第89話 一抹の不安

〜side ???〜


「ライアット教授、彼らの強さの秘密がわかりました。信じられませんが、彼らの装備に3~5つの付与が付いています。しかも、有用なものばかりなので、天然物ではなく誰かが作ったものだと思われます」


 ミルがキリバス達の異常な強さに疑問を持ち、彼らの装備を鑑定してわかったことを報告する。


「付与5つだと!? そんなものこの国の国王だって持ってないぞ!?」


 ライアットは改めて彼らの装備を見るが、言われてみれば、いくつか異常な魔力を放っている装備があった。


「特に危険なのが、今戦っていたキリバス君と次に出てくるソフィアさんです」


 ただでさえ、レベルやスキルにはそれほど差がないので、装備の差がそのまま結果に直結してしまう。とは言え、ルール上装備が認められているので、装備を外せとは言えない。ここは大人の知恵でなんとかするしかない。そう考えたのだが……


「それでは全員配置について……始め!」


 治癒で復活したダンケが開始の号令をかける。


「石の壁よ、全てを防げ石の壁ストーンウォール!」

「水の流れよ、敵を押し流せ激水流ウォーターストリーム!」


 ライアットが土操作で石の壁を作り、前衛がその陰に隠れる。そして、クリスティーナの激水流ウォーターストリームが前衛を石の壁ごと押し流した。石の壁を盾に、前衛を相手の後衛のところまで一気に運ぶ作戦だ。


強突風エアブラスト!」


 しかし、クラリスが放った強突風エアブラストが石の壁を崩し、逆にニック、イリーナ、キャロラインをメリッサのもとまで吹き飛ばしてしまった。


「いらっしゃい、教授方」


 どうやらメリッサは、1人で3人の教授を相手にする気のようだ。


「なめられたものだ」


 吹き飛ばされた状態から、最初に立ち直ったのは短剣を持っているニックだ。3人の中でも敏捷が最も高いのだろう、一瞬でメリッサの背後に回り込む……つもりだったが――


「せい!」


 メリッサが振り向きざまに放った瞬発拳が、ニックの顔面を捉え吹き飛ばす。ニックは一撃で気を失ってしまった。


「そこっ!」


 メリッサが背を向けた瞬間、キャロラインが竜虎突を放った。隣ではイリーナが時間差で飛刃斬を撃つ準備をしている。


「はっ!」


 メリッサの気合いが入ったかけ声と同時に、身体が2つに分かれる。キャロラインの放った竜虎が分身したメリッサの間に吸い込まれた。分身拳をそのまま回避に使って、イリーナとキャロラインの2人に瞬発拳を放つ。

 必殺技を放って無防備になっていたキャロラインも、まさか必殺技を回避に使うとは思っていなかったイリーナも、メリッサの音速の拳を躱しきれず、身体をくの字にしてその場に崩れ落ちた。


 一方、ジェーンは身体強化を持っていないので、初めから相手の前衛を無視して後衛の方に全力で走っていた。ライアットは大地の怒りアースクエイクでクリスティーナは大渦潮メイルシュトロームで足止めをしようとするが、大地の怒りアースクエイクはクラリスの強突風エアブラストを受けたジェーンが空を飛ぶことで躱し、大渦潮メイルシュトロームはノアの究極電撃マキシマムボルトが一撃で霧散してしまった。

 ジェーンはあっと言う間に、ライアットとキャロラインの前に立つ。


「まだやりますか?」


 ジェーンの問いかけにライアットは……


「いや、僕らの負けだ」


 素直に負けを認めた。


 終わってみれば、AチームもBチームもSクラスの圧勝である。教授達もレベルを上げ、それなりの自信を持って挑んだ戦いだったが、作戦も装備もSクラスのメンバーの方が上だった。

 教授達は負けたことは悔しいが、自分達が勝てないのであれば神聖王国の学院生達にも圧勝するのではないかと思い、気持ちが楽になったようだ。


しかしここで、ダンケが楽観できないある情報を報告する。


「実は、今年の神聖王国の魔法学院には"転生者"がいるという噂があるのだ」


「「「転生者!!」」」


 そう、転生者はこちらの世界に渡ってくる時に好きなスキルをLvMAXで付けてもらえる。もちろん、こちらの世界の人々はそんなことは知らないのだが、古い文献にはその存在が記録されていて、数は少ないが彼らの全員が見たこともない魔法や必殺技を放っていたという。


 相性や魔力、攻撃力によっては絶対とは言えないが、基本的に下位スキルは上位スキルに敵わない。同じ、Lv5のスキルを持っていれば、魔力の高さや込める魔力の量で勝てるかもしれないが、ここにいる誰もLv5のスキルは持っていない。

 かろうじて可能性があるのは『スキルクリスタル2500』を持っているソフィアだが、移動を含めると2日間しか余裕がないため今からレベルを100にするのは難しい。


 そこで教授達は、キリバス達Sクラスの強さは十分にわかったので、お宝争奪戦やクラン対抗戦の練習はほどほどにして、転生者対策を考えることにした。

 武術系、操作系のあらゆるスキルを想定し対策を練っていくが、そもそもLv5の必殺技や魔法はあまり知られておらず、対策を練るのが難しい。

 精々、出会ってすぐに鑑定し、相性の良い属性を持っているメンバーで固めるくらいしか思いつかなかった。


さらに武術系がLv5だと属性などないので、これといった対策がとれない。そうなるともう、転生者のレベルやステータスが低いことを祈るくらいしかなかった。相手のステータスが低ければ、たとえLv5の必殺技でも躱せる可能性があるからだ。


 余裕モードだったSクラスだったが、ここに来て一気に暗雲が立ちこめる。あれほど強気だったソフィアも顔がこわばっていた。


「まぁ、噂がどこまで本当かはわからんが、あと2日ある。みんなで知恵を絞ってできるだけの対策を考えよう」


 ダンケの言葉で、今日の合同訓練が終わりを告げた。

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