第84話 限界を超えて

 奥にいたギガンテスがこの広場に来るまでは、少し時間がありそうだ。それまでにこっちのギガンテスが倒せるかどうかが、ここでの戦闘の勝敗の分かれ目になるだろう。


 キリバスがその速さと攻撃力の高さで、ギガンテスを翻弄しながら確実にダメージを与えていく。その間に、ソフィアとクラリスは、ゴードンとジェーンが先ほどの戦いで負った傷を癒やしていった。トーマ、アレックス、ノアはキリバスの邪魔にならないように、小規模魔法でギガンテスを牽制する。


「飛刃斬!」


 キリバスがギガンテスの弱点である目を狙うために、斬撃を飛ばす。ギガンテスは腕で顔を覆い、目を守るがその腕に深い傷が残った。

 ギガンテスもただやられるだけでなく、大地の怒りアースクエイクで大地を揺らし、岩石衝突ロックインパクトで巨岩を落とす。

 力任せに振った戦鎚ウォーハンマーは床や壁を破壊し、砕けた岩がキリバス達に襲いかかる。さすがにS級の魔物が暴れると無傷とはいかず、直撃は受けなくても砕けた岩の破片で傷を負った。

 その傷をソフィアとクラリスで治していくが、徐々にMPが厳しくなっていく。


「キリバスさん、そろそろ決めないと厳しいです!」


 ソフィアの限界も近いようだ。


「よし、メリッサ、ゴードン、ジェーン、ここは僕達の必殺技で決めるよ!」


 キリバスの掛け声で3人が一斉に動いた。


「断鉄斬!」

「龍虎突!」


 キリバスの必殺技とジェーンの必殺技が、ギガンテスの左右の足を同時に攻撃し膝をつかせることに成功する。


「瞬発拳!」


 メリッサの勢いに乗った拳が鳩尾に決まり、ギガンテスは身体をくの字に折り曲げる。


「天地衝!」


 3人の攻撃により、弱点の目が目の前に降りてきたところにゴードンの必殺技が炸裂した。


「グァァァ~」


 叫び声とともに、ギガンテスが崩れ落ちる。


「みなさんお疲れ様です! とっても素晴らしい戦いでした。もっとお祝いしたいところですが、先ほどのギガンテスの咆哮は仲間を呼ぶためのものでした。こちらにもう1体向かってきているようですので、下がってもらえますか?」


 今の戦いでかなり体力も魔力も消費したのだろう、みんな素直にアスカの指示に従う。アスカはそんなみんなを庇うように、剣を抜きひとりで前に立った。


「グワァァァ!」


 仲間の叫び声を聞きつけ、広場に踊り込んできたギガンテスとアスカの目が合う。


「ガッ!?」


 ギガンテスの動きが止まる。


「…………」


 無言で後ずさりするギガンテス。


「ウガー!」


 次の瞬間、ギガンテスは背中を向けて一目散に逃げ出した。


「えーと、逃げちゃいました」


 アスカが後ろを振り返り、お茶目に告げる。


「「「どんだけー!!」」」


 広場にみんなの声がこだました。


 


〜side ギガンテス〜


 僕はギガンテス。周りのみんなからは『ギガちゃん』って呼ばれてる。地竜王アースロード様が造ったこの地下迷宮ダンジョンで暮らしている。

 ここでは、僕らギガンテスは最強の部類に入る。人間が定めた級で言えば、"S級"に当たる僕らに勝てるものは、魔物も含めてそうそういなかった。数週間前にあいつが来るまでは。

 あいつは黒いローブを纏い、S級の魔物がうろうろするこの地下迷宮ダンジョンを、まるで散歩でもするかのようにのんびり歩いていた。

 見た目も小さいし、誰もあいつが強いなんて思わないから、最初に見つけたヒュドラは久しぶりにいい獲物が来たくらいにしか考えず、嬉しそうに襲いかかったんだ。


 ところがあいつは信じられないくらいのスピードで動き回り、見たこともない魔法を操り、あっという間にヒュドラを倒しちゃった。正直、ヒュドラはうるさいし臭いし乱暴だから、ざまあみろって思ったんだけど、その次あいつにやられたのは、僕を鍛えてくれた『ギガ兄さん』だった。

 兄さんはいつも『強いヤツと戦いてー』って言ってたから、ヒュドラを倒したあいつに嬉々として向かっていたけど、あっさり返り討ちにあっちゃった。もうこの時からあいつの強さにびびった僕は、復讐したいとかいう気持ちには全くならなかった。それくらいあいつは圧倒的に強かったのさ。


 その後、ここの主である地竜王アースロード様から『あいつはやべぇ』って話を聞いて、自分の判断が正しかったと確信する。


 そしてついさっき、ちょっと自分の方が身体が大きいからって、いっつも僕に意地悪してくる『ンテス』の野郎が、『苦戦してるから来い!』って僕を呼びつけやがった。

 ちょっとムカついたけど、あとから叩かれるのが嫌だから、とりあえず向かってみたけどね。めっちゃゆっくり行ったよ。

 着いた時、ちょうど『ンテス』の野郎が(どうでもいいけど相変わらず呼びづらいなこいつの名前)倒されるところだったから、『あー、清々した』って叫びながら広場に入っていったさ。


 ……そしてあいつがそこにいた。ローブを纏っていなかったけど、僕にはすぐにわかったね。持っている剣が同じだし、何よりも、あの何も恐れていない独特の雰囲気が一緒だったから。ちなみにローブを着てない彼女は信じられないくらい可愛かった。敵じゃなければ、強さと可愛さのギャップ萌えだったね。


 そして僕は逃げた。もうこれ以上ないってくらい全力で逃げた。彼女はあの時、決して逃げてるものを追いかけて倒したりはしていなかった。それどころか自分から戦いを挑むこともほとんどなく、挑まれたから返り討ちにしているだけだった。それを知ってたから僕は逃げたんだ。そして僕は今、生きている。生きているぞー!




〜side ショウ〜


「S級の魔物が逃げ出すところを、初めて見ました」


 何やらアスカ以外のメンバーが集まり、話し合いを開始している。先ほどの戦闘の反省会かと思ったが、クラリスの一言は明らかに反省会のそれではなかった。


「俺も今日初めてS級の魔物を倒したのに、なぜか全然強くなった気がしない……」


 アレックスもなぜか浮かない顔をしている。


「やっぱりアスカは――」


 そう言いかけたメリッサの言葉を、キリバスが止めた。


「それは言わない約束だ」


 それからちゃんとした反省を行い、自分達の弱点を確認したところで、アスカが治癒と魔力譲渡マナトランスファーを行った。


 その後、アスカ抜きでヒュドラを1体倒した。3つの首を同時に倒すのが大変だったが、今回のヒュドラの首には土属性も雷属性もいなかったので、麻痺の効果がある魔法が上手く機能したのが良かったようだ。


 この地下迷宮ダンジョンの戦いで、みんなレベルが7上がった。S級の魔物を2体倒して6上がり、それまでのA級の魔物達で1上がった計算だ。やはり、S級の魔物は強いがもらえる経験値は桁違いに多い。

 そしてアスカも経験値共有と経験値倍加のお陰で、レベルが12も上がった。以前ここに来た時に付けた限界突破があるので、とうとうレベルが100を超え111になってしまった。


名前(ヒイラギ)アスカ 人族(半神) 女

 レベル 30(111)

 職業 賢者(超越者)

 ステータス

 HP 136(3865)

 MP 146(3875)

 攻撃力 136(3865)

 魔力  156(3885)

 耐久力 136(3865)

 敏捷  146(3875)

 運   146(3875)

 スキルポイント 294(46375)


(あかん、これはあかん……半分神になってもうた……)

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