第76話 武術大会⑥

 準決勝も昨日と同じように午前中で終わったので、午後はクラン"ホープ"の女性陣で私服を買いに行くことになった。もちろんアスカも一緒だ。

 いつもは敵を倒すことばかり考えている冒険者も、この時ばかりは乙女心全開でおしゃれな服を楽しそうに選んでいる。アスカも楽しそうだし、可愛い女の子達がはしゃいでいる様子を見ていて、最初は俺も楽しめていたのだが……


 長い!


 男の俺にとっては同じような場面の繰り返しで、すぐに飽きてしまった。何着も試着するくせに一向に買わないのだ。サイズが合ってるのに買わないなら、何のために試着をしているのかわからない。とにかく試着をしてはお互いを褒め合うのだ。


 これはS級の魔物と戦うより辛いかもしれないな。


 結局、数時間の試着の末、アスカだけはかなりの数の服を買った。6人の中で1番若いアスカは、他のメンバーに着せ替え人形のように次々と服を着せられ、似合っているものはどんどんレジに持っていかれてた。支払いも残りの5人が行う。

 どうやら、武術大会を企画し高価な商品を用意してくれたアスカに、お礼の意味も込めて女性陣が計画してくれたようだ。アスカも素直に洋服を受け取り、ひとりずつにお礼を言い洋服が入った袋を大事そうに抱えて家に帰った。

 よっぽど嬉しかったのか、家でも鏡の前でしばらく1人ファッションショーをしていたくらいだ。




 そして次の日。


(おはようアスカ、今日はいよいよ決勝戦だぞ!)


(おはよう、お兄ちゃん。私もどっちが勝つのかすごく楽しみなんだよね!)


 今日は武術大会の決勝戦なので、アスカも興奮していつもより早起きしてしている。それはクランのメンバーも同じだったようで、ハウスに行くともうすでにメンバー全員が揃っていた。

 ハンクとミーシャもアスカのすぐ後に到着し、決勝戦を行う準備が整った。今更だが、ハンクとミーシャはギルドの仕事は大丈夫なのだろうか……


 それはさておき、決勝戦の前に3位決定戦を行うことになっている。3位決定戦といっても、3位と4位ではもらえる賞品の価値が全然違うので、本人達はやる気満々だ。


「これより、3位決定戦を行う。ノアとミスラは前へ」


 3位決定戦は、準決勝でキリバスに敗れたノアとソフィアに敗れたミスラの対戦だ。


「始め!」


 この戦いも手に汗握る魔法合戦が行われたが、準決勝とは逆に、魔法属性の相性による差がない試合だったので、魔力の高いノアがやや押し気味に試合を進めていた。

 しかし、ノアの雷魔法はミスラの炎の盾フレイムシールドで威力が激減し、Lv4の究極電撃マキシマムボルト紅炎の鞭プロミネンスウィップを纏ったミスラに大きなダメージを与えることができなかった。

 ここでミスラはなんと攻撃を物理主体に切り替えて、ノアを追い詰めていった。

 最終的には杖での攻撃を躱すために光操作で姿をくらましたところに、攻撃範囲の広い、太陽爆発オーバーフレアを連発され、結界を破壊されてしまった。


「勝負あり! 勝者、ミスラ」


 スキルLvが同じで、相性に優劣がない魔法使い同士の試合は、魔力の高さが影響することがわかったのだが、そこで物理主体に切り替えたミスラの作戦が光る試合だった。


「さぁ、みなさんお待たせした。これよりクラン”ホープ”の武術大会決勝戦を行う!」


「「「おぉぉー!!」」」


 いよいよ、決勝戦が始まる。先ほどの試合の興奮そのままに、さらにみんなのボルテージが上がっていく。


「この戦いの勝者がクラン”ホープ”のNo.1だ!!」


ハンクの一言で、さらに興奮が高まっていく。


「頑張れ―! キリバス!」


「負けるんじゃないよ、ソフィア!」


 メリッサやミスラからそれぞれ仲のよい方に対し、檄が飛ばされる。他のメンバーは、どちらともなく応援しているようだ。


「それでは、始め!」


 ハンクのいつもより力の入ったかけ声で、決勝戦は始まった。


「水の刃よ、敵を切り裂け水の刃ウォーターエッジ!」


 奇襲を警戒してか、ソフィアが水の刃を飛ばさずに周囲に浮かべる。しかし今回のキリバスは、先制攻撃は行わず、いつものように後の先を狙っているようだ。


 それでは小手調べとばかりに、ソフィアが十数個の水の刃をキリバスに向けて一斉に飛ばした。キリバスはそのほとんどを躱し、躱しきれないものは愛用の剣で切り裂いていく。


「水の玉よ、敵を打ち砕け水の玉ウォーターボール!」


 今度は水の玉を十数個撃ちだし、時間差でキリバスを狙う。しかしキリバスは、これも余裕をもって捌ききった。今までの試合と違い、序盤は静かに進んでいく。


(お兄ちゃん、ソフィアさんはLv1の魔法ばかりだね。何でだろう?)


(おそらく上位魔法でも、よっぽどタイミングよく撃たないと、キリバスには通用しないと考えてるんだろう。そのタイミングを作るのとキリバスの体力を削るために、消費魔力が少なくて、出せる数の多いLv1魔法を使ってるんじゃないかな)


 それはキリバス承知しているようで、ソフィアに大渦潮メイルシュトロームがある以上、むやみに近づくとソフィアを中心に渦潮を展開され、飲み込まれてしまうと考えているのだろう。そうなると取れる手段は……


「飛刃斬!」


 となるわけだ。しかし、この飛刃斬は剣術のLv4の必殺技である。生半可な魔法では受けきれない。


「水の檻よ、敵を閉じ込めよ水球牢ウォータープリズン!」


 ソフィアは飛刃斬を最も警戒していたようで、すぐさま水の檻を作り出し目の前に浮かべる。

 飛んできた斬撃は水の檻を切り飛ばしソフィアに向かうが、その勢いは明らかに落ちており、ソフィアでも余裕をもって躱すことができた。


(しかし、この大会中ずっと思っていたけど、みんな魔法を詠唱してる内容とは全然違う使い方で使ってるよな……)


(うんうん、『そんな使い方が!』って思うけど、詠唱聞いてからだと違和感あるよね)


 アスカとそんな会話をしている間にも、試合はどんどん進んでいく。

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