第104話 ホープ vs ロイヤルリッチ

「ミーシャ、何がいるかわかるか?」


 キリバスが作戦を立てるために確認する。


「すいません。魔物がいるのは確かなのですが、なぜか鑑定できません。ただ、数はわかります。S級が2体とA級が6体です」


(お兄ちゃん、これって――)


(ああ、隠蔽を持ってるな。ミーシャの鑑定はLv1だから隠蔽されるとステータスが見れないから)


(隠蔽って騙すだけじゃないんだね)


(むしろ隠す方がメインの使い方だろう)


「それじゃあ、アスカもわからないのかい?」


 ミスラが何気に聞いてきた。


「S級はロイヤルリッチですね。A級の方はダークリッチです。どちらも隠蔽を持っているので、鑑定のレベルが低いとステータスを見れないようです。あと、闇属性を持ってるので気をつけてください」


「さすがアスカ」


 メリッサが口笛を吹いて感心する。


 リッチ系は耐久力は低いが、その分魔力が極端に高い。一応、全員結界を持っているが、魔力の差があると、その分MPが削られていくので、MPがなくなった時点で破壊されてしまう。

 闇属性耐性を持っていれば、自分の倍の魔力まで耐えることができるが、前衛で持っているのは、キリバスとミーシャだけなので今回はこの2人に目立ってもらおう。


「まず、ロイヤルリッチ2体は僕とミーシャで相手をしよう。全属性耐性と結界である程度は持つだろう。その間に残りのメンバーでダークリッチを1体ずつ確実に倒していってくれ。

 ただし、メリッサとゴードンとジェーンはあまり前に出すぎないようにして、後衛が魔法でおびき寄せたものを倒していってくれ。あと、ソフィアは僕とミーシャのサポートを頼む」


「わかりましたわ」


 キリバスの作戦にソフィアが了解するのと同時に、他のメンバーも口々に了解したことを伝える。


「行くぞ!」


 そう言って、キリバスが魔物達の前に躍り出た。ミーシャもキリバスの横に並び、ロイヤルリッチに2本撃ちダブルショットを放つ。2本の矢が同時にダークリッチ2体に突き刺さった。

 ミーシャの矢には地属性が付与されるので、ロイヤルリッチにもダメージを与えたようだが、物理耐性を持っているので、実際のダメージはかすり傷程度だろう。怒った1体が闇夜ダークネスの魔法を使う。辺り一面が真っ暗になり、探知を持っていない者は敵の居場所すらわからなくなってしまうが……


「想定内だよ。光源ライト!」


 ノアが生み出した光の球が辺りを照らす。

 再び、光の下に引きずり出されたリッチ達だが――


「ダークリッチが2体いないぞ!」


 ゴードンが叫ぶ。暗闇に紛れ姿を隠したダークリッチだったが……


「上です! 2本撃ちダブルショット!」


 探知を持っているミーシャの目はごまかせない。2体のダークリッチの身体に矢が刺さるが、やはり物理耐性を持っているので、致命傷にはならない。しかし、詠唱は止めることができたので、ダークリッチの魔法は不発に終わったようだ。


 正面のダークリッチ達も黙ってはいない、叫び声を上げながら状態異常デバフレイションを唱えてくる。後衛とメリッサ、ゴートン、ジェーンが固まっていたのが災いして、全状態異常耐性を持っていない、前衛3人とトーマとアレックスとノアが麻痺や睡眠で動けなくなってしまった。


(うちのクランは光操作を持ってるのが、アスカとノアしかいない。ノアに全状態異常耐性を付けてないのは失敗だったな)


異常回復ピュリファイ!」


 アスカがノアの状態異常を回復する。麻痺から回復したノアが他のメンバーの状態異常を回復していく。

 その間にもダークリッチはどんどん状態異常の魔法を唱えてきた。しかし、今度は《全状態異常耐性》を持っているクラリスとミスラが黙っていない。


狂った竜巻レイジトルネード!」

太陽爆発オーバーフレア!」


 クラリスが3本の竜巻を作りだし、ダークリッチを蹴散らす。竜巻に弾かれたダークリッチは、ミスラの炎魔法で撃墜されていった。

 落ちてきたダークリッチに前衛3人が次々と必殺技を放っていく。物理耐性のせいで効果は薄いが、3人が連続して撃つことで確実にダメージを与えているようだ。


 ここで、形勢の不利を悟ったロイヤルリッチが動き出す。


「「コォォォー」」


 2体が同時に掠れた不気味な声を出す。それに合わせて、片方のロイヤルリッチの手から、4本の黒い影が伸びていく。リッチ系は闇属性なので、人間界では珍しい闇操作を使う。それはわかっていたことなのだが、予想以上のスピードに慌てて避けようとするが――


「「「うわ!」」」


 絶妙なタイミングで地面が揺れる。もう一方のロイヤルリッチが唱えた大地の怒りアースクエイクの効果だ。足元をすくわれたキリバス、ミーシャ、ソフィア、クラリスが影に捕まった。影の締め付ける力は魔力に比例しているので、4人の結界がどんどん削られていく。


(さすがに、相手は鑑定を持ってるだけあって、狙いが的確だな。ステータスの高い前衛2人と治癒持ちの2人を狙いやがった)


 他のメンバーはというと、助けに行きたいがダークリッチの徹底した状態異常デバフレイションの嵐に身動きが取れずにいる。

 この場で唯一身動きの取れるミスラが、ロイヤルリッチの方に向かうが――


「コォォォー」


 ダークリッチの1体が、再び闇夜ダークネスを唱えた。辺り一面が再び闇に包まれる。


「うぐぅ……」


 大地の怒りアースクエイクを唱えた方のロイヤルリッチが闇の力ダークフォースを唱え、闇に紛れて影を伸ばしミスラを捕まえた。


(アスカ、これはまずいな)


(うん。思ったより強いね)


(S級2体の連携はさすがに厳しかったか)


(お兄ちゃん、いっちょやっちゃいますか?)


(そうだな、このメンバーと一緒に戦うのも今日でしばらくお預けになるだろうから、少々派手にいきますか)


「左手に太陽爆発オーバーフレア、右手に聖なる光線ホーリーレイ、複合魔法太陽光線サンライト・ビーム!」


 聖属性と炎属性の両方を持った、灼熱の聖なる光線がリッチ達の上空から降り注ぐ。


「ギュォォォー!」


 その身を焼かれ、また浄化され、耐性の低いダークリッチが次々と消滅していく。倒れているクランのメンバーには水球牢ウォータープリズンで一時的に保護しておいた。


雷神の裁きインドラ・ジャッジメント!」


 アスカの雷操作のLv5魔法が炸裂する。『バシュ! バシュ!』と音を立て、無数の雷が2体のロイヤルリッチの身体を消滅させていく。最後の稲妻がロイヤルリッチの頭部を吹き飛ばし、討伐が完了した。





 アスカが完全治癒フルキュアでソフィアとクラリスを回復させ、異常回復ピュリファイでノアの麻痺と毒を回復する。その3人で残りのメンバーの回復を行った。


「いやー、まいったまいった。魔物があれほど完璧な連携を取るとは思っていなかったよ」


 メリッサが素直に負けを認めつつ、さばさばした感じで敵をほめる。


「すまない。闇属性に気を取られすぎて、他の属性を使ってくるかもしれないという意識が全くなかった。リーダーとして、みんなを危険にさらしてしまい申し訳ない」


 逆にキリバスは、申し訳なさそうに肩を落としている。


「私がしっかり鑑定できていれば、大地の怒りアースクエイクも躱すことができていました。今回は斥候のミスです」


 ミーシャは自分のせいだと考えているようだが……


「いや、みんなのスキルは把握しているし、アスカが隠蔽していると教えていてくれたのに、その情報の中できちんとした作戦を立てられなかった僕の責任だ」


 キリバスは、それも含めてリーダーの責任だと考えているようだ。


「装備の恩恵はあるにせよ、やっぱり状態異常攻撃には少し弱いね」


 唯一光操作を持っているノアが、クランの弱点を見抜いたようだ。


「その辺りの反省は後にして、まずはアスカにありがとうだろう。アスカがいるから無茶も出来るし、失敗しても死なずにすんでいるのだから」


 さすがゴードン、アスカ贔屓を差し引いても、みんなが納得せざるを得ない言い分だ。


「その通りだね。ありがとうアスカ!」


 キリバスの一言に続き、みんなが口々にお礼を言う。


「私もステータスを隠蔽しているので、リッチの皆様も私のステータスやスキルを勘違いされていたようです。最初から相手にされていなかったので、自由に魔法を使えたのがよかったのかもしれません」


(((あの強さならそこは関係ないだろう……)))


 アスカの隠蔽していないステータスについて、問答が起きそうになったので、キリバスを急き立てて、さっさとレベル上げを再開してもらうことにした。

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