第99話 国別学院対抗戦 決着
〜side ???〜
「おや、いつの間に足が治っているんだい? さぞかし大金をつぎ込んだんだろうね」
顔を合わせて早々、ケンヤがキリバスを挑発してくる。しかし、昨日までのキリバスなら嫌みの1つでも言い返しただろうが、今はただケンヤのことが哀れでならない。ケンヤは踏んではいけない虎の尾を踏んでしまったのだ。
「お前、やな奴だったけど今回はちょっと同情するよ。……死ぬなよ」
昨日、自分に大敗を喫しているキリバスの悔しがる顔を見たくて挑発したケンヤは、キリバスの意外な反応に困惑していた。
(こいつ、昨日のことがショックで頭がおかしくなったのか? 何で僕が同情されて、死ぬ心配までされているんだ?)
「お前、何言ってるんだ?」
「いや、いくらやな奴でも目の前で死なれたら後味が悪いだろう。だから、忠告をしておこうと思って……」
ケンヤはやはり、キリバスがなぜこのようなことを言うのかわからなかった。もう、キリバスとの会話は諦めて自分達の指定の場所に行こうとして、ふと、昨日までなかった顔が見えることに気がつく。
「君は誰だい? 昨日まではいなかったと思うけど、ここは子どもが遊びに来る場所じゃないぞ」
ケンヤは、アスカを見た目で判断してそう言った。
「私は王都魔法学院のアスカと言います。昨日までちょっと用事があったので出れませんでしたが、最後の試合には間に合いましたので、参加させていただきます」
まだ本人に確認していないことがあるので、アスカは怒りを隠して答えた。
その間、ケンヤは念のため観客席にいた1人に目配せをして、アスカを鑑定させているようだ。
「ところでケンヤさんでしたね。あなたは昨日キリバスさんにした仕打ちについて、謝るつもりはありますか?」
「何言ってるんだい君は? あれは正当なルールに則った戦闘の結果だよ。そこにいるキリバス君が弱いのが悪いのさ!」
ケンヤはそう言うと、怒りと悔しさに震える顔が見れると思い、キリバス達に目を向けた。しかし、彼らの顔は一様に『お前、やっちまったよ』と言わんばかりの、哀れみに満ちた表情だった。
ケンヤは少々気味が悪くなり、会話は終了とばかりにアスカに背を向けて歩き出した。途中、鑑定を依頼した観客の横を通り過ぎ、鑑定の結果を聞く。
(レベル30のステータスは140前後だと。スキルも土操作と治癒がLv2って馬鹿にしてるのか? こんな弱っちくて、なぜあんなに強気に出れるのかがわからない。顔はまあ可愛いけど、もしかして痛い子なのか?)
転生者のケンヤを持ってしても、アスカが隠している実力はわからなかったようだ。とにかく脅威にはならないと判断し、予定通り、自分ひとりで相手を全滅させることだけを考える。
他のメンバーは湿地の奥で隠れているように指示を出し、自分は1人王都側の配置場所の近くに残った。最初から隠れられるのを防ぐために。
〜side ショウ〜
「それでは最後の種目を始める。これに勝った方が今回の国別対抗戦の勝者となる。最後まで油断せずに頑張れ! それでは始め!」
まずアスカは
アスカがかまくらを作っていると、ケンヤがゆっくりと近づいて来た。
「お前、そのレベルとステータスでどうやって選手に選ばれたんだ? それともそっちの学院にはもうお前以下の雑魚しか残っていないのか?」
「あなたは人を見た目で判断しているようですが、自分より弱いものを助けようという気持ちはないのですか?」
アスカの最終忠告とも取れる言葉にケンヤは……
「バカかお前。何で自分より弱いヤツのことなんか気にしなきゃならないんだよ? この世界は強さが全てなんだよ。弱いやつは精々僕のご機嫌でもとるんだな」
「カッチーン! もう謝っても許さないんだから!
(アスカ、やばいぃ! それはやめろぉぉぉ!!)
アスカがLv6の究極魔法を唱える。その瞬間、地面が崩れ氷の大陸が出現した。その氷の大陸が支配するエリアは気温が絶対零度まで下がり、全てのものを凍らせる。そう全ての者を……
(アスカァァァ! それは『カッチーン』じゃない『コッチーン』だ! 周りを見ろ! 聖都のメンバーどころか、審判も、観客も、王様達も凍ってるぞぉぉ!!)
俺もパニックになって、何を言っているのかよくわからない。
(あほぅふぅうー、や、やってしまいました。お、お兄ちゃん、どうすればいいの?)
こんなところで、ミーシャとの特訓の成果が出てしまったアスカだが、そんなところを突っ込んでいる場合ではない。究極魔法を初めて唱えたが、その範囲がヤバすぎる。氷の大陸は、この周辺どころか湿地があったところ全て支配しており、ヘタすると聖都までその範囲に入ってしまっているかもしれない。
「終わったのか、アス……カ……」
「あー、ドームから出ちゃダメー!!」
と言うが早いか、様子を見に出てきた王都のメンバーもみんな凍ってしまった。
(アスカ、とりあえずこの氷の大陸を消せるのか?)
(やってみる、うぅ)
アスカが魔力の供給を絶つと、氷の大陸が消滅した。しかし、凍り付いたものは変わらず、アスカ以外動くものは何もない。
(アスカ、みんなを治す前にケンヤと話をしよう。あいつを懲らしめるのが1番の目的だからな)
「
アスカは、光操作で器用にケンヤの首から上だけ回復させる。
「はっ、これはいったい何が……!?」
ケンヤは目を覚ますが、身体は凍り付いて全く動かない。顔だけは動くので辺りを見回すが、信じられない範囲が凍り付いている。
自分が使う
「謝る気になりましたか?」
目の前に立っているアスカをようやく認識したみたいだが、アスカの言葉は全く頭に入っていないのではなかろうか。
(しんじゃう。しんじゃう。このままじゃみんなシンジャウ。タスケテ。シニタクナイ)
キリバスに謝らせるためだけに、自分以外の全てを凍らせるなど思いつきもしなかったケンヤは、ただただ恐怖だけを感じていた。身体が凍っていなければお漏らししてしまったかもしれない。
「ごべんなさい、ごう゛ぇんなしぁい。うぅぅ」
ケンヤは完全に心が折れてしまい、鼻水を垂らして泣いて謝り始めた。この可愛い顔をした悪魔にかかれば、最強だと思っていた自分が簡単に殺されてしまう側だと認識し、ただひたすらに死にたくないと願っている。
「わかればよろしい!」
もうどんなに可愛い顔をしていても、どんなに可愛い声で話しかけられても、ケンヤにはアスカが悪魔にしか見えなかった。
「左手に
アスカの複合魔法で、『術者が認識したものを全て完全回復させる結界』がアスカを中心に広がっていく。その光に触れたものから氷が溶け、次々と復活していく。
「はっ!? いったい何が?」
復活を果たした大部分の人間が、何が起こったのか理解できていなかった。気がついた時、彼らが目にしたのは、泣きながらアスカに土下座するケンヤの姿だった。王都側のメンバーですら何が起こったのか、はっきりと理解している者はいなかったが、なぜかみんな、背筋が凍るような感覚だけは覚えていた。
状況がつかめなくてもケンヤはすでに戦う意思がなく、泣きながら謝っているので、他の聖都のメンバーは自分達だけで勝てるわけがないとギブアップを申し出る。
これによって、大部分の人間が何が起こったのかわからないまま、今年度の国別対抗戦は、エンダンテ王国の勝利で幕を閉じた。
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