第126話 Sランク冒険者 vs 魔王の幹部③
ペテルギスは首を切られた傷とシルバの存在のせいで、思い切って攻めることができない自分に腹を立てていた。
懐に入り込めたのは最初だけで、後はずっとラグナの剣の前に距離を詰められずにいるからなおさらだ。冷静さを失い、捨て身ので飛び込もうとしたその時に、ゾルドからの声が聞こえる。
「ペテルギス。お前が何にこだわっているのかはわかりませんが、全てを出し切って戦うのが礼儀というものですぞ。魔王様の前で無様に負けることは許しませんゆえに」
その言葉で瞬時に冷静さを取り戻し、言われたことの意味を考え……そして、
「すまない、ゾルド。おかげ、何をすべき、わかった……
ペテルギスの言葉とともに、突如訪れる暗闇。ラグナは一瞬動揺するも、その場にとどまることに危険を感じ、勘を頼りに右に跳躍する。しかし、予想していた攻撃は来ず、ラグナが着地すると同時に暗闇が解除された。
「どこだ!?」
明るさは戻ったが、ペテルギスの姿が見えない。
「上か!?」
ラグナが殺気を感じて上を見ると、跳躍して空中にいたペテルギスが唱えた、
「クッ!」
とっさに後ろに跳躍し1本目を躱すも、2本目、3本目の触手に絡め取られ身動きが取れなくなる。必死に振りほどこうとしたラグナの目の魔にペテルギスが着地し、すかさず打ち込む瞬発拳。
実質、2500オーバーの攻撃力から放たれる音速の一撃。鎧の上からでも十分にその威力が伝わり、身体をくの字に折り曲げて倒れるラグナ。
「魔法使った。残念だが、魔王様、負け許さない」
ゾルドはペテルギスが自分が言わんとしていたことを理解し、それを行動に移すと確信した。そしてポギーと目を合わせ、2人で目を瞑る。
クロムは、目の前の2人の魔族が急に目を瞑り無防備になるが、何か罠があるのではと勘ぐって動けない。次の瞬間、ペテルギスの放った魔法で辺りが暗闇に包まれた。
(しまった、目を慣らすためにか!?)
とっさに張った結界に響く2つの鈍い音。光が戻り、クロムが目にした光景はゾルドの
「ほう。結界とは珍しい」
ゾルドが感心したように呟く。
「じゃあ、こっちの方がよろしおまんな」
言い終わるより早く、ポギーの手から伸びる闇の触手。
(あれに捕まれたらまずいな)
クロムはその触手を
「口ほどにもないでおますな」
ポギーがニヤリと笑って呟いた。
「
ここでムーマが使ったのは炎操作Lv3魔法の
急に中級魔法を使ってきたことに戸惑いながらも、サンドラは同じLv3魔法の
「!? なぜ?」
ムーマの炎の鞭は消えず、自分の雷の玉だけがどんどんと消されていく光景を見てサンドラが叫ぶ。
「同じLv3魔法なのに……っつ、そういうことね」
ムーマはLv3魔法に必要な最低限のMPではなく、その倍以上の魔力を込め魔法を唱えていたので、炎がどんどん雷を飲み込んでいく。ここで一瞬暗闇が訪れるが、幸いムーマの放った炎の明かりで相手の動きは見えている。サンドラはバックステップで炎の鞭を躱し――
「
今度はサンドラも倍の魔力を込めてLv3魔法を放つが……
「うそ!?」
またしても炎の鞭が雷の玉をなぎ払っていく。
「
ムーマの炎の鞭は倍どころか3倍の魔力が込められていたので、サンドラは慌ててLv4魔法で対抗するが、炎の鞭が複数なのに対して、雷操作のLv4魔法、
それでも
「ぐは!」
「シルバ!?」
サンドラに迫った炎の鞭を背中で受けたのは、ムーマの隙を窺っていたシルバだった。
「あんた、結界も張らずに飛び込んでくるなんて……」
サンドラがシルバを抱き起こしながらも、冷静に突っ込む。
「うぅ、とっさに飛び出したので結界のことは忘れていた……」
背中にひどい火傷を負ったシルバが苦しそうに言い訳をする。そんなやりとりを無視するかのように聞こえる、ムーマの詠唱短縮。
「まとめて焼かれちまいな!
この場面で、持てる力の全てを出し切るかのように放たれる炎操作Lv5の魔法。
「まだ、こんな魔法を撃てるなんて……」
先ほどの小競り合いでMPを無駄に消費されられたサンドラにはLv5魔法を放つMPは残っていなかった。
逃げ場を失ったサンドラは残った魔力を自身の指輪とシルバの腕輪に込め、結界を発動させる。2人分の結界を維持できるのはほんの数十秒だが、サンドラは最後まで諦めずに魔力を込め続けしかなかった。
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