第90話 最強の狩人完成

「さあ、さっさとレベルを上げてS級に挑戦しちゃいましょう!」


 そう言ってアスカは探知で魔物を探す。都合良く近くにA級のデスタランチュラの群れがいた。毒にさえ気をつければ、身体もそれほど硬くないので弓術に取っては格好の獲物だ。


 予想通り、さほど苦労もせず6体ほど倒したところでレベルが2つ上がり、いよいよ弓術Lv4を覚えることができるようになった。Lv4の必殺技は豪雨撃ちスコールショットだ。広範囲の攻撃が可能で大群や動きの速い魔物には効果的な必殺技である。


 また、スキルがLv4に上がったので、他の必殺技の威力も上がった。これでS級とも互角に戦えるはずだ。


「では、S級を倒しに行きましょう!」


 ミーシャはS級と聞いて、ゴクリと唾を飲み込んだが、アスカはピクニックにでも行くみたいに楽しそうにしている。


 そんなアスカを見てミーシャの緊張も少しほぐれるのだった。


「それでは、ミーシャさん。あちらにいるカイザーキマイラから倒したいと思います」


 しかし、いきなりミーシャ1人でカイザーキマイラは厳しいだろう。かつてハイデンも、同じような状況で苦戦を強いられていた。そこで今回はアスカが前衛となって戦い、ミーシャが弓で援護する形を取ることにした。


「ミーシャさん、S級の魔物は動きが速いので狙いづらいですが、戦っていると必ずどこかで隙が生まれますので、そこを逃さないことに全力を注いでください」


 アスカのアドバイスを真剣に聞くミーシャ。今まで以上に集中力が高まっているようだ。


(アスカ、面白いことを思いついた。自分に呪いをかけてステータスをカイザーキマイラと同じくらいにしてみないか?)


(うん? 考えたこともなかったけど、言われてみれば、動きをわざとセーブしなくていいのは楽そうだね)


(危なくなったら光操作で呪いを解けばいいだろうし、アスカの訓練にもなるだろう)


(わかった。最近は技術を磨いてなかったから丁度良いかもね)


状態異常・呪いデバフレイション


 アスカが自分に呪いをかけ、全てのステータスを10分の1にする。もともと3800くらいだったので、380くらいまで下がった。身体強化を入れれば1140くらいだ。ついでに、身体強化付きの装備は外しておく。

 目の前のカイザーキマイラの敏捷が1100なので、良い勝負になるだろう。


「じゃあ、行きますよ。最初は隠れていて下さいね」


 そう言うと、アスカはカイザーキマイラに突っ込んで行く。ミーシャは近くの岩に身体を隠し、一瞬たりとも目を離さないように、カイザーキマイラを見つめていた。


「ガァァァ!」


 カイザーキマイラがアスカを見つけ、距離を詰めてくる。アスカは右に回り込むように動き、カイザーキマイラがミーシャに背を向けるように仕向けた。


アスカはカイザーキマイラが放つ雷魔法を、全て土魔法で受けとめていく。攻撃は剣のみで行い、実際の前衛と同じように動いていく。


敏捷が同じくらいなので、アスカも緊張感を持って戦っているのだろう。弱くなった斬撃もなかなか致命傷にはならず、少しずつ切り傷を付けていくのにとどまっている。


もちろん、カイザーキマイラが呪いにかかると困るので、終わりの剣ジ・エンドは使わずに戦っているのだ。


なかなか攻撃を当てることが出来ないカイザーキマイラが、業を煮やして力任せの攻撃を仕掛けてきた。その一瞬の隙を逃さず、ミーシャが矢を放つ。


強撃ちパワーショット!」


 ミーシャが放った威力十分の1本の矢がカイザーキマイラの翼を貫き、前足に刺さる。一撃で空中での機動力も地上での機動力も奪う、最高の攻撃だった。


(ここまでできちゃうのか!?)


 俺もこれにはまたまたびっくりだ。確かにこれが最高の結果だが、これを狙ってやるとなると本当に一瞬のチャンスしかないだろう。それを、初めてのS級との戦いでやってのけるとは思いもしなかった。


(アスカ、ミーシャの技術は十分だ。この後は、バンバンS級を倒してレベルを上げよう)


(了解!)


 アスカは地上に落ちたカイザーキマイラに素早く持ち替えた終わりの剣ジ・エンドで斬りかかる。傷つき、さらに呪いにかかったカイザーキマイラは途端に動きが鈍くなり、その隙を逃さなかったミーシャの一撃を眉間に受け絶命した。


「ミーシャさん、弓の練習はここまでにして、後は効率よくレベル上げをしますね」


「えっ? まだ練習しなくて大丈夫ですか?」


「ミーシャさんの技術は素晴らしいです。その技術にレベルが追いついていないので、先にレベルを上げることにしました」


「えっと、そう言われてもまだ信じられないですが、アスカさんが言うならついて行きます!」


 そうと決めたアスカは、さらに地下迷宮ダンジョンの奥深くへ進んでいく。


雷神の裁きインドラ・ジャッジメント!」


 極大の雷がギガンテスに降り注ぎ、一瞬で黒焦げにした。


「!? 今のはなんじゃらもーん!?」


ミーシャが驚いて叫んでいる。


切断の嵐アンプテイション・ストーム!」


 吹き荒れる切断の嵐が、蜂の帝王カイザーワプスを群れごとバラバラにする。


「ばらっくもんもん!」


 ミーシャがさらに驚いているようで、いつものように俺好みの叫び声を上げてくれる。


死の呪いカース・オブ・デス


 即死の呪いはホーリードラゴンの命を静かに刈り取る。


「……くぽくぽぽ……」


Lv5魔法のオンパレードに、もう叫び声ですらなくなっている。


 アスカは、出会った魔物を片っ端から倒していく。いつもの優しいアスカはどこへ行ってしまったのかというくらい、怒濤の勢いで進んでいく。ミーシャのレベルアップと叫び声が止まらない。俺の笑いも止まらない。


(最後のは何だ? どこぞの白いもふもふか!?)


 ついでにアスカのレベルもどんどん上がっていく。一気に100層まで来てようやくアスカが立ち止まった。


「ミーシャさん。どのくらいまでレベルがあがりましたか?」


 アスカは息ひとつ切れていない。


「え、えーと、今は96です……」


「……てへ、やり過ぎちゃいました!」


 S級を10体ほど倒してしまったようだ。正確な数字を見るためにいったん呪いを解く。

 そしてアスカのレベルはというと……


名前(ヒイラギ)アスカ 人族(半神)女

 レベル 30(171)

 職業 賢者(超越者)

 ステータス

 HP 136(6865)

 MP 146(6875)

 攻撃力 136(6865)

 魔力  156(6885)

 耐久力 136(6865)

 敏捷  146(6875)

 運   146(6875)

 スキルポイント 294(131275)


(よし、見なかったことにしよう! そしてアスカ、呪いをかけてステータスを10分の1にしておきなさい……)


(はーい!)


 アスカは言われた通りに呪いをかけて、ステータスを10分の1にする。それでも680ほどあるのでこのままの状態でも、レベル100の人間相手でも勝てちゃうかもしれない。


「ミーシャさん、スキルポイントが貯まっていると思いますので探知をLv3に、鑑定をLv1に身体強化をLv3で付けておいてください」


 ミーシャは、言われた通りにスキルを付けたようだ。そのステータスは……


名前 ミーシャ 獣人族 女

 レベル 96

 職業 狩人

 ステータス

 HP 435

 MP 365

 攻撃力 475

 魔力  365

 耐久力 382

 敏捷  485

 運   405

 スキルポイント 1435

スキル

 弓術 Lv4

 探知 Lv3

 鑑定 Lv1 

 身体強化 Lv3


 たった3日で、最強の狩人が完成してしまった。

 明日はこのスキルとレベルに慣れるために戦ってから、神聖王国に向かうことにした。

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