第108話 軍事帝国ネメシス

 エンダンテ王国から軍事帝国ネメシスまでは、馬車で1ヶ月ほどかかるようだ。一緒に依頼を受けたクロムは、すでに出発しているらしい。アスカも今からだと間に合うかどうか微妙なところだが、まずは馬車で向かうことにした。

 直接、ネメシスに向かう馬車はないので、色々な街へ行く馬車を乗り継ぎながら向かう。


 途中の街や村で情報を集めると、王都付近に魔族が出たという話は聞かなかったが、軍事帝国やその付近の街には人間に偽装した魔族が見つかることがあるという。

 基本的に魔族は自分達の国から出ないはずなので、この話が本当ならば魔王国ダークネスは、本格的に戦争の準備に入っているということになる。


 王都を出発してから1週間、色々な街や村に寄り道しながら進んだため、思ったよりも時間がかかってしまった。


(アスカ、ちょっと時間がかかっているから、ここからは空を飛んで行こうか)


(そうだね。今のところ必要な情報は集まったし、遅刻したら大変だから明日から飛んで行こうかな)





 次の日から、重力操作と風操作を併用し、ネメシスに向かって真っ直ぐ飛んで行く。遮る物は何もないので、馬車ならあと20日間かかるところをたった5日で到着した。


 軍事帝国ネメシスはその周囲を外壁が囲い、他国からの来訪者を拒んでいるように見える。実際に魔王が戦争を仕掛けなければ、その通りの役割を果たしていたのだろう。


 アスカは怪しまれないように、正門より少し離れた空き地に降り立つ。


(お兄ちゃん、何だか凄い大きな壁と門だね)


(ああ、あんまり歓迎されてるって気はしないな)


 しかし、今回はネメシスの国王も含めての依頼となるので、遠慮している訳にもいかず正門まで歩いて行く。念のために、黒いローブを纏ってだ。


「ここには何の用があってきた?」


 正門で入国検査を行っていた兵士に止められたので、事情を説明しSランクの冒険者カードを見せる。


「こ、これは失礼しました! どうぞお通り下さい!」


 入国検査はかなり厳しく行われており、荷物を検査されたあげく没収されたり、入国自体が拒否されている人達が少なからずいる。その中で、明らかに怪しい格好なのに検査もされずに、兵士に敬礼までされての入国は非常に目立ってしまった。


 それにしても、途中から空を飛んだため、予定よりも14日ほど早く着いた。早く着いた分、情報を集めたりネメシスを見て回ることにしようかな。


 ネメシスは軍事帝国と言われるだけあって、軍人の数が非常に多いみたいだ。周りを見渡しても、至る所で軍から支給されたと思われる濃紺のライトメイルを着込んだ兵士が目に入る。おそらく、いつ召集がかかってもいいように、日頃から鎧を身につけているのだろう。


 それから王城を中心に、立ち入り禁止の場所がいくつかある。軍の施設や研究所、またそれらの関係者が寝泊まりする場所などが該当するようだ。


 商業地区の方を見てみると、こちらも軍事帝国らしく武器や防具の店が立ち並んでいる。また、海が近いこともあり、食事処は海産物を扱っているところが多いようだ。王都にはほとんどなかったので、アスカはすでにお昼ご飯を食べる場所を探し始めている。


(そうだアスカ、ここにもギルドがあるかもしれないから、探してみようか)


(うん、ギルドで情報を集めてからお昼ご飯だね!)


(アスカは寿司とか好きだったもんな。久しぶりの海鮮だから楽しみなんじゃない?)


(すっごい楽しみ! でも、そういうお兄ちゃんは、河童巻きと納豆巻きしか食べれなかったね)


 転生する前はあまり裕福とは言えなかったので、寿司なんて数えるほどしか食べたことはないが、俺が食べれない寿司をアスカにあげたら、めっちゃ喜んでくれてたことを思い出す。


(あかん、また涙が……)


 そんな感傷に浸っていると、アスカはすぐにギルドを見つけたようで、そちらに向かって歩き始めていた。


 ネメシスのギルドは王都ほどは大きくなかったが、それなりに立派な建物で、多くの冒険者と兵士で賑わっていた。どうやらここでは、冒険者だけではなく兵士もクエストを受けることができるようだ。


 そして、張り出されているクエストはというと、武器や防具作成に使う鉱石採掘や、戦争になった時に使う各種薬品の素材となる薬草採集が目立っている。あと変わったものといえば、"帝都に潜んでいる魔族を見つけ出す"というクエストがあった。


「いらっしゃいませ、冒険者登録ですか?」


 クエストボードを見ていると、受付のお姉さんに声をかけられた。今日は帝都探検だからローブを着ていなかったので、13歳のアスカは初心者と間違われたわけだ。


「あ、いえ、一応、冒険者登録は済んでいます」


 Sランク冒険者とは思えない、ぎこちない返答だ。


(強くなっても初々しい。そこもアスカの可愛いところだな!)


(急に声をかけられたから、びっくりしただけだよ!)


「それは失礼いたしました。何かクエストを受けられますか?」


「あの、実は私、ついさっきこの国に来たばかりでして、少し教えてもらいたいことがあるのですが、よろしいでしょうか?」


「はい、 私が答えれることでしたら何でも聞いてください」


 受付のお姉さんが、現在わかっている魔族の動きやそれに対するネメシスの対応、Sランク冒険者がここ帝都に集まること、オススメの宿や美味しい海鮮を食べれるお店など、色々教えてくれた。


 やはり、魔族の動きが活発になっており、帝都付近でも目撃情報が多発しているそうだ。

 もっとも、魔族は隠蔽や闇操作を生まれつき持っていることが多く、人族に偽装されると見分けがつきにくい。目撃した情報が全て正しい訳でもないだろうし、逆に帝都にもう入り込んでいるかもしれないな。


(アスカ、まだ他のSランク冒険者は来てないみたいだから、帝都とその周辺を探知して、どのくらい魔族がいるのかチェックししておこうか)


(そうだね。その方が集まってから調べるより、時間がかからないですむよね)


 という事で早速、探知を使ってみると…

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