第119話 究極魔法
「ハッ!」
ラグナがかけ声とともに、海中からもの凄いスピードで飛び込んできたマッドピラニアを、躱し様に一刀両断で斬り捨てる。シルバも比較的小さくて数が多いマッドピラニアは連切で、身体も大きく耐久力の高いデビルシャークは十文字切で、同じ一刀で切り捨てていく。
A級のクラーケンは、その身体が海面に現れた途端に、サンドラとクロムの
ラグナとシルバが討ちもらしたマッドピラニアは、グリモスが1匹ずつ確実に仕留めている。
海中で船に突撃している魔物は、ことごとくアスカの結界に弾き返されているが、その衝撃は伝わってくるので、その都度船が揺れて戦いづらいようだ。
「数が多すぎる! シルバ、あとどのくらい残っている?」
ラグナの声に、シルバが短剣を振りながら探知を働かせる。
「今、戦っている第一弾は残り100ってところだな」
「第一弾?」
ラグナは残り100よりも、第一弾という言葉の方に反応した。
「ああ、船の左右から今の倍の数が押し寄せてきやがった」
少数精鋭の弱点は、数で責められると体力や魔力が尽きてしまうところだ。普段なら、大群で攻めてくる魔物は大規模魔法で殲滅するのだが、海の中にいる敵ではそうもいかない。海面に上がってきたものを各個撃破していくしかないのだ。
「MPがやばいかもしれない!」
【魔法剣士】であるクロムは、剣と魔法の両方を使える代わりに、MPはそれほど多くない。当然だが、同じように魔法を使っていればサンドラやグリモスより先にMPが尽きてしまう。
「こっちの体力もきつくなってきた」
シルバも職業柄、長時間の戦闘には慣れていないようだ。
「グリモス、サンドラ、あとどのくらいいけそうだ?」
ラグナの言葉に2人は――
「第一弾までは何とか持ちそうじゃが、その後があるなら少々つらいぞえ」
「右に同じく」
実際、ラグナも似たような状況だったので第二弾が来ては耐えられないと判断する。
「シルバ、第二弾は第一弾を殲滅してからどのくらいで来る?」
「遅くても、10分以内だろう」
その10分でどうすれば第二弾を回避できるか考えるが、今も襲ってくる魔物を対処しながらなのでいい方法が思いつかない。
「第二弾に襲われたら、体力も魔力も持たない! 誰かいい方法はないか?」
ラグナは他のメンバーの知恵を借りようとするが、こうも断続的に襲われると逃げるのも難しい。誰もいい考えが思いつかないまま、第一弾の殲滅が完了した。
「とりあえず、船の速度を上げて行けるところまで行こう」
その言葉に従い、アスカは風を強くするが――
(絶対、魔物の方が早いと思うけど、追いつかれたら私が倒しちゃっていいのかな?)
(うーん、魔族を1人で倒しちゃったばかりだからな。あんまり1人でやり過ぎるのも良くないと思うけど、ここで船を壊されて全滅よりはましだろう)
(じゃあ、追いつかれたらやっちゃうね)
アスカの風操作で船の速度が上がり、30分ほど時間を稼いだがやがて魔物に追いつかれる。
「後ろから来るぞ、船の速度は維持したまま逃げながら対処する」
そう言うラグナを中心に、シルバとクロムが左右を固める。その後ろで、今まで治癒に専念してきたセーラも
サンドラやグリモスも残り少ないMPを
「まずい! ラグナ、魔物に囲まれてる!」
シルバが叫ぶのと同時に、船の四方八方から魔物が襲いかかってきた。当然、前衛3人では守り切れない。
「私がお手伝いしてもよろしいですか?」
みんなが切羽詰まったこの状況で、1人余裕を崩さないアスカの声が響いた。
「魔族を倒したばかりでMPに余裕があるのか!? あるならサポートを頼む!」
アスカはラグナがわざと自分を頼らないのかと思っていたが、そうではなく、MPがないと思って気遣ってくれていたのだとわかり、アスカと二人でちょっとほっとした。
「それでは、船を浮かせます。みなさん、落ちないように気をつけて下さい!」
「「「はっ?」」」
みんなの頭の上に『?』がついているが、時間もないので気にせず重力操作で船を浮かせる。急に的がなくなり、魔物達はただ海面でジャンプを繰り返しているだけになってしまった。
「下から大物が来るぞ! おそらくS級のリヴァイアサンだ!」
シルバが探知したのは、海では最も会いたくない魔物の1体であるリヴァイアサンだった。全長30mにも及ぶ、翼のないドラゴンのような姿をしており、水操作、水耐性、炎耐性など様々なスキルを擁する海の覇者である。
「うーん、関係ないですね。少し大きな魔法を使いますので、耳を塞いでおいてください!」
(アスカ、あれをやっちゃうのか!?)
「
アスカが唱える雷操作の究極魔法。一瞬でアスカを中心に半径50kmに及ぶ積乱雲が発生し、辺りが暗闇に包まれる。そして、次の瞬間、その積乱雲から数万本の雷が一斉に海に向かって落ちていった。
一気に電流が流れ、金色に染まる海。稲妻が着水する度に轟く轟音。幻想的な光の点滅。この世のものとは思えない光景に、全員が息をするのも忘れて見とれている。
永遠に続くかと思われたその光景も、実際には1分ほど続いただけで嘘のように雲が晴れ渡り、辺りに静寂が訪れた。
「こ、この魔法は一体……」
かろうじて言葉を発することができたのはグリモスだけで、残りのメンバーは放心状態で空に浮かんだ船の上から、リヴァイアサンを含めた無数魔物が海面に浮かんでいるのを見つめていた。
「あー、すっきりした!」
一方アスカは、自分が避けられているのではないかという不安と、船に絶えず襲ってきた衝撃にイライラしていたが、そのどちらも解消され今の天気のように晴れ晴れした顔をしている。
(あ、アスカ、この世の終わりかと思ったぞ……)
(そう? 何か、綺麗な光景だったよ!)
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