第122話 侵入

 魔族の若者によると、今の魔王はシン・クリムゾンと言い、歴代の魔王の中でも群を抜いて強く、強い者と戦うのが何より好きな困った性格をしているらしい。

 しかし、それはあくまで1対1の戦いであって、他国に戦争を仕掛けようとするような性格ではないという。

 では、なぜ今戦争を仕掛けてるのかというと、魔王の腹心である4人の魔族が『魔族至上主義』を謳っており、その4人が中心となって画策しているというのだ。

 魔王は強い者と戦えればそれでいいという立場で、特にこの4人を諫めることもなく好きにさせているらしい。魔王がそんな性格なので、戦争反対派も特に咎められることもなくここで暮らすことを許されているのだ。


「魔族にも色々あるのですね」


 魔族に対して1番思うところがあるであろうセーラが、この魔族達に理解を示した。ひと昔前のセーラならこんな言葉には耳を貸さなかっただろうが、アスカとの出会いが彼女の何かを変えているのだろう。セーラを昔から知るラグナは、この変化を好ましいと思った。


「俺たちはこれから魔王を倒しに行きますが、それは問題ないですか?」


 問題があると言われても辞める気はないが、そうは言われない気がしたのでラグナは確認してみたようだ。


「個人的にはシン様のことは好きなので、死んでほしくないとは思っていますが、貴方方にも戦わなければならない理由があるのはわかっています。私達には魔王様も貴方達も止める力はありませんので、ただ成り行きを見守るだけです」


 この言葉を聞いて何かが変わるわけではないが、魔族側にこのような考えの者達がいるとわかっただけでも気が楽になった。


「では、俺達は魔都に向けて出発します。我々が勝利したとしても、貴方方には危害を加えないと約束しましょう」


 それだけ伝えて7人は、魔都を目指して再び森の中に入って行く。その後ろでは、魔族の若者が深々と頭を下げていた。





 魔族の集落から東に1日の場所にそれはあった。王都や聖都よりはやや小さいが、背後に大きな山を従えて天然の要塞と化した国が魔王国ダークネスである。


 都市の奥には山の斜面を切り取って造ったのであろう、大きな城が見える。その城に住む魔王の討伐がこの旅の最終目的なのだ。


「さて、どうやって城まで行こうかでな」


 ラグナが、この魔族1000人が住む魔都をどう突破して魔王の元へ辿り着こうか思案しているようだったので、アスカが1つの作戦を提案する。


「私が派手な魔法魔族達の気を引きますので、その間に侵入してはいかがでしょう?」


「それは大丈夫なのかい?」


 ラグナが当然心配して聞いてはくるが……


「私1人でしたら、逃げるのは簡単ですので」


 ここまでの旅で、アスカの強さを嫌というほど見せつけられた6人には、アスカの提案を否定する理由がなかった。


「では、アスカに陽動をお願いする」


 そう決めたラグナは、アスカに任せっきりになることにちょっと悔しそうな顔を見せている。


「魔族にも探知を使える者がいると思いますので、すぐに全員が動くわけではないと思います。できるだけ、長引かせて彼らも動かなければならない状況を作りますので、シルバさん、彼らが動き始めてから侵入してください」


「わかった」


 シルバが短く答える。


(((アスカ1人で全部倒しちゃったりして)))


 みんなの心配はそこだった。





 アスカは魔都の左側に、残りのメンバーは右側に回り込む。その動きに合わせるように、魔都の中の魔族もその配置を変えてきた。やはり魔族の中にも探知を使う者がいて、こちらの動きを伝えているようだ。


「この辺でいいかな」


 魔都を挟んで、他のメンバー達と向かい合わせになる位置まで来たところで、アスカは陽動を開始する。


土戦士創造ゴーレム・アート!」


 まずは巨大な土戦士ゴーレムを造り、好きに暴れさせる。土戦士ゴーレムは、魔都を囲んでいた石の防壁を破壊し、中に入り込んで行った。


 アスカばかりを警戒していた魔族達は、土戦士ゴーレムへの対処が遅れ、街の中深くまで入り込ませてしまった。

 慌てて魔法で対処しようとするが、Lv5魔法で造った土の戦士には、生半可な魔力しか込められていない魔法など効くはずもない。

 物理攻撃にも高い耐性を持っているので、魔族達はこの土戦士ゴーレム一体に苦戦を強いられていた。


 魔法も物理攻撃も効かないとなると、数の力で押し切るしかないと判断したのだろう、街の反対側を警戒していた魔族達が、徐々に土戦士ゴーレムに集まってくる。


「こちら側の魔族が動いた。向こうに気を取られているうちに、一気に行くぞ」


 シルバの一言で、全員が静かに動き出した。


 もともと人数が多いラグナ達の方に多くの魔族が配置されていた。そのせいでラグナ側の魔族達は油断していたようで、反対側がピンチになった時に『誰かが残っているだろう』と考え、ほとんどの魔族の意識がゴーレムに向いてしまった。

 その隙をつき、ラグナ達は予想よりもはるかに少ない戦闘で城の入り口にたどり着くことができた。


 その様子を探知で確認したアスカは、空間転移で反対側へとひっそり移動する。

 ラグナ達は、自分達の動きに気づいた魔族は全て倒してきたようなので、他の魔族が来る前に楽々城の中に入ったようだ。

 アスカは念のため、入り口の前にも土戦士ゴーレムを置いて後を追う。


「では、魔王の元へ向かおうか。魔族の集落で教えてもらった腹心も揃っているようだから、くれぐれも油断しないように」


 アスカが合流したところで、全員で城の奥にいる魔王の元へと向かう。ラグナの緊張した声を聞き、皆が一層気持ちを引き締めて城の廊下を進んで行った。

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