第120話 ひと時の休息

 先ほどまでの激戦が嘘のように、穏やかな波に揺られながら船は進んで行く。


 船の甲板ではグリモスとサンドラが、アスカが先ほど使った魔法について教えを請うていた。


「アスカさん、もう貴方が人類の脅威であろうとなかろうと、どうでもよくなりました。

 それよりも先ほどの魔法は雷操作の魔法ですよね? 私は【雷帝】と呼ばれている通り、雷操作を極めたと思っていたのですが、あんな魔法は見たことも聞いたこともありません。あれは一体何だったのでしょうか?」


「うむ、我が孫よ。わしも古代魔法を含め、知らない魔法はないと今まで思っていたのじゃが、あの魔法はわしも知らないものじゃった。わしも知りたい。あれは何だったのかえ?」


 やはり魔法を使うものにとっては、未知の魔法とは興味を惹かれるものなのだろう。2人の目はまるで子どものようにキラキラと輝いている。他のメンバーも2人ほどではないが、興味はあるのだろう。アスカがどんな説明をするのか、静かに耳を傾けていた。


(お兄ちゃん、なんて説明すればいいんだろう?)


(そうだな。魔法の説明はしていいと思うけど、なぜ使えるかってところは、『わからない』って言っておいた方がいいかな。あと"孫"については否定しておこうか)


「あの魔法は確かに雷操作です。Lv5より上位の魔法で、究極魔法と呼ばれているようです。あと、私はグリモスさんの孫ではないと記憶しております」


 サンドラは、まさかLv5魔法の上があるなど思ってもいなかったのだろう、驚きを通り越して感動しているようだ。そして、グリモスは孫を否定されるとは思ってもいなかったのだろう、驚きを通り越して固まっていた。


「どうすれば使えるようになるのでしょう?」


 あるとわかれば使いたくなるのが心情だ。次の質問は当然こうなる。


「それはちょっとわからないです。なぜ私が使えて他の方が使えないのか、見当もつきません」


 その回答に、サンドラの顔はあからさまにがっかりしていた。


(ちょっとかわいそうだけど、これでいい。あの魔法が広まってしまったら、世界が崩壊してしまうだろう)


「しかし、今の話が本当なら雷操作以外の究極魔法もありそうじゃのぅ」


 グリモスは炎操作の使い手なので、当然、炎の究極魔法が気になるのだろう。


太陽創造クリエイト・ザ・サンか……使う機会がないといいけど……)


(お兄ちゃん、太陽は大きさによっては、この世界をほろぼしちゃうんだよね?)


(ああ、そうだよ。本当に太陽が出現したら、海は蒸発し地表も焼き尽くされるだろうな)


(やっぱり、気軽に唱えていい魔法じゃないんだね)


(そう、こんな究極魔法が乱れ飛ぶ世界なんて想像したくないな)


「ある……とは思いますが、それこそ世界を滅ぼしかねない威力かもしれません」


「むぅ、それじゃと見た時には死んでおるかもしれないということかえ……未知の魔法と死か……どうすればいいんじゃ……」


(いやいや、死んじゃうなら諦めろよ!)


「私はグリモスさんに死んでほしくはないですよ」


 アスカの一言に、目を見開いて驚くグリモス。そして――


「おじいさんとして認めてもらえた!」


 勘違いして泣き出した。


(よし、このおじいさんは放っておこう)


「あと、どのくらいで魔王国に着きますか?」


 話題を逸らすために聞いたアスカの問に、シルバが答える。


「そうだな。さっきの戦闘でかなりの速度で走ったから、あと1日もあれば着くだろう」


「そうでしたか。今のところ、私の探知にも魔物はかかっていないので、しばらく戦闘はなさそうですね。今のうちに夕食をいただいちゃいましょうか?」


 アスカの一言に、食いしん坊のセーラが首を縦に振りまくっている。


「リヴァイアサンっておいしいのでしょうか? じゅるるる」


 セーラは先ほど倒したリヴァイアサンを食べる気満々で、よだれまで垂らしている。


 7人は船の中に入り、サンドラとアスカが作った簡単な料理を食べた。残念ながら、リヴァイアサンはアスカの魔法で中まで全て黒焦げになっていた。

 セーラがとてもがっかりしていたので、リュックの中からダークドラゴンやアダマンタイマイの肉を出して焼いてあげると、涙を流して喜びながら食べていた。


 食事が終わり、少し休憩を取る。いつ魔物が襲ってくるかわからないので、少しでも体力や魔力を回復するためだ。見張りは2人一組にして、最初はあまり疲れていないセーラとアスカで務めることになった。


「アスカさんって、おいくつなのでしょうか?」


 セーラが友達宣言した通り、フレンドリーに話しかけてきた。


「13歳です。セーラさんはおいくつですか?」


「私は16歳です。アスカさんって、すっごく強いから気にしていなかったけど、まだそんなにお若いのですね。本当ならまだお友達と遊んだり、お母さんと買い物に行ったりする年齢なのに……。それが強いってだけで、こんなところまで駆り出されて、何だかかわいそうです」


 セーラは、そう言ってうっすら涙を浮かべながらアスカを見つめる。


(こんなこと言ってくれる人、今までいなかったな……)


(うん。13歳として扱われたのってクロフトさん以来かも)


(懐かしい! あの時はアスカもこんなに強くなかったからな)


「ありがとうございます。あんまりそこに気がついてくれる人はいないので、そう言ってもらえるとちょっとほっとします」


 その後、見張りを交代するまで2人で最近流行のファッションや好きな料理、倒した魔物の話で盛り上がった。

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