第102話 アスカの告白と提案

 国王からの依頼を受けたアスカは、ハウスに戻りみんなに事情を話すことにした。


「みなさん、お忙しいところ集まっていただきありがとうございます」


 そしてアスカは語り出す。自分が黒ローブの冒険者で実はSランク冒険者であること、そのために"魔王討伐"の依頼を受けたこと、しばらくクランを離れることを。


「みなさん、今まで隠していてすいませんでした」


 アスカはみんなの前で深々と頭をさげる。


「アスカさん、頭をさげる必要はないですよ」


 すると、ソフィアが優しい言葉をかけてきた。


「そうそう、みんな何となくわかってたし」


「えっ?」


 キリバスの言葉にアスカが驚いて声を上げる。


「むしろ、あれだけのことをしておいて、バレてないと思ってるなら、相当抜けてるとしか思えないな」


 そう言いながらノアがニヤッと笑っている。


「ええっ? ええ~!」


 アスカは、そこで初めて武術大会の後の話を聞いた。みんなが知っていながら、いつも通りでいてくれたこと、何があってもクランの仲間として守ると決めていてくれたことを聞いて、嬉しくて泣き出してしまった。


(俺はそれを見て号泣だよ。お前らみんな最高だ!!)





「それでアスカはどうするんだい?」


 アスカが落ち着いた後、改めてキリバスが確認してきた。


「はい。これを断るわけにはいかないので、魔王討伐に参加しようと思います。しばらく、学院もクランも離れることになると思いますが」


 そう言ってアスカは、少し寂しそうな顔を見せる。


「あたしもついていってやりたいけど、Lv5のスキルがないんじゃ足手まといにしかならないからな。くそっ!」


 ミスラが嬉しいことを言ってくれているが、それは他のみんなも同じ気持ちだったようで、一様に悔しがっている。


「しかし、僕らAランク冒険者にも役割があるようだ。今日ギルドに行ってきたら、『魔王軍が侵攻してきた時は、Aランク冒険者が中心となって撃退することになる』って、ハンクが言ってたからね」


 トーマがギルドで聞いてきた情報を伝えた。


「戦争か……。そうなったら私達も学院に行ってる場合じゃないですね」


 ジェーンの言うとおり、クラン"ホープ"のメンバーは、最近レベルが上がったばかりのミーシャ以外は全員Aランクだし、ミーシャはランクは低いが、それ以上の実力を身につけているから戦争となれば真っ先に呼ばれるだろう。


「それじゃあ、少しでも戦いが有利になるように、最後にみんなでレベル上げに行って全員レベル100にしちゃいませんか?」


 アスカが最後の思い出作りとなる、ナイスなアイディアを思いついた。


「えっ! それは魅力的なお誘いですが、アスカさんは軍事帝国ネメシスに行かなくてはならないのですよね?」


 早くレベルを100にしたいソフィアが、この提案に真っ先に食いついてくる。


「集合は1ヶ月後ですし、いざとなったら空を飛べばいいので。」


「よし、行こうじゃないか! アスカがいなくなっても大丈夫というところを見せてやろうじゃないの!」


 ミスラの一言に全員が頷いた。


「場所は地下迷宮ダンジョン都市フォーチュンでどうでしょう? 確か現在の最高到達点が70層なので、みなさんであっさり記録を更新しちゃってください!」


「それはいいね。僕も一度行ってみたかったんだよ!」


 アスカの提案にキリバスも賛成してくれる。


「よし、何だか楽しくなってきた! 早速、準備してこよう!」


 メリッサがそう言って立ち上がった。


「私の斥候としての初仕事ですね!」


 ミーシャが弓をポーチから取り出すと……


「「「あっ! それは! ミーシャだけずるい!!」」」


 そう言われると断るわけにもいかないので、全員の鞄やリュック、ポーチに空間拡張を付与していく。ついでに前衛の防具に身体強化と結界を付与する。さすがに5つ付与したら武術大会の賞品の意味がなくなるので、2つにしておいた。


「やっぱりアスカは、自分で付与できたんだね」


 ゴードンが自分の説が正しかったことをアピールしてくる。


「はい。黙っててすいませんでした」


 それを聞いたアスカが頭を下げる。


「いや、そんな君も魅力的だよ」


「「「…………」」」


(ゴードンよ、お前もか!)


「よし、それじゃあ出発しよう。目的地は『地下迷宮ダンジョン都市フォーチュン』だ!」


 キリバスがしっかりゴードンを無視して出発宣言した。





 地下迷宮ダンジョン都市フォーチュンはエンダンテ王国の属領で、王都から西に馬車で2日ほどのところにある。ここはもともと冒険者が集まってできた都市なので、今でもここに住む市民の7割が冒険者だ。残りの3割は商人や冒険者の家族という感じだ。


「凄いですね。街に活気がありますし、歩いている人がみんな強そうですね!」


 ミーシャが嬉しそうにそう言うが、アスカ以外のみんなは思った――


(((アスカを除けばミーシャが1番強いだろう!)))


「さすが冒険者の街、強い人がいっぱいいるのですね!」


 アスカは素直に肯定する。そして全員が思った――


(((アスカより強い者はこの世界にはいないだろう……)))


 フォーチュンに着いたのは夕暮れ時だったので、まずは宿を取って夕食を取ることにした。


「ダンジョンに入るためには、この街のギルドで受付をする必要があるそうです」


 ミーシャが元ギルド職員だからか、斥候だからなのかわからないが、ここの地下迷宮ダンジョンについていの情報をしっかりと仕入れてきた。


(いやー、ミーシャはこういうところも優秀だよな)


(うんうん)


地下迷宮ダンジョンに入るのに何か条件でもあるのかい?」


 キリバスが確認する。


「いえ、冒険者登録さえしていれば大丈夫です。ただ、ランクによって入れる層に制限があるようです。AランクとSランクは無制限ですが」


 ミーシャはそこも調べていたようで、スラスラと答えている。


「あれ、ミーシャのランクってF?」


 ミスラが思い出したように聞いた。


「いえ、ここに来る前にアスカさんに素材をわけてもらいBランクに上げて、後はハンクさんの権限でAランクにしていただきました」


 ハンクはミーシャと戦いたがったけど、ミーシャの実力は間違いないし、時間もなかったので強引にAランクにしてもらったのだ。


「あぁ、それで出発前にギルドに寄っていったのか。てっきりハンクに挨拶してきたのかと思ったよ」


 メリッサが納得顔で呟く。


「特に問題ないようだから、明日はガンガンレベルを上げて、みんなで100になっちゃおう!」


「「「おー!!」」」


 キリバスの一言にみんなが応える。


(ほんと、いいクランになったよな)


(うん、こういう幸せに恵まれてよかった)


 アスカから幸せという言葉が聞けて、俺もこの世界で頑張ってきたかいがあるというものだ。


 俺のやってきたことは間違いじゃなかったのかな。


 そう思えることで、俺も幸せな気分で今日を終えることができた。

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