第73話 武術大会③
大会2日目。今日はキリバス対メリッサ、クラリス対ソフィアの試合が予定されている。
「緊張するな」
キリバスは、昨日は試合をしていないので、今日が初めての試合になる。その点、メリッサは2試合目なのである程度リラックスできているようだ。
敏捷で勝るメリッサか、攻撃力と耐久力で勝るキリバスか、スキル構成は似ているので何が勝敗を分けることになるのか、みんなも固唾をのんで見守っている。
「それではクラン”ホープ”武術大会2日目を開催する。第1試合、キリバス、メリッサ、両者は前へ」
ハンクも同じ前衛として、前衛同士のこの試合には特に注目しているようだ。『格闘と剣術はどちらが上なのか』と思って見ているのかもしれない。
「始め!」
まずは速さで勝るメリッサが、軽快なフットワークでキリバスに近づいていく。逆にキリバスは、余計な動きはせずに、剣を中段に構えたまま目だけでメリッサを追っている。
シッ!
挨拶代わりとばかりに、メリッサが最初に拳を放った。キリバスは完全にそれを見切っており、最小限の動きで躱す。それどころか、その拳に合わせてカウンターまで合わせている。
メリッサはそのカウンターを予想していたようで、初撃を躱されたところで深追いせずに、すぐに回避行動に移っていたので、難なくかわすことができた。そしてキリバスも、そのメリッサを追うでもなく、また剣を中段に構え動きを止める。
「相変わらず、やりづらいね」
メリッサはキリバスと付き合いが長いので、何度か戦ったことがあるようだ。どうやらキリバスは相手に先に撃たせて、後の先を取る戦い方が本来の姿なのだろう。敏捷で勝るメリッサの動きについていけるのは、予測と技術がメリッサよりも遙かに高いレベルにいるからなのだろう。さすがは剣帝の息子である。
「でも、私も今までとはひと味違うよ!」
メリッサはそう叫びながら、一気にキリバスの懐に飛び込む。
「連打拳!」
「双極斬!」
メリッサの連打拳とキリバスの双極斬が同時にぶつかり、2人とも後ろに弾け飛ぶ。お互いにLv1の必殺技だったので、ダメージは与えられない。
「瞬発拳!」
着地と同時にメリッサがLv3の必殺技を放った。音速を超える拳がキリバスの目の前に迫る。しかし、音速を超える拳を身体を捻って躱し、その勢いで回転しながら必殺技を放った。
「断鉄剣!」
横薙ぎにした鉄をも断ち切る斬撃がメリッサを襲う。その斬撃をメリッサは跳躍して躱すが、足先が
絶体絶命に見えたメリッサだが、その口元には笑みが浮かんでいた。
「分身拳!」
その瞬間、メリッサの身体がブレて2人になる。キリバスの衝撃斬は、その間を抜けてしまった。キリバスのお株を奪うような、カウンターのチャンスだ。
「瞬発拳!」
メリッサは、かつてハンクがアスカに見せた分身拳+瞬発拳を習得していた。ハンクは自分が何ヶ月も修行して習得した技を、3週間で身につけて帰ってきたメリッサの執念に、驚きの表情を見せている。
「双極斬」
だがその絶妙なカウンターにも動じることなく、キリバスが静かに必殺技を放つ。しかし、誰の目にも2体の分身相手に苦し紛れに放ったLv1の必殺技に見えた。メリッサも自分の拳が押し切れると判断し、そのまま突っ込んでいった。だがその瞬間、嫌な予感でもしたのだろうか、口元に浮かんでいた笑みが消えた。
「飛刃斬」
キリバスも双極斬にLv4の飛刃斬を重ねていたのだ。メリッサが格闘の天才なら、キリバスもまた剣術の天才だったのだ。メリッサの瞬発拳とキリバスの飛刃斬がぶつかり合う。瞬発拳が自らの拳を使う必殺技に対して、斬撃を飛ばす飛刃斬。その結果、メリッサの結界のみが削られていく。
「クッ!」
メリッサの結界はかろうじて残っていたので、再度、立て直そうとするが……
目の前に迫るいくつもの飛刃斬。
「勝負あり! 勝者キリバス」
さすがのメリッサも、その斬撃を全て避けるのは不可能だった。
「ふぅ。危なかった」
全く危なげない顔をしながら、キリバスが独り言を洩らす。
「あー! やられちまった!!」
メリッサは、床に大の字に寝転びながら叫び声をあげた。
格闘と剣術云々の話ではなく、単純にキリバスが強かった。レベルやステータス以上に、技術やセンスが素晴らしい。次の【剣帝】の座も近いのではないかと思わせる戦いぶりだった。
「2試合目、クラリス対ソフィア! 2人は前へ」
第1試合の興奮冷めやまぬまま、第2試合が始まった。
2人とも治癒持ちなので、風操作 対 水操作の戦いになるだろう。この2人は、ステータスもほぼ一緒なので、作戦や駆け引きが勝敗をわける戦いになるはずだ。
「風の刃よ、敵を切り裂け
「水の刃よ、敵を切り裂け
開始と同時に2人が放った魔法は、属性こそ違うが同じ刃を作り出す魔法だった。完全に同じ数、同じ威力の刃がぶつかり合い消滅する。
「竜巻よ、全てを引き千切れ
クラリスが放つ竜巻は今度は、一回戦とは違い1本だけだ。ソフィアのことは、勢いだけで倒せる相手ではないとわかっているようだ。
「水の檻よ、敵を閉じ込めよ
ソフィアが放った水の檻は、クラリスへと向かわず自身を覆い尽くす。
「!」
一瞬何が起こったか理解できなかったクラリスだが、竜巻の風が水によって阻まれるのを見て、攻撃用の魔法を敢えて防御に使ったことを悟る。
「それならば、突風よ、敵を吹き飛ばせ
クラリスの手から放たれた強風が、ソフィアの周りの水を徐々に吹き飛ばしていく。
「渦潮よ、全てを飲み込め
しかし、それを黙って見ているソフィアではない。彼女が魔法を唱えると、突如クラリスの足下に大きな渦潮が発生した。咄嗟に飛び跳ねるが、あまりの大きさに逃れられない。っと、誰もが思ったが――
「突風よ、敵を吹き飛ばせ
今度は、クラリスが攻撃魔法を防御に使う。自分の足下から突風を発生させ、その風に乗って渦潮の範囲から逃れたのだ。
こちらも、先ほどの試合に勝るとも劣らない、緊迫した試合展開だ。
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