第95話 パーティー別対抗戦②

〜side ???〜


 聖都側のBチームはAチームとは違い、オーソドックスに戦ってきた。レベルがまだ60前後なのでスキルLvも3までしかいない。しかも、全員が【魔道士】なので、キリバスひとりが結界を張り突っ込むだけであっけなく勝負が決まる。

 聖都の人々はがっかりしているフリはするが、誰もがAチームの、いやケンヤの勝利を疑っていないようだ。おそらく、次の決勝戦を楽しみにしているのだろう。


「さて、ここが今日の正念場だな」


 キリバスがメンバーを集め、最後の確認を行う。


「向こうはおそらく先ほどと同じ作戦でくるだろう。ノア、クラリスから指輪は借りたか?」


「大丈夫、さっき結界の確認もしておいた」


 氷操作に相性の良い雷操作を持っているノアが攻撃の要になる予定だ。ケンヤの動きを止めるのは、その動きにかろうじてついていけそうなキリバスの役目である。

 ステータス的には、キリバスは自身の身体強化と付与の身体強化のおかげで敏捷が1000を超えているが、ケンヤの1500には遠く及ばない。

後は、技術と経験と予測でその差を埋めるしかない。

 メリッサは万が一に備えて、ケンヤ以外のメンバーを倒しに行く予定だ。メリッサなら、Lv3の石の壁ストーンウォールなど簡単に殴り壊してしまうだろう。


「それじゃあ、行くとするか!」


 気合いを入れたキリバスを先頭に、全員が配置についた。相手は先に来ていたようで、先ほどと同じようにケンヤが1人で立っており、後ろの方に残りのメンバーが固まっている。


「それでは、1勝1敗のため勝利したチーム同士で決勝戦を行う。これに勝利した方がチーム別対抗戦の勝者となる。それでは両チーム配置について…………始め!」


究極電撃マキシマムボルト!」


 挨拶代わりにノアが自身最強の魔法を放つ。


「「「「「石の壁ストーンウォール」」」」」


 しかし、ケンヤ以外のメンバーが、今度はケンヤを守るように石や土の壁を作り上げる。Lv4の稲妻もLv3とはいえ、相性の悪い土属性の魔法を5人分も突破できるわけもなく、ケンヤに届く前に消えてしまった。


「ふふふ。雷操作に対して、何も対策しないわけがないだろ」


 ケンヤはのんびりと歩きながら挑発してくる。同じくケンヤに向かって歩くキリバスが、広場の中央でケンヤと対峙した。


「君が噂の【剣帝】の息子かい? 【剣帝】は史上最強の剣の使い手と言われているようだが、僕が剣を選んだ以上、君のお父様には申し訳ないが、これからは僕が史上最強の剣の使い手だ」


「今、君の目の前にいるのは【剣帝】ではない。今回の国別対抗戦に勝てることができたら、【剣帝】に直接同じことを言うがいいさ。ただ、そう簡単に勝てるとは思うなよ」


 キリバスも顔では平静を装ってはいるが、相当頭にきているはずだ。さらに尊敬する父まで侮辱されたので、もう我慢の限界に達しているのではなかろうか。


「なかなか、言うじゃないか。後悔するなよ!」


 そう言ってケンヤが上段から剣を振り下ろす。その動きは瞬きするよりも速く、気づいた時にはキリバスの剣がぎりぎりのところでケンヤの剣を受け止めていた。


(こ、これは厳しい戦いになりそうだ)


 予想以上の剣速にキリバスが驚愕している。得意のはずの後の先が全く使えていないようだ。このままケンヤの攻撃を受け続けるのは無理だと悟っただろう、慌てて攻撃に転じた。

 しかし、キリバスの攻撃はいとも簡単にケンヤに受け流される。頼みの必殺技も全て同じ技で返され、攻撃力の差の分だけ、キリバスにダメージが蓄積していく。

 このレベルの戦いだと、他についていけるものがおらず、ソフィアでさえもキリバスを巻き込まずに魔法を放つ自信がなく、躊躇している。


 ドォゴーン!!


 誰もがケンヤとキリバスの攻防に気を取られている隙に、メリッサが相手の後衛までたどり着き石の壁ストーンウォールを壊し始めた。


「さすがにあれを放っておくわけにはいかないか。【剣帝】の息子君。すまないが少し本気を出すよ」


 そう言うが早いか、ケンヤの剣速がさらに上がった。キリバスの剣が弾かれ、無防備になった胸にケンヤの突きが迫る。


 ギィィン!


 獲ったと思ったケンヤが、この試合で初めて驚きの表情を浮かべた。キリバスが張った結界がケンヤの剣を弾き返したのだ。


「これは驚いた。僕の剣を弾き返す結界なんて初めて見たよ。ますます君たちの【付与師】に興味が沸いた」


 ケンヤは驚きはしたものの、負けるとは思っておらず、すぐに余裕の表情に戻った。


「結界があるとなると、チマチマ攻撃するのは得策ではないな。君は剣で倒したかったがまあいい。チャンスは明日以降もあるだろうからね」


 そう言って1歩下がり剣を納める。


「みんな、あれが来るぞ! 気をつけろ!!!」


 キリバスは、ケンヤが何をするのか察したようで、前もって決めておいた言葉を叫んだ。


氷の世界フロスト・ワールド


 その一言で、ケンヤを中心に景色が一変する。


 結界を持っていなかったメリッサは、顔の前で腕をクロスした姿勢で凍り付き、結界を張った4人も瞬間的には魔法を防げたものの、Lv5魔法を防ぐために一気にMPを削られ、まずはMPが少ないキリバスが結界を維持できなくなり凍り付いた。


太陽爆発オーバーフレア!」


 残りの3人の結界が破られるより早く、今まで魔力を温存していたミスラが炎の爆発を作る。魔法を唱えるということは結界を解くことになるが、自分が犠牲になることでソフィアとノアの周囲の温度を上げようと考えたのだ。

 しかし、目の前で起きたのは、信じられない出来事だった。ミスラが放った炎の爆発が、そのままの状態で凍ってしまったのだ。これにはケンヤ以外の全ての者が唖然として言葉を失ってしまう。

 結局、ソフィアもノアも結界を維持できなくなり凍り付いてしまった。


 ケンヤは、氷の世界の真ん中で静かに片手を上げる。


「………………」


 なかなか、勝者が発表されないのでケンヤが司会兼審判の教授を見ると……当然、彼も凍っていた。

 その後、凍ってしまった人達は待機していた聖都お抱えの【聖者】によって治癒が施され、無事生還したのだった。

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