第125話 Sランク冒険者 vs 魔王の幹部②

 セーラが倒れる少し前、サンドラとムーマもお互いに譲らない激戦を繰り広げていた。


 雷操作Lv5のサンドラと炎操作Lv5のムーマはスキルに優劣がないので、サンドラが究極電撃マキシマムボルトを使えば、ムーマが太陽爆発オーバーフレアで打ち消し、ムーマが地獄の溶岩ボルカニック・インフェルノを放てば、サンドラが雷神の裁きインドラ・ジャッジメントで応戦する。


 お互いに、同じレベルの魔法で攻防する戦いが続いていた。ムーマは、サンドラより魔力が高くMPの上限も遙かに多いので、この状態が続けば先にサンドラのMPが尽きると考えていたのだが、明らかに消費MPを超えているはずなの相手が平然と同Lvの魔法を撃ってくることに不安を覚えていた。


「何かおかしくなくて? あなたのMPは600程度ですわよね。もうとっくにMPが切れててもおかしくないと思いますのよ。どんな手品を使ってるのかしら?」


 ムーマはあくまで余裕の態度を崩さずに、会話で探りを入れてくる。


「さあ、なんのことでしょうか? 例えそれが事実だとして、敵であるあなたに教える必要がありまして? フフッ」


 サンドラはもともと持っていたMP増加が付与された杖と、アスカに貰った指輪の消費魔力減少のおかげでMPが+100、消費魔力が2割減少している。そのため、実質MPが840くらいあるのと同じ状態になっている。

 それでもムーマの半分にも満たないので、実はすでにMPはギリギリしかないのだがそれを悟られないように不適な笑みを浮かべていた。


「そうですか、でもそのMPが私より多くなることはないはずですね。いつまで続くのか試させて貰いましょう! 地獄の噴火ボルカニック・インフェルノ!」


「それなら! 雷神の裁きインドラ・ジャッジメント!」


 再び、お互いの最強魔法が激突するが、今回のサンドラの魔法は込められている魔力がぎりぎりで、余裕を持って込められた魔力の差の分、相手の魔法を相殺し切れていない。

 打ち消しきれずに残った熱波がサンドラを襲うが、全属性耐性のおかげで事なきを得たのだが……


「ウフフ、ようやく底が見えてきましたね。もうMP切れのようですから、残念ながら次の魔法で決着が着いちゃいそうね」


 ムーマにはMPが無くなったことがばれてしまった。


「それはどうかしら?」


 そう言って、突然後ろを向いて天を仰ぐサンドラ。


「あら、この期に及んで逃げる気ですか? そんなことさせるとお思いで?」


 後ろを向いたことでサンドラが逃げるのでは思ったムーマは、彼女が何をしたのかフードに隠れてよく見えていなかったようだ。


太陽爆発オーバーフレア


 これで終わりとばかりに静かに魔法を唱えるムーマ。サンドラが焼き尽くされる姿を見届けようと、残酷な笑みを浮かべるが……


究極電撃マキシマムボルト


 MPが切れたはずのサンドラから放たれる同Lvの魔法。先ほどまでと同様にお互いの魔法が打ち消し合う。


「なぜ!?」


 自分の勝利を確信していたムーマが驚きの声を上げた。


「フフッ、敵であるあなたに教える必要がありまして?」


 先ほどと同じ台詞を口にするサンドラの頬には、急いで飲んだからだろう、完全魔力回復薬マナポーション・フルのしずくが残っていた。


「あんた、魔力回復薬マナポーションを飲んだわね! 卑怯よ、ひ・きょ・う!」


 ムーマは、目敏くサンドラの頬に付いたしずくを見つけて罵る。


「あらあら、私達は魔王と戦いに来ている訳ですから、当然これくらいの準備はしてきて当たり前ですわ。それとも何ですか。MPが同じなら私には勝てないとおっしゃるのかしら?」


 こっそり頬のしずくを拭きながら、ムーマの怒りを煽る。


「ふん! よろしいですわ。こうなったら私の実力で倒して差し上げましょう」


 強気な発言を残して、ムーマは再び戦闘態勢に入った。





 仲間達が戦闘を開始してもしばらく、【漆黒の天使】アスカと【魔王】シンは動かずにいた。


「お前のステータスはとてもじゃないが、ここまで無傷でこれるようなもんじゃないんだが、まさか貴重なスキルポイントを隠蔽にでも使ってるのか? だとしたら、相当の間抜けとしか思えんが……」


(確かに隠蔽にスキルポイント使ったら、普通なら隠すべきスキルがおろそかになっちゃうからな、でも俺は特別なのですよ)


「その辺りは戦ってみればわかるのではないでしょうか?」


 アスカはあくまで冷静に対応する。


「そりゃそうだな。だがお前も鑑定を持っているようだから、俺のステータスはわかってるよな? 素で2000前後、身体強化もいれりゃあ、3600ってところだぞ。お前がいくら隠蔽しようが、敵う訳ないとわかりそうだもんだがな」


「先ほどからの発言を聞いていると、どうも戦いたくないように聞こえますが、他の種族への侵攻を辞めると言うなら、今ならまだ許してあげますよ」


「いや、すまなかった。戦いが嫌いな訳じゃないんだが、一方的にいたぶるのは趣味じゃないんでな。一応忠告したまでだが、お前さんにとっては余計なお世話だったか。一瞬で終わって申し訳ないが、いっちょやりますか」


 そう言って魔王はようやく戦闘態勢に入ったが……


(お兄ちゃん、私なんかこの人あんまり悪い人のような気がしないんだけど……)


(ああ、俺も同じこと考えてた。あの集落の魔族が言ってたように、本当に今回の侵攻はあの側近の魔族達が実行しているみたいだな)


(うん、とりあえず戦ってみるけどなるべく殺さないようにしてみるね)


(そうだな。この魔王も、負けた後なら話を聞いてくれるかもしれないからな)


 アスカも魔王の動きに合わせて、右手で剣を抜き半身になりながら、腰を落とした状態で魔王を見つめる。


「いくぞ!」


 その言葉の最後が聞こえた時には、魔王はアスカの背後に回り込み、いつの間にか手にしていた黒い飾り気のない槍をアスカに向かって突きだしていた。


 キン!


 その動きを捉え、振り向きざまに払った剣で槍を弾き飛ばす。そして、がら空きになったシンの鳩尾みぞおちめがけて前蹴りを放つが――

 シンはその蹴りを跳躍して躱し、背中の羽で羽ばたきながら空中で驚いた表情を見せる。


「お前、なぜ俺の動きに付いてこれる? まさかお前もステータスが3000を超えているとでもいうのか?」


「ですから、戦ってみればわかると言いましたよね?」


 アスカは剣を引いた構えを崩さず、空中にいるシンを静かに見つめていた。


(ん? ちょっとおかしくないかい? アスカが本気出したらもう終わってると思うんだが、アスカ、手加減してるのか?)


(手加減はしてないけど……)


(どうした? 何か歯切れが悪いな?)


「おもしろい。これは断然おもしろくなってきた。強いヤツと戦うのが俺の生きがいだ。お前を敵として認めよう」


 魔王はうれしそうにニヤッと笑って、アスカめがけて槍を突き出しながら急降下するのだった。

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