第109話 剣帝と聖女

(結構いるな)


 帝都だけでも20体の魔族が入り込んでいた。王城に5体、軍事施設に5体、研究所に5体、あとはバラバラに5体だがそのうち1体は東門にいる。おそらく、兵士になりすましたこいつは、後から来た魔族を中に入れる役目だろう。


 3日間かけてこの魔族達の行動パターンを調べる。さらにそこから5日間かけて、帝都周辺の街や村の状況も調べた。そこでも少数ながら、魔族の姿が確認できた。

 その中でも特に気になったのが、帝都の東側にある"ピリス"という村だ。帝都の東側ということは、魔王国ダークネス側に位置することになるのだが、小さいこの村に3体もの魔族が潜んでいた。おそらく、帝都に進行してくる時の拠点にするつもりなのだろう。


(お兄ちゃん、どうしようか?)


(帝都からここまでは40kmくらいか。それなら十分探知は届く距離だから、この村は常に警戒しておいて何かあったら空間転移で駆けつけるとしよう)


(了解!)


 帝都周辺の調査を一通り終えると、約束の日まで残り7日間となっていた。念のため、この7日間で前衛用の腕輪と後衛用の指輪を作って、闇操作対策に属性や状態異常の耐性を付与しておくことにした。必要があれば、魔王達との戦闘の前に渡すつもりだ。





「今日はSランク冒険者が2名、到着予定ですよ!」


 朝からギルドに顔を出したアスカに、以前対応してくれた受付のお姉さんが教えてくれる。


「そうなのですか? どなたが来られるのでしょう?」


「神聖王国クラリリスから【聖女】セーラ・クラリリス様が、それから今はどちらの国にも所属していませんが【剣帝】ラグナ・ライトベール様が到着されます! ちなみにネメシスの【隠密】シルバ様はもともと帝都にいますので、7名中3名が今日中に揃うことになります」


「なるほど。残りの4名がいつ到着するかというのはわかりますか?」


「詳しい日まではわかりませんが、3名は2~3日中に到着すると思います。エンダンテ王国の【魔剣王子】クロム・ロイ様、フリーの魔道士、【炎帝】グリモス・ベイサイド様、同じく【雷帝】サンドラ・ウィッチモンド様です」


 Sランク冒険者については、学院の授業で教えてもらっている。【炎帝】と【雷帝】は公言はしていないが、Lv5スキルを所持しているらしい。二つ名から考えても炎操作と雷操作だろうな。


「最後の1人はいつくるんでしょうね?」


 アスカは、自分のことと知りつつ聞いてみる。おそらく、自分にも二つ名がついているのか気になっているのだろう。


「えーと、【漆黒の天使】様ですね。実はこの方は最近Sランクになられた方で、全然情報がないのですよ。素性をお隠しになられているようで、いつも漆黒のローブを着ているそうです。

 唯一情報を提供してくださった冒険者さんが、『天使のように可愛い声だ』って仰っていたので【漆黒の天使】様と呼ばれています」


(ぶわぁはっはっはっは! 【漆黒の天使】ってこの情報提供者って絶対ハイデンだろ!)


(おにいちゃーん、恥ずかしいよぅ。この変なあだ名って変えれないのかな?)


(無理だろ! そしてぴったりだから変えなくていい!)


「そういえば、あなたの声も可愛いわね。見た目もいいから本当に天使みたい!」


「あ、ありがとうございます」


(ありがとう、お姉さん! 俺もそう思うよ!)


 そんな話をしていたら、俺の探知が2つの高レベルの反応を捉えた。おそらくこれが、セーラとラグナだろう。2人一緒に馬車に乗っているようで、ここから100kmのところにいるからあと3時間ほどで到着するはずだ。


(アスカ、あと3時間ほどでセーラとラグナが到着しそうだから、帝都周辺を見回ってからこっそり正門に行って2人が来るのをこっそり見学しよう)


(ラグナさんって、キリバスさんのお父さんだよね?)


(そうそう、キリバスから父上によろしくって言われてるけど、それはあくまでも黒ローブのアスカだから、実際に顔を合わせる時にはローブを着ていこう)


(わかってる。今日は見るだけね)


 天使と言われたのが恥ずかしかったのか、顔を赤くしたアスカは受付のお姉さんにお礼を言って立ち去った。





 帝都周辺の見回りを終えて、アスカは正門近くの食事処に入りお昼ご飯を食べながら2人が入ってくるのを待っている。


(来たぞ、アスカ)


 海鮮丼に夢中になって、2人が来たことに気づいていないアスカに教えてやる。


 ラグナはキリバスと同じ青い髪に青い目で、痩せてはいるが鍛えられた体つきをしているイケメンのおじさんだ。セーラは白いローブを羽織り、裾からは白いスカートと白いブーツが見えている。全身白で統一した、いかにも聖女といった出で立ちだ。アスカと同じくらい小柄で、フードの隙間から少し見えてる髪と大きな目は、銀色でかわいらしい顔立ちをしている。



名前 ラグナ・ライトベール 人族 男

 レベル 100

 職業 剣豪

 ステータス

 HP 495

 MP 240

 攻撃力 535

 魔力  240

 耐久力 466

 敏捷  462

 運   364

 スキルポイント 1304 

スキル

 剣術   Lv4

 身体強化 Lv4


名前 セーラ・クラリリス 人族 女

 レベル 100

 職業 聖者

 ステータス

 HP 360

 MP 483

 攻撃力 287

 魔力  483

 耐久力 302

 敏捷  407

 運   611

 スキルポイント 329 

スキル

 治癒   Lv4

 光操作  Lv4

 結界   Lv3


(ふむふむ、これがSランク冒険者か。さすがにレベルは100にしてあるな。でも、ステータス的にはキリバスは父さんを超えてるな。キリバスは剣術Lv5を目指してるから、身体強化のLv差の分、装備なしで戦ったら負けちゃうかもしれないけどね。セーラにしても、うちのソフィアの方が上だな。あの2人はすでにSランク冒険者を超えてるよな)


(ま、王都の守りは完璧ってことでいいんじゃないのかな?)


(そういうことだね、漆黒の天使さん! ぷぷぷ)


(もう! やめてよね!)


 そうこう言っているうちに、2人は王城に真っ直ぐ向かっていく。


(…………もしかして、俺たちも王城にあいさつに行った方が良かったのかな?)


(…………そうみたいだね。でも、聞いてないから仕方ないよ。みんな揃ったらいけばいいんじゃない?)


(そうしようか。それまで魔族の動きを監視しておこう)


 こうして、アスカ以外のメンバーが来るまで帝都の安全を守ることにしたのだった。

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