第91話 対抗戦前日
〜side ???〜
神聖王国へ出発する前日、午前中はAチーム対Bチームの模擬戦、Sクラス対教授達のクラン対抗戦を行った。
模擬戦は、キリバスのチームが上手くキリバスをサポートしながら、キリバスがひとりで5人全員を倒しAチームが勝利し、クラン対抗戦は、全ての面でSクラスが圧倒的な力を見せつけ勝利した。
午後はまた、転生者対策会議を行うが、使えそうな案は、装備は鑑定されないように、試合の直前に身につけるだとか、チーム戦の時にアクセサリーを貸し借りするといった、消極的なものだけだった。
「とにかく、向こうに着いたらすぐに、ミル教授に相手全員を鑑定してもらって、その日のうちに細かな対策を考えよう」
そう言って、キリバスが話し合いをまとめる。
こうして、誰もが一抹の不安を抱えながら次の日を迎えたのだった。
エンダンテ王国の入り口に、多くの学院生や国民が集まっている。国を挙げての一大イベントだけあって、国民達の期待も大きいようだ。
「応援に行くからな!」
「絶対に勝てよ!」
「エンダンテ王国の強さを見せつけてやってくれ!」
などなど、キリバス達にかけられる言葉にも熱がこもっている。そんな声援に手を振って応えながら、一行は馬車に乗り込んだ。国王所有の馬車のひとつで、乗り心地も最高である。
「こんな馬車に乗せられたら、負けて帰っては来れないね」
メリッサが、その乗り心地を確かめながら呟く。
「全くだ。これなら普通の馬車の方が気が楽でいい」
さすがのゴードンもプレッシャーを感じているらしい。
エンダンテ王国から神聖王国クラリリスまでは、馬車で3日間かかる。急ぐ旅でもないので、途中で街や村に寄りながら、のんびりと進んで行く。
教授達が前の馬車に乗り込んでいるので、魔物がでても全て退治してくれる。馬車の中では特にやることもないので、戦術について意見を交換したり、パーティーの組み方について話し合ったりした。
クラン戦以外は、戦力を分散させるより、最強のチームを1チーム作った方が、決勝になった時に勝つ確率が高そうだという意見が多かった。
馬車で2日ほど走ったところで、国境を超え神聖王国領に入った。やはり文化の違いからか、途中で寄る街や村の建物や人々の服装が見たことのないものに変わっていく。ほとんどのメンバーが神聖王国は初めてで、キリバスとソフィア、ミスラだけは小さい頃に来たことがあるという。
「さあ、もうすぐ着くよ」
キリバスが言った通り、遠くに神聖王国の聖都が見えてきた。国境を越えてからさらに1日走り、ようやく到着した。
到着したのは夕暮れ時だったが、神聖王国の方でも国を挙げてのイベントなので、出迎えにも熱気がこもっていた。とは言っても、キリバス達を歓迎するというよりは、自分達の国の学院生に倒されるやつを見に来たといった感じだ。馬車を降りたキリバス達を、値踏みするような目つきで見ている。
お互いの国の教授達が挨拶をしている向こう側に、やけに偉そうにしている若者がいた。こちらを見て明らかにバカにしたような仕草を見せ、周りの若者たちの笑いを取っている。
「あれが噂の転生者でしょうか」
それを見たソフィアの声には、少し怒りが混ざっているようだ。
「ミル教授がさっき彼を見て、一瞬驚いた顔をしたから、おそらく間違いないだろう」
キリバスは細かいところまでよく見てる。
「なんか感じ悪いですね」
クラリスも嫌な顔をしている。
「しかし、ミル教授が驚いたということは、我々の想定以上のスキルを持っているということかな」
トーマが冷静に判断をくだす。
「ふん! あんな偉そうなやつに負けるもんか」
ミスラは根拠のない強がりを見せていた。
「それと周りのやつらだが、魔法使いが多いような気がするな」
ノアは、みんなとは違った視点で観察しているようだ。
「ここは早く切り上げて、宿で作戦会議をしましょう」
ジェーンは、もうこんなところに用はないといった感じだ。その意見に同意したキリバスは、教授達に断りを入れミル教授を連れて宿に向かう。
「女性陣の美しさはこちらの圧勝だな」
ゴードンがこれまたみんなとは違った視点で感想を述べるが、全員が無視して歩き出した。
宿に着き、夕食を済ませてから作戦会議を始める。まずはミル教授から鑑定の結果を聞く。
「みんなも注目していたみたいだから、気付いていると思うけど、向こうの教授達の後ろにいたのが貴方達の相手で、その中に例の転生者もいたわ」
みんな『やっぱりな』という顔をして頷いている。
「黒い髪で1番偉そうにしてた若者よ。名前はタチバナ ケンヤ、職業は【魔法剣士】だったわ」
【魔法剣士】と言われ、みんなは一瞬、S級冒険者のクロム・ロイを思い出したようだ。
「それで、ここからは心して聞いてね。彼は何とLv5のスキルを2つも持ってたわ」
「2つ!?」
メリッサが驚きの声を上げる。みんなも予想外の展開にそれ以外の言葉が出ない。
「その2つとは氷操作と身体強化よ」
ミルの言葉にその場が静かになる。一見、無駄なスキルの取り方かと思ったが、よくよく考えてみるとこれほど厄介なスキルの取り方はないと思えてくる。Lv5の魔法を使えるものが、自分で身を守れるということになるからだ。そして、ミルからさらに恐ろしいことを聞かされる。
「他に剣術Lv4と詠唱短縮を持っているわ。それにステータスはほぼ全てが500前後で、運だけが極端に低かったわ」
「まじか……身体強化Lv5って確かステータス3倍だったよな。全ステータス1500ってもう化け物じゃねえか……」
アレックスが思わず弱音を吐いた。
「他の学院生はどうでしたか?」
ただでさえ絶望的なのに、他の生徒まで強かったらそれこそ手も足も出ずに負けてしまう。ノアは他の生徒達こそ重要だと考えているようだ。
「パッとしか見ることができなかったけど、魔法使いが多くて、レベルはバラバラで55~65だったわ。スキルはあなた達と似たような感じで、2種類の攻撃系の操作系を持っていたわ」
「これは転生者が1人で戦って、残りは防御に徹する作戦だな」
キリバスは相手の作戦を予想するが、シンプルな作戦だけに対応が難しい。Lv5魔法がどのくらいの威力なのかもわからないし、氷操作に相性のいい土操作はアレックスしか持っていない。
それでも、出来るだけ勝つ可能性が高くなるように、遅くまで作戦会議は続くのであった。
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