第124話 Sランク冒険者 vs 魔王の幹部①

 まず初めに動いたのは、この中で1番好戦的な性格をしているであろう、魔王の側近が一人、ペテルギスだ。魔王の相手をすると言ったことに腹を立てたのだろう、アスカに向かって一気に距離を詰めようとするが――


「させないよ」


 ペテルギスとアスカの間にラグナが割って入る。


 ガキィン!


 ペテルギスの拳をラグナが剣で受ける。ペテルギスの攻撃力は身体強化込みで約1700。ラグナの攻撃力は身体強化と付与で約1600。武術スキルの差の分で、数字上はお互いに2500前後とほぼ互角になる計算だ。敏捷もお互いに約1300と差がない。


 ラグナは剣を有効に使うために右に回り込みながら、ペテルギスとの距離を取ろうとする。しかし、ペテルギスは拳を剣で受け止められたことから、攻撃力や敏捷がほぼ互角であることを見抜いていた。

 当然、距離を取られれば剣の方が有利になるので、拳を連打しながらぴったりと張り付いて離れない。ラグナは得物が長い分回転率が悪く、徐々に拳を捌き切れなくなり振り遅れた剣がペテルギスの拳に弾かれる。その隙を見逃すはずもなく――


「終わりだ」


 その言葉とともに放たれた瞬発拳だが、その拳がラグナの身体に届くよりも早く、突如死角から躍り出たシルバの急所切りがペテルギスの首に迫る。


「グッ!?」


 必殺技を無理に止め、身体を投げ出して躱すが、立ち上がったペテルギスの首からは真っ黒な血が流れていた。


「やってくれる……」


 ペテルギスは自分の身体を傷つけたシルバを、鬼の形相でにらんでいる。


「すまないシルバ、助かったよ」


「なに、お前さんが作ってくれた隙を突いただけよ。しかし、あれを躱すとはなかなかやるな」


 死角からはなった必殺の一撃を躱されシルバは少々驚いてはいたが、自分の攻撃が通ることを確認したので時間はかかっても必ず倒せると判断したようだ。


「距離さえ取れば、後れを取らないだろう。しばし、あの馬鹿でかい魔族はお前に任せるぞ」


 シルバは、そう言って他のメンバーのサポートに回る。目の前の戦闘に集中したら、いつ死角からシルバが襲いかかってくるかわからない。その意識を相手に植え付けてくれただけでも、断然有利に戦えるようになるだろう。ラグナとペテルギスのように実力が拮抗していればなおさらだ。


「第2ラウンドと行こうか」


 そう言って、ラグナは再びペテルギスの前に立った。





 ラグナとペテルギスがお互いの得物をぶつけ合って攻防している横で、グリモス、サンドラ、クロムがポギー、ムーマ、ゾルドと激しい魔法合戦を繰り広げていた。


雷の閃光サンダースパーク


 挨拶代わりにゾルドが麻痺狙いで雷魔法を放つ。しかし、3人とも付与のおかげで状態異常にはならないので、敢えて魔法を受けつつ――


太陽爆発オーバーフレアじゃ!」

究極電撃マキシマムボルト

雷神の裁きインドラ・ジャッジメント!」


 グリモスは魔法を放ったばかりのゾルドに、クロムとサンドラは雷耐性を持っていないムーマに魔法を放った。魔族達は魔法を防ぐか躱すと思っていたので、意表を突かれたが――


石の壁ストーンウォール

炎の盾フレイムシールド


 ポギーの放った土魔法が、クロムとサンドラの雷魔法を受ける。

 究極電撃マキシマムボルトは完全に防がれてしまったが、Lv5魔法の雷神の裁きインドラ・ジャッジメントは例え相性が良くても、Lv4までしか覚醒していないポギーの魔法では防ぎきれない。

 しかし、威力が軽減されてしまった雷神の裁きインドラ・ジャッジメントでは、魔力が900あるムーマには少々痺れさせる程度のダメージしか与えられなかった。


 グリモスの太陽爆発オーバーフレアもムーマの炎の盾フレイムシールドで威力を削られ、ゾルドの腕に少し火傷を負わせるにとどまる。


「まさか、魔法を受けるとは思わなかったので、少々驚きましたぞ」


 ゾルドはそう言いながらも、全く驚いた素振りなど見せずに余裕の笑みを浮かべている。


「グリモスじいさん、ポギーの足を止めるからトドメを頼む。サンドラはムーマの相手を、セーラ! 光魔法でゾルドを牽制してくれ!」


 魔法だけでは分が悪いと悟ったクロムは、1番敏捷が低いポギーに接近戦を仕掛けた。雷耐性を持っている相手はグリモスの魔法で倒すのが効果的と判断し、後ろに控えていたセーラにゾルドを任せ2対1の状況を作る。


「お前のじいさんではないが、その役目は承知したぞえ!」


 グリモスはアスカ以外には厳しいが、作戦の意図は理解し了承した。


「飛刃斬!」


 斬撃を飛ばしながら、ポギーに向かって突っ込んで行くクロム。しかし、ポギーは耐久力が950もあるので、石の盾ストーンシールドでその斬撃の威力を削ぐことで簡単に弾いてしまう。逆に闇の力ダークフォースでクロムを捉えようと、黒い影のような触手を伸ばしてきた。


炎の鞭フレイムウィップじゃ」


 そこにグリモスの援護魔法が飛んでくる。闇の触手と炎の鞭がぶつかり合い、互いを消滅させた。


「サンキュー、グリじい!」


「誰がグリじいじゃい! しかし、アスカに呼んでもらうならいいかもしれんのぅ」


 強敵との戦いながらも、クロムとグリモスにはまだ軽口を叩き合う余裕があるのが頼もしい。


「断鉄斬!」


 クロムが鉄をも断ち切る剣技をを放つ。まともに受ければ、ポギーでも大ダメージを免れないはずだが――


「そない剣、効きますかいな」


 再び、石の盾ストーンシールドで必殺技を受けたポギーは、クロムを挑発しつつカウンターの魔法をお見舞いする。


石の弾ストーンショット


 威力は小さいが発動が早く、何より数が多い石のつぶてにクロムが弾き飛ばされた。Lv1魔法が飛んでくるとは思っていなかったのか、クロムは不意を突かれ、そのほとんどを身体で受けたため、多少のダメージを負ってしまった。


 それを見たポギーが追撃しようとするが――


地獄の噴火ボルカニック・インフェルノじゃ!」


 ラグナが吹き飛ばされたところに合わせて、グリモスの最強魔法が炸裂する。

 ラグナに向かって踏み出そうとしていたポギーの足下から吹き上がる溶岩。慌てて放った石の壁ストーンウォールを瞬時に溶解し、逃げ出そうとするポギーを追いかける。敏捷の遅さが仇となり、あえなく溶岩に飲み込まれる……かに見えたが、どこからともなく現れた闇の触手がポギーの身体に巻き付き、すんでの所で引っ張り上げた。


 そのままポギーは、闇の力ダークフォースで窮地を救ったゾルドの横まで引っ張られて着地する。


「ポギーさん、少々、油断しすぎですぞ。ただでさえこちらの方が数が少ないのですから、簡単に戦線離脱されたらさすがの我々も困りますよ」


「いやー、面目ない。あのじいさんがここでLv5魔法つこうてくるとは、思っていまへんでしたわ」


 そう会話するゾルドとポギーの前には、ボロボロになったセーラが倒れていた。


「セーラ!」


 慌てて駆け寄るクロムとグリモス。セーラはかろうじて呼吸はしているが、至る所から血を流し意識もない。


「すまない。僕がゾルドの相手を頼んだばかりに……」


 長期戦になった時に、1番力を発揮する治癒の使い手が最初にやられてしまうのは、作戦ミス以外の何ものでもない。クロムは自分の見通しの甘さを痛感するが、時すでに遅い。

 これでポギーを倒せていれば、まだ何とかなったのだろうが、倒す寸前のところでゾルドに助けられてしまった。


「心配するな。アスカにもらった完全回復薬フルポーションがあるぞえ。起こして飲ませるまで奴らの気を引いておくのじゃ」


 グリモスの言葉にホッと一息ついて、クロムは再びゾルドとポギーの前に立って2人をにらみつけた。

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