第62話 ライアット教授の決意

 もともと、あの実戦訓練以来、Sクラスの授業は校外でやることが多かったので、3週間レベル上げて休むというのも割とスムーズに認められた。思いがけず3週間の休みが出来てしまったので、アスカと一緒にこれからやるべきことを確認する。


 ・賞品となる装備を作る

 ・黒ローブとしてライアット教授の研究のお手伝いをする

 ・素材を集めがてら、レベル上げをする


(やるべきことは、こんなもんかな?)


(うんうん、教授のお手伝いもしないとね)


 そしてアスカと相談した結果、ライアット教授のお手伝いを最初にすることにした。






「ほ、本日は、わ、私達の研究の手伝いに来ていただき、あ、あ、ありがとうございます」


 Lv5の魔法を使う可能性も考えて、学院ではなくツインヒル平原にしてもらった。ライアット教授は、アスカに頼んではいたものの、本当にSランク冒険者が自分達の地味な研究に付き合ってくれるとは思ってもいなかったのか、ひどく緊張しているようだった。

 数名の共同研究者も付いてきているが、こちらはさらに緊張しているように見える。


「私モ、古代魔法ニ興味ガアリマスノデ、デキルコトガアレバ協力シマスヨ」


 アスカは、正体がバレないように風操作で空気の振動を起こし、機械的な声を出している。


「ソレデ何カラヤリマショウカ?」


 黒ローブのアスカが聞くと、昨夜、徹夜で考えてきたという実験内容を教えてくれた。『理論ばかりで、証明することなどできない』と考えていた仮説が検証できると思うと、興奮して眠れなかったのだそうだ。そして、メインで検証したいことは、やはり複合魔法についてだった。


「あの、アスカさんからお伺いしているのですが、2つの魔法を同時に唱えることができるというのは事実でしょうか?」


「2ツ同時ニ放ツコトハデキマスガ、唱エルワケデハアリマセン」


 アスカは無詠唱なので、魔法を唱えるということはないのだ。


「失礼しました。無詠唱をお持ちなのですね。それでお願いしたいのは土操作Lv3の岩石衝突ロックインパクトと炎操作Lv5の魔法を同時に放っていただきたいのですが……できますでしょうか?」


 ライアット教授は、アスカから話は聞いているはずだが、やはり無茶なお願いだと思っているのか、その額には脂汗が浮いている。


炎操作のLv5魔法と言えば、過去の文献に出てくるもの以外に、『Sランク冒険者の【炎帝】グリモス・ベイサイドが使えるのではないか』と噂されているくらいしか情報がないのだ。彼が見たこともない炎の魔法を使っているところを、見た者がいるらしいと言うのが、その噂の出所のようだ。


しかし、誰もが自分の切り札となるような魔法をベラベラと他人に話す訳がないし、ましてや、自ら研究に協力するなど普通はありえないのだ。


「問題ナイデス」


 しかし、この黒ローブのアスカにはそんな常識は通用しない。ライアット教授は、世の中にこんな人間(見た目でも声でも人間とは判断できないだろうが)がいるんだと素直に感動しているようだった。


「マズ炎操作Lv5魔法ヲオミセシマスネ。地獄ノ噴火ボルカニック・インフェルノ!」


 アスカのかけ声とともに、地面から何本もの溶岩が噴き出し、辺り一面に真っ赤な海が広がっていく。そしてあまりの熱に、転がっていた岩まで溶けてしまった。


「こ、これがLv5魔法の威力か……す、すさまじい」


 ライアット教授はもちろん、研究者の人達も、初めて目の当たりにするLv5魔法の威力に圧倒されている。


「デハ複合魔法イキマスネ」


 ライアット教授が息を飲む音が聞こえる。いよいよ、夢にまで見た瞬間が訪れるからだろう。


「左手ニ岩石衝突ロックインパクト、右手ニ地獄ノ噴火ボルカニック・インフェルノ。複合魔法灼熱流星バーニング・コメット!」


 突如空から聞こえてくる轟音。空を見上げたライアット教授の見目に映ったものは、物凄い勢いで落ちてくる、真っ赤に染まった流星。


 ズガァァァン!!


 はるか遠方に落ちた流星は、ツインヒル平原に大きなクレーターを作る。さらにその膨大なエネルギーが、爆風となって吹き荒れた。

 超高温に熱せられたその爆風は、瞬く間に触れた全ての生物を燃やし尽くしていく。ライアット教授達はその瞬間、死を覚悟したそうだ。


 しかし、当然、アスカが結界を張っているので、アスカを中心にドーム型に焼け残る結果となった。


 アスカがふと見ると、ライアット教授の目には涙が浮かんでいた。自分の立てた理論が正しかったと証明できた嬉しさと、その破壊力が自分の想像を遥かに超えていた恐怖が入り混じり、自然と涙が出てきたようだ。


「アナタノ理論ハ正シカッタデスネ」


 感動的な場面なのかもしれないが、アスカの声が扇風機に当てた声に聞こえて、俺は笑いを堪えるので精一杯だ。


「……はい。しかし、この破壊力は想像以上でした。私達はこの魔法の理論とともに、この魔法の恐ろしさを後世に伝えなくてはならないことを今、確信しました」


 ライアット教授は、自分達が何のためにこの研究を続けてきたのかを悟ったようだった。今までは自己満足のためと思っていたが、そうではなかったのだ。Lv5魔法や複合魔法の脅威を後世に伝え、できるだけ悪に使われないようにすること、万が一の時のために対策を考えることが自分達の使命だと、この時確信したのだそうだ。


「本当は、もう少し試していただきたいことがあったのですが、今日はもうこれ以上耐えられそうにありません。また日を改めてお願いすることはできますでしょうか?」


 どうやら想像以上の破壊力に、すっかり参ってしまったようだ。


「問題アリマセン。マタ、アスカサンヲ通シテ連絡シテクダサイ」


 ライアット教授達は、黒ローブのアスカにお礼を言い、ヨロヨロとおぼつかない足取りで帰って行った。


(魔法の研究も大変なんだな)


(うん)


 ライアット教授達の後ろ姿を見て、俺達は感傷的になってしまった。

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