第105話 最終階層到達

 今の戦闘で、全員レベルが6つ上がった。S級1体で3つ上がる計算なので、1番レベルが低いソフィア、クラリス、ノアが83になった。あと6体S級を倒せばみんな100になるだろう。


 一行は70層を超え、さらに下へと進んでいく。72層で1体、74層でさらに1体ロイヤルリッチを倒した。先ほどの経験も役に立っており、1体だけならアスカ以外のメンバーで倒すことができるようになっている。77層にはヒュドラが、80層にはカイザーキマイラがいたが、こちらは経験済みなので問題なく片付けた。


 今のところS級が2体一度に出てきたのは70層だけだったので、あの層だけが異常に攻略が難しかったということになる。最深到達点が、70層で止まっていたのもそのせいだろう。

 82層と84層で再びロイヤルリッチを倒し、無事全員のレベルが100に達した。そしてアスカは……


(アスカも上限の200まで上がりきったか、ちょっとドキドキするけど確認しておかないとな……)


 名前(ヒイラギ)アスカ 人族(半神)女

 レベル 30(200)

 職業 賢者(到達者)

 ステータス

 HP  136(8315)

 MP  146(8325)

 攻撃力 136(8315)

 魔力  156(8335)

 耐久力 136(8315)

 敏捷  146(8325)

 運   146(8325)

 スキルポイント 294(185215)


(はい。到達しました。おそらくこれが人類最高峰ですね。くしゃみしたら街が一個消滅しそうな強さです)


(お兄ちゃん、何か力が溢れ出てくる。もう何でも出来そうな気がしちゃう)


(これ、魔王も泣いちゃうんじゃない?)


(魔王には会ったことがないけど、何が来ても負ける気がしないよ、お兄ちゃん)


(よし、やりすぎたら困るから、この地下迷宮ダンジョンを出たら、また自分に呪いをかけて、ステータスを10分の1にしておこう)


(了解! お兄ちゃん)


 みんな、レベルが100に上がり嬉しそうな顔をしているが、その中でひどく緊張した顔つきのメンバーがひとりいる。そう、『スキルクリスタル2500』を持っているソフィアだ。

 この時のために使わずに取っておいた『スキルクリスタル2500』を、今使う時が来たのだ。『スキルクリスタル』を取り出したソフィアを見て、周りもハッとして息をのむ。誰も『スキルクリスタル』を使うところを見たことがないので、固唾をのんで見守っている。


「では、いきます……ゴクリ」


 ソフィアはクリスタルを両手に持って、頭上に掲げる。魔力が込められたクリスタルから光の粒が溢れだし、ソフィアの両手に吸い込まれていった。ソフィアの前身が淡く光り、段々とその光が収まっていく。


「ど、どうなったの?」


 ミスラが緊張した面持ちで口を開く。


「す、スキルポイントが5、5004になりました」


 答えるソフィアの声が震えている。


「「「おぉー!」」」


 みんなも興奮して叫び声を上げている。そして、その時が訪れる――


「スキルを選択します。水操作……Lv5を習得しました!」


「「「おめでとー!!」」」


 ソフィアの報告にみんながお祝いの言葉をかける。一頻ひとしきり盛り上がった後、ソフィアがアスカの前に立った。


「アスカさん、ここまでこれたのはあなたのおかげです。本当に感謝しています。ありがとう!」


 そう言ってソフィアはアスカをギュッと抱きしめる。もう家族に抱きしめてもらうことができないアスカは、自分を抱きしめてくれる家族同然の仲間のおかげで、もう一度その幸せを感じることができた。その嬉しさから、声を出して泣いている。その様子を見た他のメンバーも、目を潤ませていた。


(うわーん、アスカー、よかったなぁ!)


 俺もまたまた号泣だよ!


「……俺もギュッと抱きしめたいな……」


 ゴードンがぼそっと呟いた一言で、全員の涙が一気に引いていく。


「さ、感動の場面はここまでにして、ちゃっちゃと最終層まで行っちゃいますか」


 キリバスが自身も『スキルクリスタル1000』をさっさと使い、ゴードンの言葉を無視して先に進む。


 次に出会ったS級は86層のダークドラゴンだった。ソフィアがドキドキしながら覚え立ての魔法を披露する。


大津波ダイタル・ウェーブ!」


 その瞬間、一気に現れた大量の水でみんな溺れた。ダークドラゴンはおろかクラン"ホープ"のメンバーも全員溺れた。『狭い地下迷宮ダンジョンで使うとこうなる』といういい教訓になってしまったようだ。


 アスカが重力操作でみんなを空中へ引き上げる。そのままの状態で待つこと十数分、ようやく水が引いた後には、息絶えたダークドラゴンが横たわっていた。


「申し訳ございません」


 ソフィアがみんなに平謝りする。


 まあ、仕方ないよね。誰だって新しい魔法覚えたら使いたいと思うよね。


「みんな無事だったし、大丈夫ですよ!」


 アスカが優しくフォローを入れた。


「そうそう、ちょっと濡れちゃったけどダークドラゴンも倒せたし――」


 ずぶ濡れのキリバスも怒ってはいないようだ。ただ、しぼっている袖からは大量の水が流れ落ちている。


「ただ、使う場所はちょーっと選んでほしいかな」


 同じくずぶ濡れになったジェーンは、髪をしぼりながら苦笑いをしている。


 その後は、アスカのサポートで安定してS級の魔物を狩っていく。そしてついに100層に到達した。


「ここが最下層のようですね」


 ここより下では魔物が探知されないので、ミーシャはここが最下層だとわかっているようだ。


「噂通り100層だったか。それでここには何かありそうかい」


 地下迷宮ダンジョンの最下層で取れる鉱石に興味があるアレックスは、安全が確保できればすぐにでも鉱石掘りを始めるだろう。


「はい、1番奥に今まで感じたこともないくらい大きな魔力を探知しました。おそらくS級のロイヤルリッチより上だと思います」


 ミーシャの返答に真っ先に反応したのは、物知り博士のノアだ。


「S級より上だって? それは魔王を筆頭に数えるほどしか確認されてないSS級の魔物か!?」


「ギルドの規定ではS級までしかありませんが、この敵は間違いなくそれよりも上位の存在だと思われます」


 ミーシャもギルドの受付だったので、その辺りの知識はあるのだろう。ノアの問いかけにもS級より上だと断言する。


(アスカ、SS級なら仮想魔王になるかもしれない。ちょっと1人でやってみよう)


(うん、わかった!)


「魔王と同じSS級でしたら、私に倒させてもらえませんか? 魔王がどれほどの強さかはわかりませんが、自分の力を試すいい機会になると思うので」


「だ、大丈夫なのかい? いくらアスカが強いといってもSS級となると危険なのでは?」


 キリバスが心配して声をかけてくれた。


「そうだよ。私達じゃ力不足かもしれないが、せめてサポートくらいは必要じゃないのかい?」


 ミスラも何とかアスカの助けになろうとしてくれている。しかし――


「ちょっと本気を出してみようかと思いまして、みなさんを巻き込んでしまうと申し訳ないので、1人でやらせてもらえないでしょうか?」


 アスカは、やる気と自信に満ちた目でみんなを見つめる。


「みなさん、邪魔にならないように見てた方がいいかもしれません。今のアスカさんから、奥にいるSS級の魔物よりも大きな魔力を感じます。正直、ちょっと足が震えてます」


 そう言うミーシャは、本当に身体を震わせている。


「ミ、ミーシャがそう言うなら、お、俺達は下がって見ていようかな」


 アレックスも鉱石どころではないようだ。やる気スイッチの入ったアスカから出るオーラに、すっかり萎縮してしまっている。


「じっくり見させてもらおうか」


 ゴードンの発言が、別の意味でみんなを震えさせる。


「よし、僕らは後ろで待機しているから危険を感じたら迷わず逃げてくれ。足止めくらいはできるつもりだ」


 キリバスが、リーダーとしての決定をくだした。


(後ろで見ててもらえるだけで頑張れるな!)


(うん、強さがどうとかじゃなくてとっても安心できる!)


(よし、じゃあ地下迷宮ダンジョンを壊さない程度に本気で行ってみよう!)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る