第83話 パーティー戦

「グォォォォ!」


 曲がり角を曲がった先は大きな広場になっていて、一番奥にギガンテスが、その前を守るようにサイクロプスが3体並んでいた。ギガンテスがキリバスのパーティーを見つけ唸り声を上げる。おそらく、サイクロプスに指示を出したのだろう、2体が左右に広がり範囲魔法を警戒した隊形を取った。


「僕達はいったん下がる。左のサイクロプスはメリッサとミスラで、中央のサイクロプスはゴードンとノアで、右のサイクロプスはジェーンとクラリスで相手をしてくれ」


 キリバスが相手の動きに合わせ、素早く指示を出す。各自が持っているスキル構成が、被らないように組ませてるあたりもさすがだ。


 ……わざと、男女のペアにならないようにしたわけではないよね?


「僕達はギガンテスが動いたらすぐに出る。ソフィアは、メリッサとゴードンのところの治癒も頭に入れておいてくれ」


ソフィアもすぐに頷き返した。


 さすがに全員Aランクのパーティーだけあって、動きに無駄がない。ジェーンが『自分達が精鋭』と言ったのは、言葉だけではないようだ。


 しかし、相手もA級のサイクロプス。2対1でもそう簡単には倒せない。

 メリッサのところはミスラが詠唱短縮で魔法を撃てるので、メリッサの瞬発拳とミスラの太陽爆発オーバーフレアが交互にサイクロプスに襲いかかる。2つの攻撃が間髪入れずに入れ替わって行く様子は、まるで餅つきみたいだ。

 サイクロプスは反撃の糸口が掴めず、防御に徹している。この猛攻を耐えていること自体が、サイクロプスの強さを物語っているが、一撃ごとに決して小さくない傷が増えていた。サイクロプスが倒れるのも時間の問題だろう。


 一方、右側のジェーン達は一進一退の攻防を繰り広げている。サイクロプスは土属性を持っているので、雷魔法が効きづらい。ジェーンの雷操作が効かないので、身体強化を持っていない彼女はサイクロプス相手に苦戦している。クラリスが風の圧力エアプレッシャーでサイクロプスの動きを鈍らせ、大気の刃エアリアルブレードで傷をつけていくが、下位魔法では効果が薄い。

 さらに、敵味方入り混じっている現状では、味方を巻き込む恐れがある狂った竜巻レイジトルネードは使えない。サイクロプスも素早さで勝るジェーンを捉えられず、ジェーンもサイクロプスの耐久力の前に決定打に欠ける。均衡状態ではあるが、何がきっかけでその均衡が崩れるかわからない、危うい状況になっていた。


 真ん中のゴードンは、ジェーン達よりさらに苦戦を強いられていた。ゴードンとサイクロプスは攻撃力重視の似たようなタイプで、素早さの劣るゴードンは自慢の攻撃が当たらず、逆にサイクロプスの強烈な一撃を受けていた。

 今はノアの光操作でできた残像のおかげで事なきを得たが、それもいつまで続くかわからない。ノアのメインスキルも雷操作なので、サイクロプスの動きを封じることができないでいる。


(こうしてみると、同じAランクでもやっぱりミスラが頭1つ抜けてるな)


(そうだね。スキルの相性もあるけど、装備の付与の影響力が大きいのかも)


(だな。これって他のメンバーにも作ってやりたいけど、あんまり世の中に出しすぎると大変なことになりそうだしな)


(前にソフィアさんのお父さんが心配してたことは、そういうことなのかもしれないね)


 こうして戦闘を外から見てみると、本当に色々なことがよく見える。クランメンバーの戦い方や弱点、スキルや装備の善し悪しまでわかってきた。


「アレックス、中央が危ないからサポートに回ってくれ。それからトーマ、君はジェーンを助けてやってくれ」


 キリバスも後ろに控えていたので、よく見えていたようだ。その言葉を受けてアレックスとトーマが動き出す。


 中央はアレックスが参戦することで、一気に形成が逆転する。アレックスの石の壁ストーンウォールがサイクロプスの動きを制限することで、ゴードンの必殺技がサイクロプスを捉え始めたのだ。


 右側の戦いもトーマが参戦することで拮抗が崩れる。トーマが氷の網フリーズウェブでサイクロプスの足を止め、3人で集中攻撃を食らわせているところだ。


 キリバスは状況に応じて、的確に指示を出したように見えたのだが……


(まずいな。ギガンテスはこれを狙ってたのかもしれない)


 ギガンテスが動かなかったからこそ、キリバス達は後ろに下がったはずだ。しかし、ギガンテスが動く前にキリバスが後方の戦力を割いてしまった。


(ギガンテスが動くぞ)


 俺の予想通りに、ギガンテスが動き出した。


 まずは、中央でサイクロプスにトドメを刺そうとしていたゴードンに向かっていった。慌ててキリバスも動き出すが、3つの戦況を全て把握しようとしていたため行動が遅れる。ギガンテスは、サイクロプスとは比べものにならないほどの速度と重量で、ゴードンを戦鎚ウォーハンマーでなぎ払った。


 間一髪で間に合ったキリバスの剣が、その強烈な一撃を受ける。咄嗟に張った結界で傷を負うことはなかったが、勢いを止めることはできず壁際まで吹き飛ばされてしまった。


(お兄ちゃん、助けなきゃ!)


 キリバスが吹き飛ばされてしまったことで、ギガンテスが自由に動けるようになった。これは大ピンチだが……


(まて、アスカ。あいつらの力はこんなもんじゃない!)


激水流ウォーターストリーム!」


 ソフィアが生み出した水流が、ゴードンを押し流す。


大渦潮メイルシュトローム!」


 さらに、巨大な渦潮がギガンテスとサイクロプス飲み込む。


「ガァァ!」


 ギガンテスが渦潮に戦鎚ウォーハンマーを振り下ろし、爆散させた。


太陽爆発オーバーフレア!」


 メリッサとミスラが左のサイクロプスを倒し、中央の戦いに加わる。


氷の彗星フロストコメット


 右の戦いでは、ノアが氷魔法でサイクロプスにトドメを刺していた。


 さらに戦線に復帰したキリバスが、中央に残っていたサイクロプスを斬り捨て、残るはギガンテスのみとなった。


(すごい! キリバスさんがいなくても戦えてる!)


 アスカは、自分が助けに行かなかったことで、仲間が傷つくのではないかと心配していたが、目の前の仲間達の活躍を見て、今は興奮して飛び跳ねている。


「ウガァァァァァァァ!!」


 最後に残っていたサイクロプスが倒され、1体になり形成の不利を悟ったギガンテスが雄叫びを上げた。途端に揺れ出す地面。キリバス達も思わず、地面に手を着いてしまったり


大地の怒りアースクエイクか? それにしては……)


(お兄ちゃん!)


(ちっ! そういうことか!)


 俺とアスカの探知が、奥にいたもう1体のギガンテスが動くのを察知した。

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