第107話 死霊王の邂逅 そして出発
〜side 死霊王〜
我は
我が誕生したのが、いや、死んだのが1800年前。
死んでから、レイス、リッチ、ダークリッチ、ロイヤルリッチと順調に進化していき、この世の最強の一角となる
あいつは突然やってきた。人間のくせに空なんか飛んで我らの前に現れたのだ。
ここは
ところが今日はその70層を突破して、十数人のパーティーが我らの前に現れた。あの2体をやっつけるなど、なかなかの強さのパーティーだと思い感心していたのだが、強いのはパーティーじゃなかった。あの子だった。
もし、我が生きている頃なら惚れてしまったかもしれないほどの美少女で、とんでもない強さを秘めていた。何せ、『ハッ』で配下が吹き飛ばされ、『ハクション』でロイヤルリッチが消滅し、『フッ』で我の最高の魔法が吹き飛ばされたのだから。
もう謝るしかなかった。速攻で土下座した。そして我らは許された。切り替えが早いのが生前からの特技で良かった。
その後は、お詫びにロイヤルリッチにオリハルコンの採掘を手伝わせ、我はその子と、その子のパーティーメンバーと一緒にお茶を楽しんだ。1800年ぶりのお茶会である。もちろん飲めはしない身体だが、香りを楽しむことはできる。おかげで人間だった頃を思い出した。
この
また来るといいな、アスカ様。
〜side ショウ〜
その瞬間、ギルドは蜂の巣をつついたような騒ぎになり、あれよあれよという間に次の日、お祭りが開催されることが決定してしまった。
"ホープ"のメンバーには冒険者が群がり、彼らは最深部には何があったのかを聞きたがった。もちろん、みんなの楽しみを奪うわけにはいかないので、『ぜひ自分で確かめてほしい』と答えるようにしておいた。
ちなみにアスカは、謎のメンバー扱いが気に入っているようで、ひとり宿でお留守番をしている。
次の日のお祭りは、"最深部到達祭"というセンスのないネーミングで行われた。"ホープ"のメンバーは祭りの主役として舞台に上がるが、アスカはお留守番していたおかげで、観客としてお祭りを楽しむことができたようだ。
そして、最深部到達という快挙はあっと言う間に広まり、クラン"ホープ"の名声はますます高まっている。当然"ホープ"に入りたいと望む冒険者も爆発的に増えるだろうが、当面、メンバーを増やす予定はないので、ミーシャが頑張ってお断りをすることになるだろう。
ここはハウスの会議室。あのお祭りから、丸1日かけて戻って来たクラン"ホープ"のメンバーが集まっていた。
「やっぱり、おひとりで行かれるのですか?」
明日、軍事帝国ネメシスに向けて出発することしたアスカに、ソフィアが心配して声をかけている。
「はい。ですがひとりといっても他のSランクの冒険者もいますので、大丈夫だと思います」
「むしろ、他のSランク冒険者の方が心配だね……」
「そうですね。アスカさんを見て、驚かないと良いのですが……」
「それは無理だろう」
「そうですよね」
ノアとクラリスが、ヒソヒソと不吉な会話をしている。
「父上も参加すると言っていたので、黒ローブの方のアスカを話しておいたから、よろしく伝えておいてほしい」
この討伐には【剣帝】も参加することになっている。【剣帝】とはつまり、キリバスの父のことだ。
「はい。キリバスさんのお父様に会えるのは楽しみです!」
アスカは他のSランク冒険者に会えるのを楽しみにしており、中でもキリバスの父に会えるのを1番の楽しみにしているのだ。
「何というか結構軽い感じだから、あんまり期待しない方がいいと思うけど……だけど、アスカの強さを目の当たりにしたら、どんな反応をするのか見てみたかったな」
キリバスは、それを見ることができないのが残念そうな顔をしている。
「アスカにしばらく会えなくなるのは寂しいな」
ゴードンのセリフは決しておかしくはないんだが……おかしくはないんだがゴードンが言うと何かが違う。
「魔王が動けば、その軍勢が王都にも来るかもしれませんので、みなさんも十分に気をつけてください」
そう、魔王が討伐隊が派遣されたことを知れば、ここぞとばかりに軍勢を動かしてくるかもしれない。そうなれば各地で戦争が起こるだろう。ここ王都では、クラン"ホープ"の戦力が多分に期待されているはずだ。
「そこは任せてもらおうか。そのためにレベルを100まで上げたのだから」
トーマが親指を立ててアスカの方に向ける。
「アスカの前で格好つけるな……」
ゴードンの呟きは暗黙の了解で無視された。
「さっさと魔王を倒して戻ってこいよ!」
アレックスは、万が一にもアスカが負けるとは思っていないようだ。
「みなさん、ありがとうございます。それでは行ってまいります!」
「アスカさん、帰ってきたら盛大にパーティーしましょうね!」
少し涙目になって送り出してくれたミーシャの言葉に手を振って応え、アスカはネメシスへと出発するのだった。
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