第123話 魔王と側近

 魔王城は造りがしっかりしており、広さもそれなりにあるのだが全体的に薄暗く、生活感も感じられない。どういう訳か、魔王と側近の4人の魔族しかこの城にはいないようで、罠もなく簡単に王の間まで到着してしまった。


「この、この中に、魔王と4人の魔族がいる」


 シルバも緊張しているのだろう、口が渇き言葉が上手く出てこない。


「扉を開けるぞ」


「あ、ちょっと待ってください」


 ラグナが扉を開けるのをアスカが止める。そして、前衛に全属性耐性、全状態異常耐性、身体強化を付与した腕輪を、後衛に全属性耐性、全状態異常耐性、消費魔力減少を付与した指輪を渡した。

 こんな物がポンポン出てくることに呆れ顔のみんなだが、アスカの突拍子もない行動には慣れてきたメンバーだったので、素直に受け取って装備する。


 改めてラグナが羽の生えた魔族のレリーフが施された扉を開ける。その先にいたのは……


「よう、待ってたぜ。だが、よくここまで無傷でこれたもんだ。さすがの俺もちょっと驚いているぞ」


 今開けた扉のレリーフにそっくりな魔族が玉座に座り、その左右に2人ずつ魔族が立っていた。中央の玉座に座っている魔王であろう魔族が、予想以上に砕けた言葉遣いで話しかけてくる。

 しかし、その砕けた雰囲気とは裏腹に、魔王が放つ圧力に気圧されてアスカ以外は冷や汗が止まらない。


名前 シン・クリムゾン 魔族 男

 レベル 140

 職業 不明

 ステータス

 HP 4444

 MP 6666

 攻撃力 1950

 魔力  2080

 耐久力 1778

 敏捷  1811

 運   1204

 スキルポイント 2504

スキル

 闇操作 Lv5

 氷操作 Lv5

 槍術  Lv5

 身体強化 Lv4

 鑑定 Lv4

 探知 Lv3

 上限突破 Lv2

 闇耐性 Lv4

 氷耐性 Lv4

 炎耐性 Lv4

 全状態異常耐性 Lv4

 詠唱短縮

 危険察知


 さすが歴代最強魔王。身体強化を含めれば運以外のステータスは3000超えで、魔力に至っては4000を超える。アスカさえいなければいい感じに化け物だ。

 そして思ったよりもイケメンで、黒のシャツを前をはだけさせて着こなしているあたりが、男性ながら妙な色気を感じさせる。

 そして4人の腹心も、魔王ほどではないが決して油断できる相手ではないようだ。


 ポギーという魔族は、ちょっと太めの体型でゆったりとした丈の長いシャツとズボンに黒いベストを着ている商人風の男で、闇操作Lv4と土操作Lv4、詠唱短縮に闇、土、雷、全状態異常の耐性を持っている。ステータスは耐久力が950と高めで他は700前後、敏捷は400台とやや低くなっている。


 ムーマと名乗る女性の魔族は、胸元が大きく開いた黒い皮のライダースーツのような服を着ており、闇操作Lv4と炎操作Lv5、詠唱短縮に闇、炎、風、全状態異常の耐性を持っている。ステータスは魔力が900と最も高く、次いで850の敏捷、残りのステータスは700前後だ。


 ゾルドは黒いタキシードに身を包んだ、落ち着いた雰囲気の初老の魔族だ。闇操作Lv4と雷操作Lv4、詠唱短縮に闇、雷、水、全状態異常の耐性持ちで、全ステータスが800前後とバランスが取れている。


 ペテルギスと呼ばれている魔族は身長2mはあろうかという巨漢で、黒のライトメイルから伸びている腕は筋肉質で丸太のように太く、手には黒く光るナックルを持っている。闇操作Lv4と拳術Lv3と身体強化Lv3、詠唱短縮に闇、風、土、全状態異常の耐性を持っている。ステータスは4人の中で最も偏っており、攻撃力が980、敏捷が710、その他が300台と完全に物理攻撃主体の魔族のようだ。


 4体ともHPとMPは2000台と高めなので、長期戦を覚悟しなければならない。


「お前が魔王か。倒す前に一応聞いておくが、他の種族への攻撃を辞める気はないのか?」


 ラグナが魔王の圧力に負けないように大声で叫ぶ。


「ふふふ。我々にそんな気がないことはわかっているのに聞きますか。もうすでに3つの国への侵攻は始まっておりますぞ。むしろ、そちらが命乞いをするなら奴隷として生かしておいてあげてもよろしいですが?」


 魔王ではなく、側近の一人であるゾルドが質問に答えた。


「奴隷いらない。人間殺す。命乞い、関係ない。殺す」


 片言の言葉で話すペテルギスは、頭は良くないが非常に好戦的な性格のようだ。


「ほほほ。わては奴隷にするでも殺すでもどっちでもよろしいがな。万が一、生き残ったら考えるっちうことで」


 このポギーという魔族は見た目だけでなく、言葉遣いまで商人風だ。ひょっとして、普段は人族に紛れて商売をしてるのかもしれないな。


「そこのラグナと言ったかえ? そちはなかなかのイケメンよな。そちの首だけは妾の部屋に飾らせてもらうぞよ」


 ムーマはそう言って、残酷な笑みを浮かべ舌なめずりをしながらラグナを見つめている。うん、ラグナが一歩後退りしたね。


 魔族達が好き勝手言っている間に、アスカが鑑定の結果を素早く伝える。同じように魔王も側近達にこちらの情報を伝えているようだ。


「アスカ、君がここにいてくれて良かった。この魔王は君しか相手にできないだろう。我々は4人の側近を倒してみせる。君は魔王を倒してくれないか?」


 魔王のステータスを聞いたラグナは、小声でアスカに耳打ちした。


「はい、魔王は任せて下さい。側近の方々も強いと思いますので、みなさんも頑張って下さい!」


(アスカ、お前は絶対に負けない。魔王を倒して、みんなで帰ろうな!)


(うん。私、頑張るね!)


「まぁ、あれだ。俺は強いヤツと戦えればそれでいい。この国で1番強いのは俺だ。俺に勝てる強さがあれば、お前らの望みも叶うだろうよ」


 そう言って、魔王は玉座から立ち上がり1歩前に出た。その動きに合わせて、4人の側近達もお互いに距離を取り、こちらのメンバーを値踏みするように全員を一瞥する。


 アスカはその視線をはねのけるように、魔王の前にパッと踊りでた。


「魔王さん、あなたの相手は私がします。強い相手をお望みなら、退屈はさせないと思いますよ」


 アスカのなかなか自信過剰な宣戦布告に――


「これはこれは、こんなかわいらしいお嬢さんが相手をしてくれるのかい? てっきりそこのじいさんとお姉さんが相手をしてくれると思ったんだが、まあ、いい。今更、倒す順番が変わっても問題ないからな」


 魔王が応える。


 こうして、人類の存亡をかけた戦いが始まった。

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