第93話 パーティー別対抗戦①

〜side ???〜


 ここは神聖王国クラリリス最大の学院、『聖都魔法学院』の校庭である。この日のために用意された特設会場で、国別学院対抗戦の開会式が行われていた。

 中央の広場は直径200mはある大きな円形で、高い壁に囲まれている。戦闘の余波が観客へといかないように作られているようだ。その外側にはぐるっと一周360度、観客席が設けられている。

 その正面と思われる場所には、両国の国王とその側近たちが、特別に作られた豪華な席に座っていた。広場には両学院の教授と、今回出場する選手達が並んでおり、さらにその後ろには、聖都魔法学院の選手ではない学院生達が列をなしている。


 両国王から激励の言葉があり、続いて参加選手の紹介、3種目のルール説明が行われていく。そして、この広場は、開会式が済んだ後、そのままパーティー別対抗戦の会場となる予定だ。


 開会式が終わり、聖都魔法学院の教授の1人が会場の中央に現れる。この教授が、司会と審判を務めるようで、マイクのような機械を使い各学院の第1試合のメンバーを紹介し始めた。


 エンダンテ王国のAチームは、ゴードン、ジェーン、トーマ、アレックス、クラリスだ。対する神聖王国のAチームはケンヤ、ミッシェル、タイラー、セバスチャン、エルザ、アニーの6名である。神聖王国は、全員が魔法学院の学院生で構成されているようだ。


「それでは第1試合を始める。準備はよろしいですかな?……始め!」


 開始と同時に神聖王国側は、ケンヤ以外が全員石の壁ストーンウォールを唱え始めた。そして、石や土でできた大きなかまくらに5人が入る。小さな窓を作って外の様子は窺っているようだが、完全に戦闘に参加する気はなさそうだ。

 一方、ケンヤは銀色に光る片手剣を持って、悠々とこちらに向かって歩いてくる。どうやら、ケンヤ1人でこちらの5人の相手をするようだ。


「生意気な」


 ゴードンがそう言いながら、ジェーンとともにケンヤの前に立ちはだかる。予想通りではあるが、ケンヤが1人で戦う気なら、お望み通り5人全員で倒しに行くだけだ。


岩石衝突ロックインパクト!」


 まずは、アレックスが小手調べの一撃を放った。ケンヤは、その岩石を横にステップするだけで、難なく躱してしまう。


「へぇ、詠唱短縮か。スキルではないようだから、装備に付与されているのかな? だとすると実力は僕の方が全然上だけど、装備はそっちの方が上みたいだね。よっぽどいい【付与師】がいるのかな」


 ケンヤが上から目線で独り呟く。


氷の彗星フロストコメット!」

狂った竜巻レイジトルネード!」


 それならばと、トーマとクラリスが同時に魔法を放った。


「ふむ。これはどうしようかな?」


 口では『どうしようかな』などと言っているが、顔には余裕の笑みが浮かんでいる。


永久凍土パーマフロスト


 ケンヤの一言で分厚い氷の檻が完成する。トーマとクラリスの魔法は、ケンヤを覆うLv3の氷の檻を突破できない。これがLv5スキルを持っている者の優位な点だ。スキルLvの上限が1つ違うだけで、トーマやクラリスは相手の消費魔力の倍のMPを使わなければ、その魔法を突破できないからだ。


「はは。その程度の魔力じゃ僕の魔法は突破できないよ」


 いちいち腹の立つ言い方をするケンヤに、エンダンテ側の人間は全員がイラッとする。しかし、その実力は確かで言い返すことができない。


「こっちから少し攻めるよ。上手に受け止めてくれたまえ」


 そう言って、ケンヤは後衛に向かって飛刃斬を連続で放った。


絶対防御アブソリュートディフェンス!」


 クラリスは装備している指輪の結界を発動させ、斬撃を防ぐ。しかし、攻撃力1500超えから放たれる斬撃は強力で、結界に当たる度にガリガリMPが削られてしまう。

 結界を持っていないトーマとアレックスは雷の盾サンダーシールド石の壁ストーンウォールで防ごうとするが、あっさり貫かれ斬撃を受けてしまった。


上級治癒ハイキュア!」


 クラリスが慌てて治癒を行う。その隙を突いてケンヤが放った氷の弾アイスショットが、クラリスの頭部を直撃し気を失ってしまった。


「この人でなしが!」


 それを見たジェーンが怒りに任せて、竜虎突を放つが、竜と虎が出現する前にケンヤはジェーンの背後を取り、後ろから双極斬をお見舞いする。無防備な背中を攻撃され、吹き飛ばされるジェーン。かろうじて生きてはいるが相当重傷を負っているようだ。

 もともと敏捷が低いゴードンは、全くケンヤの動きについていけず、まともに衝撃斬を受け弾け飛ぶ。幸い耐久が高かったため致命傷には至らなかった。


「勝者、神聖王国Aチーム!」


 エンダンテ王国のメンバー全員が戦闘不能になったところで、審判の教授が高らかに宣言した。


 観客席から割れんばかりの拍手が送られる。その拍手に応えケンヤが片手を上げた。


「すぐに治癒を!」


 ソフィアが駆け寄り上級治癒ハイキュアを使う。完全には治りきらなかったものの、全員、命に別状がないところまで回復することができた。


「あいつはヤバいな。性格はとことん悪いが強さは本物だ」


 キリバスの声にも焦りの色が浮かんでいる。


「まず私達は余力を残して、敵を倒さなければなりませんね」


 ソフィアもケンヤの強さは認めざるを得ないようだ。


「それでは第2試合を始める。各学院の選手は所定の位置へ――」


 お互いのBチームが開始位置につく。


「では、始め!」

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