第114話 テリミスの森
翌朝、東門に7人のSランク冒険者が集まった。ここから、まる一日かけて港町コンポートまで行き、そこで一泊した後、船に乗り込む予定なのだ。
その後の航海は、順調にいけば3日目には魔大陸に着くだろう。魔大陸に上陸してから魔王国ダークネスまで2日、そこから先はどうなるかわからない。
「さて、あと【漆黒の天使】が来れば全員が揃うのかな」
リーダーのラグナが、集まったメンバーを確認する。実はアスカはもう東門に着いているのだが、ラグナが気づいていないのも無理はない。そう、今、アスカは黒いローブを身につけていないのだ。
昨日、2人で話し合い、魔王討伐は姿を隠さないで行こうと決めた。ここまで強くなれば、もう何があっても大丈夫だと確信しているから。
そういう訳で、ローブを着ていないアスカが6人に混じってちょこんと立っているのだが――
「ところでそこのお嬢ちゃんは、わしらに何か用でもあるのかえ?」
Sランク冒険者のパーティーの横で、さも自分も仲間であるかのように立っている美少女。誰もが違和感を感じていたようだが、あまりに堂々と立っているのでみんな突っ込むことができず、仕方なくグリモスがその役を買ってでたようだ。
「あ、すいません。みなさんこの姿は初めてでしたね。私です。アスカです」
アスカが自己紹介すると――
「えー! あなたがアスカさん? めちゃくちゃ可愛いじゃん!?」
(ありがとうサンドラさん。あなたの言う通りですよ)
「これじゃあ【漆黒の天使】じゃなく、ただの【天使】じゃねえかよ!」
(ラグナさん、さすが【剣帝】ですね。アスカを【天使】だと見破るとは)
「わしの孫になる気はないかえ?」
(グリモスさん、気持ちはわかりますがそれではレコビッチさんと変わりませんよ)
「負けた……」
(セーラさん、あなたも十分若くて可愛いですよ。ただ今回は相手が悪かっただけです)
「声だけではなく、顔まで可愛いとは」
(うーん、シルバさん? ハイデンと同じ匂いがするぞ?)
「やっぱりハイデンの代わりにうちのパーティーに……」
(お前は黙ってろ、クロムー!!)
(お兄ちゃん、クロムさんにだけに厳しい!)
(あいつの余計な一言で、どれほど苦労させられたことか!)
一通りの驚きと突っ込みが終わったところで、ラグナが気を取り直して出発の確認をする。
「朝からちょっとびっくりしたが、みんな準備はいいかな?」
その言葉に6人全員が頷く。
「では、出発するとしよう!」
ネメシスを出発して数時間後、2日前にアスカが救ったピリス村に立ち寄り、みんなで昼食を済ませた。
あれから2日しか経っていないのに、村の入り口にはもう『奇跡の村ピリス』という看板が掲げてあった。
さらには『奇跡饅頭』なるお土産まで誕生していた。白い饅頭に"鍬を振りかぶったおじいさん"、"ぐるぐるパンチをしている少年"、"飛ぶように走る若者"のどれかがプリントされているそうだ。
何ともたくましい村人達だか、実際に奇跡の村を一目見ようと、もう観光客が訪れ始めていた。
「ふぉれ、げっごぉうおぼぉしびぶぇずじょ!」
(『これ、結構美味しいですよ!』 と訳してみる!)
セーラは昼食を食べたばかりなのに、もう饅頭を頬張っている。とても魔王討伐に向かっているとは思えない緊張感のなさだが、魔物が出ればまた変わってくるのだろうか。ちょっと心配になってきた。
ピリス村を後にした一行は、さらに東にある港町コンポートに向かう。ピリス村ですら魔族に襲撃されたくらいなので、さらに東にあるコンポートが無事である可能性は低いだろう。
もしかしたら、7人の最初のミッションは港町コンポートの奪還になるかもしれない。そのための作戦を練りながら、テリミスの森の中を歩いて行く。
テリミスの森は昆虫系の魔物が多く、クイーンアントやキングアント、クイーンワプスやキングワプスなどがそこら中をうろうろしている。
さらにこの森は、夜になると死霊系の魔物が出ることでも有名で、リッチやダークリッチ、運が悪ければS級のロイヤルリッチに遭遇するかもしれない。
「ここからは、真っ直ぐ町を目指す」
探知を持つシルバが魔物を避けながら一行を案内してきたがこの先は魔物が多く、全て避けるとなると時間がかかりすぎるため、ここから先は魔物を蹴散らしながら一直線に町を目指すことになる。
「よし、みんないつでも戦える準備をしておいてくれ。できるだけ先制攻撃で倒したいから、シルバは魔物の場所を教えてくれ」
「了解」
ラグナの指示にシルバが簡潔に答える。
「アスカは探知Lv5だったよね。僕はアスカの指示で動こうかな」
(クーロームー! お前はまた余計なことを!!)
「「「えっ?」」」
当然、クロムとアスカ以外のメンバーは一言発して凍りつく。
「探知Lv5って初めて聞いたのですが、まさか貴重な『スキルクリスタル』を探知に使ったとでもいうのかしら?」
サンドラが頬をヒクヒクさせながら、『あり得ないでしょ』といった顔をしている。他のメンバーも似たり寄ったりの反応だ。
クロムは、そんなみんなの様子をニヤニヤしながら見ている。
(こいつ、こうなるとわかってて楽しんでるな!)
「あの、そうですね。そんな感じでお願いします」
みんな、色々聞きたそうな顔をしているが、あまり時間がある訳ではないので、いったんその話は置いておき、再びコンポート目指して歩き出す。
結局、ラグナの指示でシルバ、ラグナ、サンドラで左半分を、アスカ、クロム、グリモスで右半分を担当し、セーラは真ん中で両方のサポートを行うことにした。
「10時の方向、クイーンアント1体、キラーアント6体」
シルバが指を指すと――
「
サンドラの雷魔法が炸裂し、ラグナの剣が煌めく。あっと言う間にA級の魔物とB級の魔物が殲滅される。
そして、右側はというと
「2時の方向、キングワプス1体、ソルジャーワプス10体来ます」
アスカの可愛い声に、グリモスが孫を見つめる優しいおじいさんの顔になってしまっている。シルバもアスカの声がする度にチラチラ、アスカの横顔を見ている。クロムは『アスカ、倒しちゃっていいよ』って顔をして動かない。
(誰か動けよ、おい!)
「……グリモスさん?」
アスカの声にグリモスが我に返る。
「あー、
何も考えずに唱える炎操作Lv5魔法。A級のキングワプスだけではなく、森を焼き尽くす勢いで噴出する溶岩達。
「おい、森を焼き尽くす気か!? 早く消してくれ!」
ラグナが叫び声を上げた。
「す、すまん。しかし、わしは炎操作専門じゃ。溶岩は消せても、燃え移った火は消せんのじゃー!」
グリモスは自ら放った魔法で大慌てしている。
「
仕方なくアスカが水操作で消火活動に当たる。無事消火活動を終えて、ひと段落したところで――
「グリモス、アスカを孫だと思うのは当分禁止だよ」
サンドラの冷たい一言に、グリモスのうめき声が森に響き渡った。
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