第110話 ピリス村の奇跡
ラグナとセーラが到着してから、2日後【炎帝】グリモス・ベイサイドと【雷帝】サンドラ・ウィッチモンドが同時に帝都に到着した。
2人を鑑定してみると、予想通りグリモスは炎操作Lv5と詠唱短縮をサンドラは雷操作Lv5と詠唱短縮を持っていた。おそらく、このLv5を持っている2人に、魔王へのメインアタッカーになってもらうつもりなのだろう。
そして、この2人を観察している時に、俺はピリス村で魔族に動きがあるのを察知した。10体の魔族がピリス村に向かっていたのだ。
(しまった! 鑑定していて気づくのに遅れた。アスカ、ピリス村に急ごう!)
空間転移でピリス村の近くに転移し、すぐに村に向かう。アスカが到着した時には、丁度、魔族が村人達に襲いかかっているところだった。
子どもをかばって、背中に火の玉を受ける母親。
(アスカ、魔族を倒すだけじゃなく、プライドを粉々にしてやれ!)
「それならこれ!
「お母さんをいじめるな!」
母親に守られた子どもが、今度は背中に火傷を負った母親を守るために魔族に向かっていく。母親は傷のせいでそれを止めることができない。両手を振り回し向かってくる子どもに対し、薄ら笑いを浮かべる魔族。その子の右手が魔族の足に当たる寸前、聖なる結界が2人を覆った。
ボコッ!
一気に弱体化した魔族の足が、強化された子どものぐるぐるパンチよってぶち折られる。
「うぎゃー! 足が、足がー!」
片方の足があり得ない方に曲がってしまった魔族が、地面をのたうち回っている。
(子どもにやられる魔族……)
「何だ! どうなってやがる!?」
それを見ていた魔族が慌てながらも、子どもに魔法を放とうとする。
「ダメ!」
アスカの
ドォゴ!
見事に命中したその石は、子どもに魔法を放とうとしていた魔族の頭を陥没させた。
(お母さんナイスコントロール!)
鍬を持ったおじいさんはよろめきながらも、魔族に近寄りその鍬を力なく振り下ろす。魔族が、残酷な笑みを浮かべながらその鍬を受け止めようとした瞬間、聖なる結界が2人覆った。
急に加速した鍬が、それを受け止めようとした魔族の腕を切断する。
「「はい?」」
奇しくも、同じ言葉を放って見つめ合うおじいさんと魔族。
「う、腕がーー! 俺の腕がーーーー!」
「力が、力がみなぎっちょるーー!」
先ほどとは立場が逆転したおじいさんは、笑顔で魔族に鍬を振るっている。
(鍬術ってあったっけか?)
魔族に追いかけられた若者は必死に逃げるが、魔族の身体能力に敵う訳もなく追いつかれ腕を捕まれた。その瞬間に聖なる結界が2人を覆う。
「ちょ、ちょっと待った。とまっ……ゴフ、止まってぇ……ゲフ」
腕を捕まれながらも、その魔族を引きずりながら逃げる若者。引きずられている最中に、壁や地面にぶつかる魔族。若者が異常な事態に気がついて止まった時には、魔族は全身ボロボロになっていた。
(若者よ! なぜそこまで引きずっておいて気がつかない!)
村の至る所で村人達の反撃が始まり、魔族達がどんどん倒れていく。
「なぜだ! なぜここの村人はこれほどまでに強いのだ!?」
魔族達を手引きしたであろう、もともとこの村に潜んでいたリーダー格の魔物が、全く理解が出来ないといった顔で叫んでいる。
そこに、襲ってきた魔族があまりに弱いことに気がついた村人達が集まり、リーダー格の魔族を取り囲んだ。
「待ってくれ、これは何かの間違いだ。そうだ、話し合おう。暴力反対!」
哀れな声で懇願する魔族。笑顔でにじり寄る村人達。
「うぎゃー! 助けて……グゥ、くぅれ……ゲェフ」
他の魔族も全て村人達に倒されており、このリーダー格の魔族が最後の1体だったようだ。
「お母さん、僕も1匹やっつけたよ!」
「ばあさんや、わしの鍬捌きを見たか?」
「マイハニー、俺の逃げ足の速さを見せたかったよ!」
魔族を倒した村人達は、自分達の活躍に酔いしれているようだ。しかし、聖なる結界の効果が切れると――
「あれ? 普通のパンチに戻っちゃった」
「力が、力が抜けていく~」
「いてて、足がもつれて転んじゃったぜ」
強化されていた身体能力が元に戻る。
「お母さん、あれはピンチの時だけに使える親子の愛の力だったのかな?」
「はて、あの力はいったい何じゃったんじゃろう? わしの祈りが神様に届いたんじゃろうか?」
「俺の真の力は、魔族相手にしか発揮されないようだな!」
まあ、解釈の仕方は人それぞれだし、あれだけ派手に光りながら魔法を使ったアスカを、誰も見ていなかったのが不思議だが、
帝都に戻ると何やらギルドの方が騒がしいので、様子を見に行ってみると……
「そうです! 急いでください! 早くしないと村のみんなが……うぅ」
どうやら、魔法通話か何かで村の危機を知った村の関係者っぽい女性が、ギルドに応援をお願いしているところだった。
「急いで討伐隊を編成しますが、魔族が10体以上となると並の冒険者ではとても……」
受付嬢も何とかしてあげたい気持ちはあるのだろうが、現実問題として魔族10体を相手に戦える冒険者などそうそういないのだろう。
「そうだ! 今、Sランク冒険者様が来てらっしゃるのですよね? その方達に頼むことはできませんか?」
その女性が、わらにもすがる思いでお願いしている。
「来てることには来てるのですが、どうやら王宮にいるらしく、こちらから依頼をすることは難しいかと……」
「そんな……」
女性があまりに絶望的な表情を浮かべているので、可愛そうになったアスカが助け船を出した。
「あの、お取り込み中すいません。今の話はピリス村のことでしょうか? もし、そうでしたらあちらの方で神々しい光が見えたので、もしかしたら何とかなっているのかもしれませんよ。魔法通話ができるのでしたら確認してみてはいかがでしょうか?」
その女性はアスカの話を聞き、慌ててどこかに走って行った。そして、数分後に戻って来てアスカの手を握りながら、お礼を言う。
「あなたの言うとおりでした! 魔族に襲われた直後に、村に明るい光が満ちたと思ったら、村の人達が急に強くなって魔族を倒しちゃって! 私のおじいちゃんも鍬で魔族をやっつけてやったって自慢してました!」
(あのじいさんの孫かい!)
アスカが早めにこの国に来て周辺を見回ってたおかげで、ピリス村も救うことができたのだ。
(アスカが毎日、気にしてたおかげだな。偉いぞ、アスカ!)
(ううん。周囲の警戒も襲撃に間に合ったのもお兄ちゃんのおかげだよ。ありがとう、お兄ちゃん!)
たったこれだけの会話だが、帝都に来て良かったと思えた。
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