第100話 黒ローブ=アスカ

「アスカ、あれは一体何だったんだい!?」


 宿に戻って来るなり、開口一番キリバスが強い口調で問い詰めてくる。


「えーと、ちょっと周りを凍らせたら、ケンヤさんが泣いて謝ってきました!」


「私達は凍ってたのかい?」


 ミスラの言う通り、周囲の状況を確かめるために土のドームを崩した瞬間、中にいた者全て凍ってしまったのだが、余りに一瞬で凍りついたため、みんな凍ったことにすら気がついていなかった。

 さらには、治る時もアスカの複合魔法で一瞬だったため、余計に気づかなかったというわけだ。


「そ、そうですね。凍ってたような、凍ってなかったような……」


 アスカがしどろもどろに答える。


「初日はケンヤに凍らされたが、あの時はまだ凍っていく感覚はあったんだがな。今回はそれすらなかった。いったいどんな魔法を使ったんだい?」


 ノアは、あの魔法がケンヤのLv5魔法よりも上だと考えているようだ。


「私もちょっと頭にきてて、あんまり覚えていないのですが……」


(苦しい、苦しいぞアスカ)


「みなさん、アスカさんが間に合わなければ私達はあの転生者1人にやられてましたわ。色々問い詰めるより、まず初めに言うべきはお礼ではないのですか? ありがとう、アスカさん」


 ソフィアがアスカにお礼を言うと、みんなが確かにそうだと同調する。ソフィアの一言のおかげで、あんなやつに負けるところだったことを思い出し、誰もが勝利を噛み締めることができたのだ。


「結論、アスカは怒らせるなってことだな!」


 ミスラが上手くまとめてくれた。


「怒ったアスカも可愛いと思うけどな」


(どうしたゴードン。今までのキャラとは違うじゃないか? 教授達にあだ名を付けていたあたりからおかしくなってないか?)


「さあ、ゴードンのことは放っておくとして、いつまでも話をしていても仕方がない。一足先に僕らは祝勝会をしようじゃないか!」


「「待ってました!」」


 キリバスの一言にメリッサとミスラが同時に反応する。

 そして、クラン"ホープ"のメンバーは夜の聖都へと繰り出すのであった。





「それではこれより、国別学院対抗戦の閉会式を行う」


 神聖王国の大臣らしき人物が、厳かに閉会式の開会宣言を行う。

 閉会式が行われるのは、最初に開会式とチーム別対抗戦を行った特設会場である。王都のメンバーはキリバスを先頭に1列に並んでいるが、聖都のメンバーは1人足りないようだ。どうもケンヤは布団を頭から被って部屋から出てこないらしい。


「初めに、優勝国を表彰する。優勝、エンダンテ王国!」


 優勝国が発表されると大きな拍手が巻き起こった。


「代表の学院生は前へ」


「は……い……うぷっ」


 キリバスが前に出るが、明らかに具合が悪そうである。


(お前らみんな飲みすぎだ……)


 昨日の祝勝会では、大逆転勝利の上、あの転生者に一泡吹かせたことで盛り上がり過ぎて、みんな飲み過ぎてしまったようだ。涼しい顔をしているのは、お酒を飲めないアスカと、いくら飲んでも平気なソフィアぐらいだ。


 キリバスは、神聖王国の国王から直々に優勝の証として盾を手渡される。おそらく相当お酒の匂いがしたのだろう、手渡す時、国王がちょっと嫌な顔をしていた。


 そしてそのまま優勝メンバーが横一列に並び、1人ずつ紹介される。最後にアスカが紹介されると……


 会場の雰囲気が一気に変わった。ここにいる者達は国王を含め、あの湿原にいた者達がほとんどだった。一瞬の出来事で記憶がほとんどなくても、身体は凍りついたことを覚えている。アスカを見た途端、本能が危険を告げ、みんな背筋が凍るような感覚を覚えていたようだ。


『あんなにも可憐な少女なのに、彼女を見るとなぜこんなにも身体が震えるのだろう』


 昨日アスカに凍らされた者達はみんなこう思っていたに違いない。





 対抗戦の閉会式が終わり、王都に向けて出発する直前、アスカは引率のために来ていたライアット教授に呼び出された。


「優勝おめでとう! アスカ君」


「ありがとうございます! ライアット教授」


「閉会式でお疲れのところ申し訳ないんだが、また君に頼みたいことがあってね」


「はい、なんでしょうか?」


「王都に戻ったらまた黒ローブさんに実験のお手伝いをお願いしたいんだが――」


「あ、わかりました。伝えておきますね。いつがよろしいですか?」


「そうだなぁ、できるだけ早い方がいいんだが……」


「では、王都に着いた2日後でもよろしいですか?」


「そんなに早くお願いできるなら、こちらとしてはありがたいな」


「では、それも伝えておきますね!」


「ありがとう。ついでに昨日の複合魔法も見せてくれないかアスカ・・・君」


(アスカまずい!)


「お安い御用です!」


 しかし、俺の忠告が間に合わず、アスカは反射的に答えてしまった。


「…………やはり君が黒ローブの正体だったか」


「!」


 油断していた。まさか、こんなところでライアット教授が仕掛けてくるとは……


「入学試験の時からおかしいとは思っていたんだが、まさか君がSランク冒険者本人だとは思っていなかったよ」


「えっと、えっと、私が呼び出されたところからやり直しませんか?」


 さすがに、そんな言い訳が通用するはずもなく……


「安心してほしい。君の正体を無闇にバラしたりはしないと約束しよう」


「ほ、本当ですか!?」


 むむ? 正体をバラすつもりがないなら、なぜこんな話をしたんだ? 黙って黒ローブに協力を求めていればいいのに。


「ただし、国王と学院長にだけは報告させてもらう」


 怪しい。正体をバラさないといいながら、国王と学院長には報告するだと? そこから正体がバレるかもしれないじゃないか。それとも、国王と学院長がバラさない確証でもあるのか?


「そこから他に広まることはありませんか?」


「それは大丈夫だろう。なぜなら――」


 そこから先のライアット教授の話は、これまでのアスカの学院生活を一変させる内容だった。

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