第116話 港町コンポート奪還
港町コンポートのすぐ近くで野営をしていた7人は、まだ日が昇らないうちから起き出し港町奪還作戦の準備を始めていた。
コンポートは30体の魔族で占拠されており、そのうちの5体が他の魔族に指示を出していることまで、シルバの探知でわかっている。この5体は魔物のランクでいけばS級に相当し、他の魔族もA-B級の者ばかりのようだ。
「昨日確認したとおり、まだ暗いうちに侵入して、1体ずつ確実に倒してく感じでいいかな?」
ラグナが昨日の作戦の確認を行う。
(アスカ、その作戦は辞めた方がいい。魔族の配置が昨日と変わっている。
おそらく、魔王討伐の情報が伝わってるのだろう。必ず3人以上がお互いを視認できる場所にいるから、1人倒しただけであっと言う間に全員に伝わるようになってるぞ。
おまけに町の北側にSS級の反応がある。これは
(ほんとだ、昨日はいなかったのにね。無理矢理連れてこられたのかな?)
特に反対意見がでなかったので、ラグナとシルバが並んで歩き出そうとする。
「あの、ラグナさん。ちょっと作戦を変更した方がいいかもしれません。魔族達は、私達がこの町に来るのを知っていたみたいです。配置が昨日と変わっていて、1人倒されるだけで、すぐ全員に伝わるようになっています。それに、昨日はいなかったのですが町の北側にSS級の魔物が控えているようです」
アスカの言葉にシルバがすぐに探知で確認する。
「っ! 本当だ。すまない、本来は私が気がつかなければならなかったのに。ラグナ、可愛いアスカの言う通りだ。作戦を変更した方がいい」
シルバがさりげないアスカ愛を織り交ぜながら、作戦の変更に同意する。
「そうか、突入する前に気がついて良かった。ありがとうアスカ」
ラグナも無理に作戦を決行せずに、臨機応変に対応してくれるようだ。
「しかし、そうなるとちょっとやっかいじゃのぅ。大規模魔法は町を破壊してしまうじゃろうし、1体ずつだとすぐにバレてしまうとなると、どうすればよいのかえ?」
「それに、もう日が出るまであまり時間もありませんわ。すぐにでも作戦を決めて行動に移さなくては、状況はもっと厳しくなってしまいますわね」
グリモスもサンドラも作戦変更には賛成だが、だからといって具体的な案がある訳ではないようだ。
「わざと捕まると言うのはどうでしょう?」
シーラがありがちな展開を提案するが――
「向こうが我々のことを知っているとしたら、油断はしてくれないだろうな」
ラグナの一言でその作戦は却下された。みんな頭を捻っているが、なかなかいい案が浮かばず、時間だけが過ぎていく。
(お兄ちゃん、何かいい作戦はないの?)
(うーん、いいかどうかはわからないが、アスカ1人でやるのが結果的には1番被害は少ないだろうな。ただ、それをやると"人類の脅威"という肩書きが現実味を帯びてしまうんだよな……)
(肩書きなんてどうでもいいよ。早く、町の人を助けてあげたいから)
「ラグナさん、いい案が出ないのでしたら私、ひとりに任せてもらえないでしょうか?」
アスカの突拍子もない申し出に、一瞬固まるメンバー達。魔族30体をひとりの少女に任せるなんて、普段なら決していいとは言わないだろうが……あの動きを見てしまった今、いや、見ることさえ出来なかったからこそ、この案が1番被害が少なくて済むと理解してしまう。
「しかし、それではあまりに……」
アスカひとりに任せてしまうのは気が引けるが、いい案が出ないので言葉に詰まるラグナ。
「私のことはあまり気にしないでください。早く町の人達を解放してあげたいんです」
町の人のことを持ち出されると、みんなもこの提案を認めざるを得ない。
「それじゃあ、くれぐれも気をつけてくれ。危険を感じたらすぐにでも戻って来てほしい」
ラグナはそう言いつつも、アスカが危険を感じる場面など想像も出来ないし、そんな状況になれば誰も逃げ切ることなどできないとわかっているようだ。
「はい、ありがとうございます。日が出る前に終わらせたいのでもう行きますね」
そう言い残して、アスカが目の前から消える。速いというレベルではなく、文字通り空間転移で姿を消したのだ。
「シルバ、アスカの動きは無理かもしれないですが、魔族の動きを探知しておいてくれませんか。できれば何が起こっているか実況してほしいです」
サンドラはアスカの心配というよりは、その実力を図りたいようだ。
「わかった」
そう言ってシルバは目を瞑り探知に集中する。
(アスカ、探知で全ての魔族の場所はわかっているから、周りから円を描くように中心に向かって倒していこう。お前の強さならB級もA級もS級も関係ない。1体1秒で倒していくぞ)
(うん、わかった。次に倒す魔族は必ず視界に入っているから、空間転移で移動だね)
アスカは頭の中でルートを再確認し、1人目を見つめるとその背後に空間転移し――
シュッ……
斬られた本人も何が起こったのかわからないまま、魔族の首が突然落ちた。その魔族を監視するはずの魔族も気がつく前に、自分の首が落ちている。
建物の中から周囲を監視している魔族には、無詠唱の
1秒に1体、誰も気づかないまま30秒で全ての魔族が絶命した。
「アスカの気配が消えた! む、魔族が1体倒されたようだ。あ、う、むむ、何!、えっ? あれ? はぁぁぁ!? …………終わった」
魔族達がランクに関係なく1秒に1体のペースで倒されていくので、実況が間に合わずシルバ以外は何が起こったのかわからないまま、魔族討伐が完了した。そして目の前に突然現れるアスカ。
「終わりました!」
「あ、お、お疲れ様?」
ラグナは何て声をかけていいのかわからないのか、間の抜けた返事をしている。
「アスカたん、すまないんじゃが、何が起こったのか教えてはもらえんじゃろうか?」
グリモスはアスカが空間転移を使ったことに薄々気がついているような感じだ。アスカに説明してもらうことで、自分の推測が正しいのか確かめたいのだろう。
「はい、魔族はお互いが見える位置に配置されていたので、空間転移で移動しながら倒していきました」
「じゃが、建物の中にいた魔族も倒したのじゃろう? 見えないところには転移できないはずじゃが」
「はい、建物の中の魔族は魔法で倒しました」
「「「!」」」
アスカとグリモスの会話に、一同が驚いて後ずさりをする。
(あーあ、やっぱりアスカが怖がられてしまったか……アスカは絶対に悪いことなんかしないのにな)
(お兄ちゃん、それはお兄ちゃんだから言えるんだよ。他人からしてみたら、自分よりも強い者は善悪に関係なく"脅威"なんだよ)
ラグナ達は、アスカを恐れていながらもそれを表情に出さないように頑張っている。しかし、この状況で気楽に会話を出来るほど、楽観視できるはずもなく、一同無言のまま、は町の人達を解放するために町の中心に向かう。
「私は
アスカも居心地が悪かったのだろう、そう言って空間転移で町の北側まで移動する。
アスカ以外の6名は、それぞれ思うところがありながら町の人達を解放しに行くのだった。
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