冒険で体験したこと(特にアスカが使った魔法について)を再度整理し、自分達の研究課題にするようだ。クロムは王都に戻って、"ドラゴンバスター"の仲間とまた冒険を続けるのだろう。


 そして、シルバは……国王と密かにアスカの脅威について話をしていた。


「はい、我々は魔王を含めその4人の側近にも敵いませんでした。全てアスカ1人で倒したのです。それも圧倒的な力で一瞬のうちに」


「そうか、だとすればその強さは魔王以上の脅威じゃな……」


「強さに関してはその認識で間違いないかと。しかし、その人間性は善と判断いたしました。あと顔と声が最高に可愛いです」


「どうしたのじゃシルバ? お主そんなキャラじゃったかの?」


「これは失礼。つい本音が漏れてしまったようです」


(シルバはアスカの本質を善と判断してくれたけど、脅威に関しては善も悪も関係ないからな……)


 何だが危惧していたことが、色々なところで現実味を帯びてきているようで、ちょっと心配になってくる。


(もうアスカを力でどうこうできる者はいないから、あとはアスカの心が傷つかないように俺が守ってやらないとな)


 国王とシルバの会話を聞いた俺は、そう心に誓うのだった。

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