第67話 チッタとマリン

すいません。予約投稿をミスしてました。

慌てて投稿しております……m(__)m


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 今日はのんびりする予定だったが、ベンとソニアに薬品を用意する約束をしたので、在庫をもう少し増やそうと思って、チックの森に薬草を採りに行くことにした。最近、ギルドのクエストを受けていなかったので、ついでにクエストを受けてから行くことにしよう。


(アスカ、今日はローブ着ていくなよ)


(わかってるよ、お兄ちゃん)





 アスカがギルドに入る。中にいる冒険者達は、ちらっとアスカを見るが何事もなかったように視線を戻す。

 昨日とは正反対の反応だが、アスカはほっとしているようだ。


「おはようございます。アスカさん。今日はお早いですね」


 ミーシャはいつみても笑顔だ。しかし、最近はアスカのことがわかってきてしまっているから、あの叫び声が聞けなくなっている。あまりに長い間聞けないと、禁断症状が起きそうだ。


「はい、今日は薬草を採りに行くので、ついでにクエストでも受けようかと思いまして」


 アスカは、俺の心の声を無視して話を進めていく。


「そうでしたか。薬草採取はあまり人気のないクエストですので、受けていただけると助かります」


 ミーシャの受け答えは、相変わらずそつがない。


(ミーシャってなにげに優秀だよな。人当たりもいいし、言葉遣いも丁寧だし、見た目もいいし、あの叫び声さえなければ一流の受付嬢だよな)


(うん。私もそう思う。ミーシャさんのおかげで随分助かってるよね)


(いっそのこと、クランの受付嬢やってくれないかな?)


(あっ、それいいかもね。拠点ができたら誘ってみようよ)


(そうだな。ここよりも高い給料で雇ったら来てくれるかもしれないな)


 そう言いながらアスカは、クエスト依頼掲示板を見る。ギルドが買い取ってくれる、薬草採取クエストを手に取ったところで、後ろから声をかけられた。


「おい、そこのお前。クエストは初めてか?」


 なんとも元気のいい声にアスカが振り向くと、そこにはアスカと同じくらいの年頃に見える、2人組の男女が立っていた。


「そのクエストは、チックの森の薬草採取だな。ちょうど俺たちもチックの森でクエストを受けたところだ。よかったら護衛がてら案内してやるぞ!」


『ゴブリンを倒す』というところを妙に強調した少年が、偉そうに胸を張っていた。後ろにいるのは女の子で、そんな男の子を心配そうに見つめている。2人とも茶色い髪で細い目をしており、どことなく似たような雰囲気を持っている。


「おふたりは兄妹ですか?」


 アスカも同じ印象を持ったのだろう。俺と同じ疑問を口にした。


「ああ、そうだ。おれっちはチッタ。こっちは妹のマリンだ。ついさっき冒険者登録をしたんだ。お前も同じだろう? せっかくだから一緒にどうだ?」


 初心者ではゴブリン退治は、少々荷が重い。いくらF級の魔物といっても、数がいればそれなりに脅威になるし、たいした装備もなければ、運悪く致命傷を受けてしまうかもしれない。そんなこともわかっていないのに、なぜ冒険者登録をしたのだろうか?


「あの、そんなにお若そうなのになぜ冒険者に?」


 アスカが聞く。


「若いだと? お前の方が、よっぽど若そうに見えるけどな。おれっちは15歳で妹は12歳だ。妹は明日が誕生日なんだが、うちは貧乏だからな。何にも買ってやれないから、おれっちがゴブリンを倒したお金で誕生日プレゼントを買ってやるんだ!」


(あかん。これトラックにはねられて死ぬパターンだ。やべ、涙が出てきた。いや、スキルだから実際は出てないんだけど。これをこのまま送り出して、死なれでもしたらやりきれんぞ)


 アスカも涙を流してしまったようで、顔を伏せて隠している。


「そうでしたか。私はアスカといいます。せっかくなので、ご一緒させてもらってよろしいですか?」


 アスカもここに来る前のことを思い出して、少し嫌な予感がしたのかもしれない。『守ってあげないと』と思ったのだろう。


「よし、お前ラッキーだったな。これで安全に薬草を採ることができるぞ」


 相変わらず偉そうなチッタが、受付にクエストを持って行く。ミーシャが対応したのだが、レベルが1だったようでゴブリン討伐は無理だと言おうとしたが、続けて依頼書を出したアスカを見て大丈夫だと判断したようだ。無事にクエストを受けて、3人が出発する。


「よし、出発!」


 チッタ手に持っていた、お世辞にも上等とは言えない槍を上に突き出して、元気よく歩き出した。その後ろを、心配そうにちょこちょことついて行くマリン。さらにその後ろから2人を見守るようについて行くアスカ。

 15歳と明日13歳になる妹を見ながら、かつて2人で買い物に行ったデパートのことを、アスカも同じように思い出しているのだろうか。

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