第65話 大会の賞品を準備しよう

〜side 地竜王〜


 我は地竜王アースロード


 我がこの世に誕生したのが2000年前。


 生まれてから1度も戦いで敗れたことはない。


 最強と言われる竜王ドラゴンロードに進化したのがおよそ1000年前。さらにその上の地竜王アースロードに進化したのは、つい100年前のことだ。

 ここは我の住処で、人間どもの間では地下迷宮ダンジョンと呼ばれている。ここの入り口は、屈強な魔物がひしめく峡谷の中にあるので、人間どもが入り込んできたことはなかった。


 それなのに……


 そいつは突然やってきた。我の姿を見ても恐れることなく、『こんなところで何をしてるのか』などと聞いてきおった。ここは我の住処なのに。

 少々、懲らしめてやろうと思い、我に従っているダークドラゴンとホーリードラゴンと共に立ち上がった。

 我は最強だが油断はしない。まずは目の前の小さき人間を鑑定する。


 その時の我を褒めてあげたい。よく戦う前に鑑定した。偉いぞ我。


 その黒いローブをまとった人間は、我らのステータスを遥かに超えており、スキルもあり得ない程付いていた。戦っていたら、3体でも瞬殺されていたであろう。

 そこで我は謝った。プライドも何もかも捨てて謝った。だって死にたくなかったんだもん。幸い我は許された。キラキラ光るクリスタルをあげたら喜んでくれた。最強だと思ってた我は、その日から最強を名乗るのはやめた。


 もう2度と来ないでほしい……




〜side ショウ〜


 地下迷宮ダンジョンの攻略には一週間ほどかかったので、クランの拠点完成、及び武術大会の開催まであと2週間となった。それから一週間かけて、武術大会の賞品作成した。


 優勝者には地竜王アースロードからもらった『スキルクリスタル2500』と全属性耐性、全状態異常耐性、魔力回復上昇、結界、身体強化を付与した指輪と、オリハルコンで作った武器をプレゼントすることにした。

 もちろん武器は好きな形状で、付与も5つ付ける特典付きだ。ちなみに指輪は鑑定すると、神の加護ディバインプロテクションと出た。


 2位には『スキルクリスタル1000』と、付与を4つ付けた防具を用意する予定だ。素材はもちろんオリハルコンで。


 3位にはアダマンタイトで作った武器か防具を選んでもらう。付与は3つ選んでもらおうかな。


 4位以下は地下迷宮ダンジョンで拾った魔法道具マジックアイテムから、好きなものを持ち帰っていただく。


 そうそう、ハンクには審判をお願いする予定なので、特別にお礼を用意しておこう。泡吹いて倒れるくらいだから、よっぽど賞品が欲しかったはずだからね。オリハルコンのナックルでも作ってあげようか。付与は硬化、軽身、身体強化、体力回復、聖属性を付けた。これなら満足してくれるだろう。ちなみに鑑定すると、名前は神の掌ゴッドパルムと出た。


 さらに一週間かけて、研究室で各種薬品作り、自室で武術大会のルール作りを行った。いや、こちらも自分でやった風に言っちゃったけど、全部アスカがやったことなんだけどね。


 アスカはこのニ週間、地下迷宮ダンジョンや家に篭りっきりだったので、少し街に出て気分転換しに行くように勧めてみた。





 アスカは、以前バジリスクに襲われていたベンとソニアのことが気になっていたようなので、貧民街に行ってみることにした。

 初めて見る貧民街は、思ったよりも整然としていた。商業区や冒険者地区に比べると確かに活気はないが、治安が悪いというわけではなさそうだった。

 やはり、お金がなくて生きるのに精一杯の人達が集まっているからなのだろう。力が全てのようなこの世界では、腕っ節さえ強ければ冒険者という道があるのだから、強い人間がここにいるはずがない。つまり、治安が悪くならないのも道理なのだ。


 さて、ベンさんとソニアさんはいるかな?


 といっても探知Lv5の俺たちにとっては、出会ったことがある人間を探すのなんて朝飯前である。探知可能範囲の半径100km以内なら、ものの数秒で見つけ出せるからね。


(いた!)


 アスカもすぐに見つけたようで、早速会いに行ってみる。もちろん黒ローブ姿で。


「ウォォォーリャァァァー!!」


 角を曲がると、いきなりの叫び声がアスカを待ち受けていた。


「きゃっ!」


 アスカが驚いて声を上げる。


(うぉー! 最近のアスカは強すぎて、こんな可愛い叫び声をあげることなんてなかったのに!! も、萌える……)


(お兄ちゃん、何言ってるの!)


「あら、驚かせちゃったかね? えーと、お嬢さん?」


 目の前にいたのは身長2mはあろうかという、重たそうな槍斧ハルバードを担いだ、大柄で筋肉質の中年女性だった。どうやら薪割りをしていたようで、女性の前には山積みになった薪が大量に積み重ねられている。


「あ、すいません。ちょっと大きな声が聞こえてびっくりしちゃいました」


 見た目は黒ローブの怪しい人物だが、声がめちゃくちゃ可愛いので警戒心が薄れたのか、女性もあまり不審がらずに接してくれた。


「もしかして、その黒のローブに可愛い声。うちのソニアを助けてくれた人じゃないのかい?」


 どうやらこの女性はソニアの母親のようだ。おそらくソニアから話を聞いていたのだろう。


 って、あれ? ソニアのお母さんって病気じゃなかったっけ? 目の前の化けも……ごほん、健康そうなご婦人は、とても病人には見えませんが。


「あ、助けたというか、成り行きでそうなったといいますか……」


 アスカは、あまり助けた感覚はないのだろう。ちょっと歯切れ悪く答える。


「何言ってんだい。バジリスクに咬み殺されそうになったところを、突然現れて一瞬で首を落としたって。それにあたしのために、石化回復薬アンチペトリまで作ってくれたんだって。それも無償で。ソニアは、あんたが黒い天使様だって言ってたよ」


 ……いやね。会話の中身は問題ないんだよ。しごくまっとうなことをいってるんだよ。アスカが天使ってところなんて、よくぞ気づいてくれたって感じなんだよ。

 でもさ、筋肉が凄すぎるんだよ。身振り手振りで話すたびに、上腕二頭筋が『もりもり』いってて、そっちに気を取られ話が頭に入ってこないんだよ。このおばさんなら、バジリスクを絞め殺せるのではなかろうか?


「いえ、確かにそのようなことはあったのかもしれませんが、運がよかったのかと」


 アスカの必殺『運がよかった言い訳』が炸裂する。


「あの子が言ってた通り、本当に謙虚なんだね。こんな人がいるなんて、今の今まで信じられなかったけど、本当にいたんだね。あぁ、あいさつが遅れたね。あたしはターニャ、あんたは……確かわけがあって名前を伏せてるんだったね」


 ソニアはその辺りもきちんと話していてくれたようで、ターニャもちゃんと覚えていてくれたようだ。そこの説明をしなくてよかったので、アスカもほっとしている。


「お母さん、お客さん?」


 そう言って、ターニャの後ろの家からソニアがでてきた。


「あっ! あの時の黒ローブさん! ベン、黒ローブさんが来てくれたよ!」


 ソニアが、家の中にいるベンを呼びに行ったようだ。そしてすぐにベンが姿を現した。

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