第96話 それぞれの夜
〜side ???〜
王都組はチーム別対抗戦に敗れ、意気消沈している……かと思いきや、そうではなかった。
「普通に戦うのはちょっと厳しいが、明日のお宝争奪戦ならまだ勝つ可能性があるはずだ」
キリバス達はもう気持ちを切り替えて、明日の戦いに向けて意見交流を行っていた。あのケンヤに"証"が渡ってしまったら取り返すのは無理なので、先に見つけるのが勝利の絶対条件になるだろう。
「今日の戦いであいつは、僕を剣で倒せなかったことが気に食わなかったらしい。明日はそこをついて、僕が囮になろうと思う」
キリバスが相手の感情を逆手に取った作戦を立てた。具体的には、まず全員で全力で証を探す。証が見つからない場合は、アレックスがタイミングを見計らって、見つけたフリをして相手を引きつける。ノアは証を探しつつ、相手が見つけてないかどうかを探る。
こちらが証を先に見つけたら、キリバスがケンヤを挑発し一騎打ちに持ち込む。その隙に証を見つけたものは全力で地上へ戻る。証を見つけても敢えて仲間にも教えず、相手に極力情報を与えないようにするといった感じだ。
「あいつは確かに強いんだけどさ、アスカと比べたらどうなんだろう?」
ミスラがふと頭に浮かんだ疑問を口にする。
「アスカだな」(キリバス)
「アスカさんでしょう」(ソフィア)
「アスカに決まってる」(ジェーン)
「アスカ」(ノア)
「アスカさんですね」(クラリス)
「アスカってかわいいよね」(ゴードン)
「アスカ最強」(アレックス)
「アスカには勝てる気がしない」(メリッサ)
「アスカが勝つだろうな」(トーマ)
若干1名怪しいのがいるが、満場一致でアスカに軍配が上がった。
「アスカの強さってさ、我々とは次元が違うと思うんだよね。なんか住んでる世界が違うっていうか。でもさ、それでもまだ手加減してる気がしないかい?」
ミスラは今まで口にしたことはなかったが、常に感じていたことを思い切って口にしてみる。
「わかる気がします」
ソフィアは実際に武術大会の後に戦っているので、尚更そう感じているのだろう。
「そう考えると、あのケンヤって奴も何とかなりそうな気がするね」
メリッサの言葉にみんなが頷く。面白いもので、そう考えると本当に何とかなりそうな気がしてくるようだ。みんなが少し気持ちが楽になったところで、明日に備えて休むことにした。
〜side ショウ〜
対抗戦に参加しているメンバー達が、アスカの強さを褒めていた頃、アスカとミーシャはというと……野宿していた。本来ならば、夜になる前に聖都についている予定だったのだが、カップルの2人がまあ歩くのが遅いこと遅いこと。思わず突っ込みたくなるほどだったが、そこはぐっと我慢する。
アスカはリュックから出したテントの中で、ミーシャと転生者について話していた。
「転生者ってどのくらい強いんでしょうかね?」
「さあ、どうでしょうね? 私も転生者には会ったことがないので想像がつきませんね」
そう言うミーシャの目の前にいるのが、実は転生者であるという事実は置いておいて、その転生者が何のスキルがLv5なのかが重要である。
「噂通り氷操作のスキルがLv5なのかな?」
アスカの質問にミーシャも頷く。
「その転生者は【氷の支配者】って呼ばれているらしいですよ。さっきあのカップルが教えてくれました」
ミーシャがいつのまにそんな二つ名を聞いていたのかわからないが、これは確定っぽいな。
「やっぱり氷操作なのかな……ソフィアさん達は大丈夫でしょうか?」
この調子だと、聖都に着くのは明日のお昼頃になりそうだ。そうなるとお宝争奪戦も終わっているか、終わる直前になってしまうだろう。
「他にも気になる情報がありまして……どうやらその転生者は剣も扱えるらしいのですよ」
「ほぇー、クロムさんみたいに【魔法剣士】でしょうか?」
(ほぇーって、アスカ! かわいいな、おい!)
(ちょっと、お兄ちゃん、恥ずかしいからそんなこと言わないでよ!)
「やっぱり、そうなりますよね。それで、剣の腕前というよりは、その動きに誰もついていけないというのが気になるところなのです」
俺の声が聞こえないミーシャが続ける。
「身体強化もLv5とか?」
「可能性はあります。そうだとするとかなり厄介ですね。キリバスさんやソフィアさんでも厳しいかもしれません。アスカさんなら心配ないのですが」
「そうですか……できるだけ早く向かいたいところですが――」
そう言ってアスカはチラッと隣のテントを見る。
「私が連れて行きますので、アスカさんは先に行きますか?」
ミーシャが気を利かせて、そんな提案をしてくれるが……
「いえ、キリバスさんもいますし、大丈夫だと信じてみることにします」
「そうですね。出発前も自信ありそうな感じでしたから、大丈夫でしょう」
仲間を信じているアスカは、結局、2人であのカップルを最後まで聖都に送り届けることにした。
(転生者の話を聞いてから、何だか嫌な予感がするが……あいつらを信じるしかないか)
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