第75話 武術大会⑤

 さて、今日は武術大会3日目、準決勝になる。

 1試合目はキリバス対ノア、2試合目はミスラ対ソフィアだ。


「キリバスとノアは前へ」


 ノアは高い魔力と柔軟な発想で相手を追い詰めるタイプだが、魔法使い相手にキリバスの後の先がどれだけ通用するのかも見ものである。


「始め!」


 ハンクの言葉が終わるや否や、キリバスがノアとの距離を詰める。敏捷はほぼ同じだが、身体強化の分、キリバスの方が断然素早く動ける。キリバスが先に仕掛けるとは思っていなかったので、誰もが決まったと思ったが――


「雷よ、集いて弾けろ雷の閃光サンダースパーク


 ノアにとっては想定内だったようで、自分の周りに雷の玉を作り出し、キリバスが近づくのを上手く防いだ。


 さすがに麻痺覚悟で突っ込むこともできず、キリバスがいったん距離をとる。


「究極の雷よ、敵を撃て究極電撃マキシマムボルト!」


 撃てれば決まる最速の魔法が放たれる。これもまた誰もが決まったと思ったが、魔法が発動する直前にキリバスは剣を床に立て、床を転がってその場を離れる。キリバスを狙って放たれた雷は、キリバスには当たらず、剣を伝って床に流れた。一見簡単に躱したように見えるが、早すぎても遅すぎても、雷はキリバスを捉えていたであろう。その刹那のタイミングを見切るあたり、流石はキリバスである。


 そして、キリバスは素早く剣を拾うや否や飛刃斬を放った。


 しかし、ノアはそれも予想していたようで、余裕を持って躱していく。あらゆる動きを予想するノアと、あらゆる動きに咄嗟に対応できるキリバス、タイプは違うがこの2人に不意打ちは通用しないのではないかと思わせる。


 一瞬動きが止まり、お互いを見つめてニヤリと笑い合う。次もまたキリバスが先に動き、ノアに迫った。ノアは雷の盾を作り出し、斬撃から身を守る。キリバスもあまり雷の盾を斬りすぎると、雷撃が剣を伝わり麻痺してしまうので迂闊に攻撃できない。

 しかし、ノアが魔法を唱えようとすると、魔力の供給が途絶え雷の盾が消えてしまうので、キリバスが近くにいるとノアも次の魔法を唱えられない。ノアが雷の盾に送っている魔力を瞬間的に増やし、盾を大きくする。そして、キリバスの死角に入り距離を取った。


「飛刃斬!」


 ところがキリバスは、死角にいるはずのノアの位置を正確に把握し、双極斬との併用で飛刃斬を2つ同時に、さらには連続して放った。

 さすがのノアもこれは想定の範囲外だったのか、2つ目まで何とか躱したが、3つ目を躱そうとした時、その動きが止まった。キリバスが3つ目の斬撃を追いかけるように前進し、ノアが躱したところに必殺技を放ったのだ。


「断鉄斬!」


 キリバスの必殺技がノアの結界を断ち切る。


「勝負あり! 勝者、キリバス」


 ハンクが、最初の決勝進出者を高らかに宣言した。


「「「……フゥー」」」


 みんな最後の攻防は息をするのも忘れて見守っていたので、ハンクの宣言で思い出したように息を吐いた。そして沸き起こる拍手。その拍手の中で、キリバスとノアがしっかりと握手をしていた。


 しかし、ミスラとソフィアだけは、拍手をしながらも真剣な表情を崩していない。


「次、ミスラとソフィアは前へ」


 ミスラはソフィアの護衛兼友達だったはずだ。おそらく、今まで一度も本気で戦ったことがないだろう。というか雇い主であるわけだから、今回だってソフィアに向かって攻撃魔法を放つことなどできるのだろうか?


 俺の心配をよそに、2人が前に出る。その時、ソフィアがミスラに向かって囁く声が聞こえた。


「……手を抜いたら許さないんだから」


 どうやら俺の心配は杞憂だったらしい。もっとも、アスカの結界があるからこそ、本気でいけるのだろう。


「始め!」


 ハンクのかけ声が響くが、この大会で初めて両者とも開幕直後に動かず、お互い見つめあっていた。


「私がソフィアと戦う時が来るとは思わなかったわ。もしかしたら、最初で最後の戦いになるかもしれないから、後悔しないように本当に全力でいかせてもらう!」


「えぇ、私もこんな機会が訪れるとは思ってもいませんでした。昔はあなたに守られている立場でしたが、ここにいるみんなのおかげで私も成長することができました。今日は私がどれだけ成長したか、あなたにも見てもらいますね」


 ミスラとソフィアは相手が全力を出せるように、お互いに気を遣っていたようだ。この短い会話で、お互いを縛るものがなくなったので、両者とも不敵な笑みを浮かべて詠唱を開始する。


「稲妻よ、敵を撃て稲妻爆発ライトニングバースト!」

「水の檻よ、敵を閉じ込めよ水球牢ウォータープリズン


 ミスラは相性の問題で、水操作を持つソフィア相手では、得意の炎操作は通用しないと考えたのか、雷操作中心に攻撃を組み立てていくようだ。

 一方、ソフィアはミスラはあくまでも得意の炎操作で攻めてくると考え、水の檻で自身を守ろうとした。

 結果、Lv差はあるものの相性が良かった稲妻爆発ライトニングバーストが、ソフィアの水の檻を伝わり結界に少しのダメージを与える。


 ほう、ミスラもちゃんと考えてるんだな。もっと、勢いに任せて来るのかと思ったのに。


 ソフィアも俺と同じように感じたのか、ちょっと感心したような表情でミスラを見ていた。


 そして、次に動いたのはソフィアだ。


「渦潮よ、全てを飲み込め大渦潮メイルシュトローム!」


 ソフィアの作り出した渦潮は直径10mにも及ぶ巨大なものだ。ミスラは飛びのいて躱そうとするが、距離が足りない。仕方なく、攻撃用に準備していた太陽爆発オーバーフレアを渦潮にぶつけ、一部を蒸発させるとともに、その爆風を利用して逃れる。


「渦潮よ、全てを飲み込め大渦潮メイルシュトローム!」


 ソフィアが連続で上位魔法を放つ。


「クソッタレ!」


 間髪入れず魔法を放ったソフィアに対して、一瞬迷ったミスラの魔法は遅れをとってしまった。

 先ほどと同じように太陽爆発オーバーフレアで抜け出そうとするが、片足が飲み込まれていたので、自身へのダメージが大きくなってしまう。


「渦潮よ、全てを飲み込め大渦潮メイルシュトローム!」


 そこに3度目の渦潮が現れた。今度は魔力を相当込めたようで、直径20mはある超巨大渦潮だ。


「あぁ、……ゴボゴボッ」


 ソフィアの3連続Lv4魔法の前に、相性の悪いミスラはなす術なく結界が破壊されてしまった。


「勝負あり! 勝者ソフィア」


 ソフィアは勝利はしたものの、魔力の使い過ぎで肩で息をしている。ミスラは結界が壊れてしまったので、ずぶ濡れである。


「あーあ、ついに抜かれちまったかー。これじゃあ護衛の意味がなくなっちゃうな」


「でも、友達という仕事が残ってますわ」


「あはは、違いない。それに私もまだまだ強くなるつもりだからね」


 ミスラは負けてしまったが、清々しい顔をしていた。


 こうして決勝戦に残る2人が決まった。


 剣士のキリバスと賢者のソフィア。これは素晴らしい決勝戦になりそうだ。

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