第85話 ミーシャ育成計画

 地下迷宮ダンジョンから帰ってきたクラン"ホープ"のメンバーは、ハウスの食堂で夕食をとりながら反省会を行っていた。


「やっぱり、雷操作が効かない相手にはちょっと苦戦するな」


 自身も雷操作持ちであるノアが、悔しそうな顔で感想を述べる。


「かと言って、そうそうスキルは増やせないですしね」


 ソフィアの言う通り、みんなLv5を狙っている以上、スキルを増やすわけにはいかないという事情がある。


「となると、クランのメンバーを増やすのがいいのか?」


 アレックスがあごに手をあてながら、次の案を出してきた。


「そんなに都合のいい人材はいるかな?」


 このメンバーとすぐに一緒に戦えるとなると、余程の高レベルを探さないと無理だが、そんな冒険者がソロでやってる可能性は低いだろう。キリバスはその辺りを指摘して言ったようだ。


「それなら時間がかかっても、低レベルを入れてこっち好みに育てた方が早そうだね」


 メリッサが言うと、なんかちょっといやらしく感じる。


「クラン"ホープ"に入りたいっていう冒険者は山ほどいるからね」


 実際ミスラが言うように、クラン"ホープ"入りたいという冒険者は日に日に増えていっている。メンバーがギルドにいる時はもちろん声をかけられるし、ハウスに直接やってくる者もいるそうだ。そういった人達はミーシャが対応しているが、実質、クランを立ち上げたアスカに相談することなく入れることにはならないだろうと、全て断っているのが現状だ。


「そうですね。良い新人さんがいたら勧誘しましょうか? 私的には斥候みたいな役割をできる人がいるとよいと思いますが」


 アスカが俺と地下迷宮ダンジョンで話していたことを伝えた。


「あー、そういえば探知や鑑定を持ってる人はアスカ以外いなかったね」


 キリバスが納得の声をあげる。


「あのー、その役って私には無理でしょうか?」


 今まで、肉を頬張りながら黙って聞いていたミーシャの、控えめながら決意に満ちた声での発言だ。


「えっ? どうしたんですか、急に?」


 アスカがびっくりして聞き返す。


「せっかくクランに入らせていただけたのに、お話についていけないのが悔しくて。受付業務はもちろん続けますが、危険な場所に行く時にみなさんのお役に立ちたいんです」


 ミーシャのその発言から、"ミーシャ育成計画"の話し合いが始まった。まずはミーシャに冒険者ができるかどうかの問題だが、クランに必要としているのは斥候ができる人材なので、猫の獣人であるミーシャはむしろ適任だという話になった。

 さらにもともと"ホープ"に入ってるので、身元を調べたり、いちいち説明する手間も省ける。問題は、ミーシャが今まで1度もレベルを上げたことがなく、戦闘経験もないため、みんなのレベルに達するまでどのくらいの時間がかかるのかというところだが、これは、アスカがあてがあると言って引き受けた。


(アスカ、全力でサポートするんだ! 俺は大賛成だからな! 最近、あの叫びを聞いてないから心が癒されねぇ。一緒に冒険できればこんなに楽しみなことはないぜ!)


 そうなると次は、どのスキルを付けるのかという話になってくる。まず外せないのは探知と鑑定だ。鑑定の方はLv1で十分だが、探知はLv3までほしい。

 それから戦闘系のスキルだが、これは意見が2つに割れた。もちろん武術系か操作系かでだ。キリバス率いる武術系の意見は、単純に前衛が少ないからで、操作系の意見は、雷属性が多いので、弱点である土属性と相性のいい風操作の魔法使いがほしいというものだ。

 あとはミーシャがどちらを選ぶのかだったが、もうすでに決めていたようで弓術を覚えたいと言った。


 アスカは明日からミーシャを鍛えつつ、武器や防具を作ってあげることにした。

ついでに操作系を使うみんなに詠唱短縮》、魔力増大、消費魔力減少、結界の指輪を作ることも決めた。


 一方、ソフィア達は、1週間後に迫った国別学院対抗戦に出場するために準備をするらしい。


「何ですか、その対抗戦というのは?」


 アスカも俺も知らなかったので、聞き返す。


「アスカは知らなかったのかい? 年に一回の学院の行事で、エンダンテ王国と神聖王国クラリリスがそれぞれの国の学院生を選抜して、対抗戦を行うんだよ」


 そう言ってさらにキリバスが説明してくれた。


 それによるとこの対抗戦は、それぞれの国が武術系、操作系を問わず、優秀な学院生を2パーティー分、12名以下で選出し、対抗試合をしたり地下迷宮ダンジョン地上迷宮ラビリンスの探索能力を競ったりする行事だそうだ。

 名目上は学院生やる気の向上のためとなっているが、実際は学院生の実力を比べることで、来年以降の相手国の軍事力を図る目的がある。今年は武術学院と魔法学院の1年生のSクラス11名が2,3年生を差し置いて選抜された。つまりはクラン"ホープ"のメンバーがそのまま選ばれたことになる。上限の12名より1人少ないようだが、他のクラスとの差がありすぎるため補充はしないとのことだ。

 開催場所は交互に替わっており、今年は神聖王国クラリリスで行われる。行われる種目については、明日、それぞれの学院で説明があるそうだ。


「アスカさんは、ミーシャさんのレベル上げに専念しててください。一応、メンバーには入ってもらいますが、アスカさんがいなくても勝てる力はついてると思いますので」


 普段は謙虚なソフィアが自信を持って言い切る。S級の魔物を倒したことが、自信に繋がっているのだろう。


「それではそちらは任せますね。こちらも目処がついたら、そっちに合流しますので」


(早くレベル上げて、神聖王国クラリリスに行きたいな)


(大丈夫。今の俺たちならすぐにミーシャを強くしてあげられるはずだ)


 こうしてまた1週間ほど別行動を取ることになった。

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