第112話 ギルドの食堂にて

 そのグエンの説明をまとめると――


・魔王が復活しているというのは確定情報である。

・その魔王が軍隊を組織し、エンダンテ、クラリリス、ネメシスに進行してくるのは時間の問題である。

・すでに帝都には魔族が侵入している形跡がある。また、近隣の街や村にも潜んでいるようだ。

・今回の依頼は3国の王の連名で出されている。

・進行してくる魔族は、他の冒険者の力を借りて撃退する予定である。

・7人で海を渡り、魔王国ダークネスまで赴き、魔王城にいる魔王を討伐するのが最終目的である。


 という内容であった。


「今回の魔王の強さはわかっているのかえ?」


 グエンの話が終わるか終わらないかのタイミングで、グリモスが質問する。


「いえ、正確にはわかっておりませんが、200年前に倒された魔王より強いことは判明しております。と言うか、従えている魔族の質や量から、過去最強ではないかと……」


 ずっと表情を崩さずに淡々と話していたグエンだったが、その質問には一瞬苦い顔をして答える。


「過去最強となりますと、少なくとも闇操作Lv5、詠唱短縮、身体強化、全状態異常耐性あたりは持っていそうですね」


 聖都には過去に魔王を戦った時の文献が残っているのだろう、セーラが自分の知識をたどりながら過去の魔王と比較して答えているようだ。


「闇操作Lv5魔法はやっかいじゃのう」


 さすがグリモス、魔法に関する知識は幅広く持っているみたいだ。


「そんなにヤバいのかい? 闇操作のLv5魔法ってのは」


 グリモスとサンドラ、そしてセーラ以外はその効果をよく知らないのだろう。ラグナの問いに答えるグリモスの次の言葉に注目している。


「うむ。何せ即死魔法じゃからのう。レジストに失敗したら即座に死亡じゃ。救いは効果範囲が狭いってところだけだがえ」


 グリモスの説明に場が騒つく。


「私からの説明は以上になります」


 その騒ぎが収まる頃を見計らって、グエンが依頼の完了を告げた。


「後は、実際に討伐に向かうお主たちで作戦を相談してくれ。我が国で協力できることは、シルバに伝えているゆえ何でも相談するがよい」


 国王の言葉にシルバが静かに頷き国王とグエンが退室しようとしていたので、アスカはグエンを呼び止め、ここ1週間かけて調べた情報を伝えた。

 魔族が20体の居場所や行動パターン、強さなどを正確に教えていく。グエンはその情報の質の高さに驚いていたが、アスカにお礼を言い、この魔族達は必ず自分達で討伐すると約束してくれた。


 国王とグエンがこの場から立ち去ったことで、話は具体的な計画に入っていくのだが――


「時間もかかるだろうし、場所を変えてご飯を食べながら話をしないかい?」


 ラグナのその言葉で、空腹を思い出したのか満場一致でその意見が採用された。





「……それと、グリーンドラゴンのステーキをください」


 ここはギルドの酒場である。食事をどこでとるか意見が分かれたが、魔王以外の魔族の動きも確認しておきたいということで、結局、ギルドで情報を集めながら食事をすることになった。


 突然のSランク冒険者7人の来訪に、ギルドは異様な静けさが訪れている。これがSランク1人なら大騒ぎするのだろうが、7人ともなるとみんな腰が引けてしまっている。ましてや、普段姿を見せることがないグリモスやサンドラがいてはなおさらだ。


 そんな静けさを物ともせずに、大量の肉料理を注文してるのがセーラだ。彼女は、酒場の席に着いた途端、先ほどまでの控えめな態度が嘘のように場を仕切り始め、『誰が食べるんだよ!』と突っ込みたくなるほどの肉料理を注文し始めたのだ。


「わしは脂っこいもんは苦手じゃから、クイーンワプスの蜂蜜酒をもらおうかのぅ」


 グリモスに至っては昼間から酒飲むつもりだ。


「も、申し訳ございません。A級の魔物の食材はなかなか手に入らず、今は切らしておりまして……」


 Sランクの集団には、ウエイトレスでは対応できないので料理長が出て来たが、無茶な注文に脂汗をかいている。


(アスカ、リュックの中にどっちも入ってただろう? 料理長が困ってるようだから、出してあげなさい)


(はーい!)


「料理長さん、これを使ってください」


 アスカはそう言って、リュックからグリーンドラゴンの肉とクイーンワプスの蜂蜜を取り出す。料理長はそんな高級食材が簡単に出て来たことにびっくりしていたが、すぐに気を取り直し、アスカにお礼を言って嬉しそうに厨房に戻っていった。


「あ、アスカさん? そのリュックはどちらで手に入れたのですか?」


 アスカがリュックから食材を取り出すところを見ていたサンドラが、顔を引きつらせながら尋ねてくる。


「えっ? えーと、遠いところに行ってしまった兄が残してくれたものですが……」


 クロムは、かつての自分達と同じ反応をしているサンドラのことが、面白くて仕方がないといった感じで、ニヤニヤしながら目の前に置かれたコップの水を飲んでいる。


「ちょ、ちょっと見せてもらってもよろしいでしょうか?」


「サンドラよ。魔法道具マジックアイテム収集家のお主がそんなに興奮するのは珍しいことよのぅ。そのリュックはそれほどのものかえ?」


 グリモスはリュックにはそれほど興味はなさそうだが、サンドラの態度が気になったようだ。


 アスカからリュックを受け取ったサンドラは――


「やっぱり、このリュックには空間拡張が付与されていますね!?」


「ほう、そいつは珍しい。時空魔法かえ」


(このグリモスじいさんは、何でも知ってるな)


「その通りです。これは古代遺跡から見つかったものですね!?」


 サンドラが『どうだ間違いないだろう!』って顔をしているので――


「ええ。まぁ、そうかもしれないと言うか……」


 アスカもその流れで誤魔化そうとする。がしかし!


「へご、ふぉのふゅっくっふぇ、ほきょのぶぁいへぇぇんにうっぺぇるもふぉとおひゃひひゃにゃはいでひゅは?」


「……セーラよ。口の中に物を入れたまましゃべるなと、親御さんに教えてはもらっておらぬのかえ?」


(うおー! びっくりした! 宇宙人が現れたかと思ったわ。ミーシャがいなくて寂しくなると思ったが、新たな逸材を見つけてしまったのか!?)


「グリモスさん、ごめんなさい。確かにそう教わりました」


「素直でよろしいぞ。ところで、お主は何て言おうとしたのかえ?」


「えーと、大したことじゃないのですが、アスカさんのそのリュックって、そこの売店に置いてあるのと同じじゃないのかなと思いまして……」


 その場の全員が、売店のリュックとアスカのリュックを交互に見比べる。全く同じ色、形、大きさのリュックが売店に置いてある。


「…………」


 みんな固まっている。そしてクロムの爆弾発言が――


「ああ、そのリュックってカイザーキマイラの氷漬けが入ってたやつだろう? 2週間経っても凍ったままだったから、時間停止も付与されてるよね?」


(こいつ、わざとアスカを困らせてるんじゃないだろうな?)


「…………」


(お兄ちゃん、みんな固まっちゃったね……)


(この金縛りが解けた時が恐ろしい……)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る