第72話 武術大会②

 この試合は初めて、魔法使い同士の対戦になる。今までとはまた違った展開になるだろう。


 まず開始早々、魔法の撃ち合いになった。ミスラの太陽爆発オーバーフレアをアレックスの石の壁ストーンウォールが受け止める。アレックスの岩石衝突ロックインパクトはミスラに躱され、躱しざまに放った炎の矢フレイムアロー石の盾ストーンシールドに阻まれた。

 その後も一進一退の攻防が続いたが、アレックスのMPが尽き石の壁ストーンウォールが発動しなかったところに、ミスラの太陽爆発オーバーフレアが炸裂する。奇しくも、この試合の最初の魔法で決着がついた。


 本日、最後の試合はこれまた初となる、魔法を使える前衛、ジェーンの登場である。身体強化が無い分、攻撃力や敏捷は他の前衛に劣るが、詠唱最中にも隙がなく、攻撃しながら魔法を使えることができるのが強みだ。

 一方、クラリスも敏捷がジェーンよりも高いので、普通の攻撃であれば、十分躱すことが可能である。しかし、結界の破壊が勝利の条件である以上、治癒は役に立たないので、クラリスは実質、風操作のみで戦わなければならない。


「竜巻よ、全てを引き千切れ!狂った竜巻レイジトルネード!」


 クラリスは長期戦は不利と見て、普通なら1本しか現れない竜巻を、魔力を込めることで複数作り出した。これだけの竜巻を作り出すには、相当の魔力を使ったに違いない。彼女のMPはもうほとんど残っていないだろう。


「くっ!」


 しかし、その効果は絶大で複数の竜巻に囲まれ、ジェーンに逃げ道はない。さらにジェーンの持っている雷操作は風属性と相性が悪く、ましてやLv3ではLv4持ちのクラリス相手には全く役に立たない。現にクラリスと同時放った雷の閃光サンダースパークは、一瞬で竜巻に蹴散らされてしまった。


「魔法も効かない、逃げ場もない、絶体絶命というやつですね。ですが……竜虎突!」


 槍術Lv4の必殺技は、2撃同時に放った高速の突きから、龍と虎の姿をした衝撃波が飛び出すものだ。2つの衝撃波が1本の竜巻と衝突し、どちらも霧散する。さすがにLv4同士の技だと、相打ちになるようだ。


「そこだ!」


 竜巻が消滅することでできた道にジェーンが飛び込む。しかし……


「突風よ、吹き飛ばせ強突風エアブラスト!」


 その動きを読んでいたクラリスから突風の魔法を受けて、まだ荒れ狂っている竜巻に押しつけられてしまう。竜巻がジェーンの結界をガリガリ削っていく。


「勝った!」


 クラリスが勝ちを確信し、油断したその瞬間――


「閃光突!」


 ジェーンの必殺技が、目にもとまらぬ速さでクラリスの結界にぶち当たる。


「バリン!」


 ジェーンの捨て身の攻撃によって、両者の結界がほぼ同時に割れた。


(ヤベ……審判のお礼に何をもらえるのか考えてたら、見逃しちまった。クラリスとジェーンの熱い視線が痛い。俺の一言でこいつらの人生が変わってしまうかもしれん……)


 ハンクはこともあろうか、報酬のことで頭がいっぱいで、決着の瞬間を見逃してしまっていた。一縷いちるの望みをかけて、すがるような目でアスカの方を見つめる。


(ジェーンさんの結界が先に割れました。勝ったのはクラリスさんです)


 アスカはジェーンの結界が先に砕けるのをはっきりと見ていた。クラリスがLv4の魔法を使ったのに対して、ジェーンが放ったのはLv2の必殺技だった。その差が一瞬の差になって現れていたのだ。


「助かったぞ、アスカ!」


 声には出ていないが、ハンクの口がそう動いていた。


「ジェーンの結界が壊れるのがわずかに早かった。よって、勝者はクラリス!」


 ハンクは見逃したことなど、おくびにも出さないように高らかに宣言した。


「組み合わせが悪かった……」


 ジェーンが、残念そうに肩を落とす。


「これにて本日の試合は全て終了とする。明日の2回戦はキリバス対メリッサ、クラリス対ソフィアで行う」





 一回戦が終わった後は、ハウスの1階に作ってもらった食堂に場所を変え、ご飯を食べながら先ほどの戦いの反省会を行うことにした。


「いやー、みんな偉い強くなっちまったな。もう、誰にも勝てる気がせん」


 開口一番、ハンクが感想を述べる。


「本当に凄かったです。みなさんただレベルが上がっただけではなく、スキルを十分使いこなしていて、全てが見応えのある戦いでした。とっても勉強になりました」


 アスカも、みんなが3週間前とは全然違う動きになっていて、素直に感動している。


「やっぱり魔法使いは、詠唱中の隙をどうにかしないと前衛には勝てないね。その点ではノアのやり方はすごく参考になったよ」


 最初にそれでやられたトーマが、反省を口にした。


「うん、魔力操作なら詠唱はいらないから、少し時間を稼いだり、気をそらしたりするのに使えるかなと思って……」


 ノアが褒められて恥ずかしかったのか、その発言は控えめだ。


「僕は、魔法と武術を両方使えるジェーンの戦い方が参考になったね。A級やS級の魔物と戦う時は、大体両方使う敵が多いからね。自分だったらどう戦うか、色々シュミレートしてみたよ」


 キリバスは、ジェーンの戦い方に興味を持ったようだ。


「身体強化とどっちを取るか迷ったんだけどね。せっかくのクランなんだから、みんな同じより違ったスキル構成を持っている人間がいた方が、戦闘の幅が広がると思ってね。キリバス、この大会が終わったら手合わせをお願いするよ」


 ジェーンはあれだけの賞品を前にして、自分よりもクランの成長を選んでくれていた。誰もがそれに気がつき、自分の成長を優先していたことを恥ずかしく思い、顔を赤くする。


「僕からもお願いするよ。せっかく立派な訓練室があるし、活用させてもらおう」


 この後も、戦術やスキルの使い方について大いに話が盛り上がり、途中からお酒も入ってそのまま晩ご飯へと突入してしまった。


(ま、部屋もたくさんあるし、今日はみんな泊まっていけばいいさ。アスカもみんなと一緒で楽しいだろうからな)


 こうして、クラン”ホープ”の武術大会の1日目が終了した。

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