第61話 クランハウス完成記念に……
今日は、学院で他国について勉強した。まず、この世界ケルヴィアには人族が治める国が大きく分けて3つある。
ひとつはこの王都を擁する『エンダンテ王国』。ひとつはその北に位置する『神聖王国クラリリス』。そして最後は、遙か東にある『軍事帝国ネメシス』だ。
その他に迷いの森にあると言われる、エルフの国、『森林国家ネイチャス』、さらに迷宮のひとつを国にしたドワーフ達の王国、『迷宮王国ゴルゴニア』、そして東の帝国のさらに東に魔の者達が住む魔族の国、『魔王国ダークネス』などが存在する。
エンダンテ王国と神聖王国クラリリスは比較的仲がよく、軍事帝国ネメシスはこの2国と仲が悪い。森林国家ネイチャスはその存在すら確認されていない幻の国家で、迷宮王国ゴルゴニアは【鍛冶職人】が多くいるので、どの国とも取り引きがあり中立を保っている。魔王国ダークネスは魔族による世界統一を企んでおり、虎視眈々と他の種族を滅ぼそうと狙っているらしい。
中には危ない国もあるようだが、機会があれば色々な国を訪れてみたいものだ。
午後からはクランのメンバーで集合し、ハンクやミーシャを交え、昨日のベンとソニアの話をした。俺がアスカに話したアイデアとは、貧民街の人達に、冒険者パーティーの荷物持ちの仕事を斡旋できないかというものだ。
実際、数体の魔物を倒せば、それだけで荷物は一杯になり、高価な物から優先して持ち帰るというのが現状だ。泣く泣くその場に置いていく素材だって、結構多いと思う。それらを持ち帰ることができれば、給料を払ってでも雇う価値があるのではなかろうか。
他にも食べ物や飲み物、武器や薬品の予備を持ってもらえば、戦闘も身軽に行えるという訳だ。
「それ凄いよくわかるかも。アスカの謎のリュックは置いておいて、パーティーメンバーはそれなりに自分達の荷物を持ってるし、持って帰れる素材って意外と少ないのよね」
ミスラも思い当たる節があるのだろう、頷きながら同意してくれた。
「食べ物を持ってもらえるのは、ありがたいな。どうせ帰りにはなくなってるだろから、素材を持って帰る邪魔にはならないし、なかなかいいアイデアなんじゃないのか?」
格闘少女のメリッサは『食べ物を持ってもらえる=食べ物をたくさん持っていける』というところが気に入ったようだ。
もちろん危険も多いが、危険が多いところはその分収入も多いので、どちらを選ぶのかは自己責任で決めてもらおう。
「荷物持ちも登録制にして、荷物持ちによるアイテムの盗難を防止したほうがよさそうですね」
ミーシャが受付らしいナイスな意見を出してくれた。
「パーティーが全滅しちまっても、荷物持ちが帰ってきてくれれば行方不明が減るってもんだな……」
ハンクの意見ももっともだけど、ちょっと切ない。
「荷物持ちが怪我や死んでしまったときの補償なんかもできるといいね」
キリバスは戦闘だけではなく、こういった話にもきちんとついてきて、広い視野で物事を見れるようだ。
アスカの提案からどんどん話が弾み、みんなでいい意見を出し合うことができた。特にハンクは、国が頭を悩ませている問題の解決策になるかもしれないと大喜びだ。準備ができ次第、試験的に導入してみることを約束してくれた。
「新しい掲示板は俺が作ろう」
さすがは【鍛冶職人】の息子。アレックスがおいしいところを持っていってこの話を終える。
「そうそう、もうひとつ報告があるのですが……実はクラン”ホープ”の拠点となる建物を建設中です」
「「「なにー!」」」
アスカの新たな発言で、蜂の巣をつついたような騒ぎになった。
場所は冒険者地区でギルドのすぐ近くであること。4階建ての建物に、訓練用のスペースやシャワー室、寝泊まりできる部屋などを作っていることを伝える。
「おいおい、それは造るのにいったいいくらかかるんだい?」
トーマが半ば呆れ顔で聞いてくる。
「えーと、じゅう……15……15億ルークだったかな……」
事情を知っているハンクとミーシャ以外、目が点になっているようだ。
「聞くのが怖いが、そのお金はどこから出てるんだい?」
そう言うキリバスの顔は、ちょっと青ざめている。
「運良く、珍しい素材を拾いまして……オークションで売ったら高値で売れました……」
「アスカの言い訳って、いっつも『運』がよかっただね……」
メリッサに言われてしまったが、みんなアスカのことをわかってくれているおかげか、それ以上は突っ込まないでいてくれた。
しかし、アスカの爆弾発言はこれだけでは終わらない。
「あ、そうだ。拠点が完成したら何かイベントをしたいと思っています」
「へー、どんなイベント?」
槍使いのジェーンが、何気なく聞いてきた。
「そうですね。武術大会なんてどうでしょう? 1対1のトーナメント戦で、誰が1番強いのかを決めるみたいな感じで……」
アスカは思いつきで提案したようだ。そんなこと考えていたなんて、知らなかったな。
「うん。それはちょっと面白いかも。もともとこのクランはみんなレベルが同じくらいだし、3週間あればもっと強くなれるだろうから」
まずは気の強いミスラが食いついてくる。
「私も賛成だね。まぁ、ここにいる誰にも負ける気はしないけどね!」
メリッサもやる気満々だ。
「上位入賞者には賞品も用意しますよ!」
アスカが笑顔で続ける。
「それは楽しみだ。ちなみにどんな賞品か決まってるのかい?」
斧使いのゴードンも優しい聞き方をしてくるが、目は誰にも負ける気はないと物語っている。
「そうですね。まだ決まっていませんが、付与付きの装備とかアクセサリーはどうでしょう?」
アスカのその発言を聞いた途端に、みんなの目の色が変わった。
「それは、アスカが装備しているものと同程度のものと考えてもいいのかい?」
みんなが考えていることを、キリバスが代表して聞く。すでにみんな身体を乗り出し、アスカの答えを待っている状態だ。
しかしハンクさんよ、1番身を乗り出しているお前さんはクランに所属してないだろう。
「というか、これは付与が3つしか付いてないので、もうちょっといいのを用意しておきます」
「「「はぁーーーーーーーーーーー!!」
もう誰が何を言ってるのかわからない、お祭り状態だ。ここに来てまだ一言も話していない、フローレン兄妹ですら、興奮して2人で手をたたき合っている。
しかし、アスカの爆弾発言はまだ終わらない。
「あ、優勝者にはこれも付けちゃいますね。この間、拾ってきた『スキルクリスタル』です」
そう言ってリュックから『スキルクリスタル1000』を出す。
「「「……………………………」」」
(あれ、みんな固まっちゃったぞ?)
――数分後――
「ア、アスカ、そ、それは……じょ、じょう、冗談だよな???」
最初に我に返ったのはハンクだった。
「はい? 冗談ではなくこれは『スキルクリスタル』だと思うのですが違いました?」
「お、おれ、俺も初めて見るから……わからんが、ちょ、ちょっと、ちょっとちょっと見せてもらえるか?」
どうしたハンク。どこかのお笑い芸人か!?
アスカは『スキルクリスタル1000』をハンクに手渡した。
ハンクはそれをじっと見つめている。周りのみんなもようやく動き出し、ハンクの手元にある『スキルクリスタル1000』に注目している。
「クリスタルの中にスキルポイント1000と書いてあるのが見える。これマジものだぞ……」
ちょっと怖くなってきたのか、アスカに手渡すハンク手が震えている。
「『スキルクリスタル』って数年前にオークションで取り引きされて以来、表舞台には出てきてないって教授が言ってましたよね」
人見知りのクラリスが、人見知りであることを忘れて声に出している。
「その時の落札価格は500億ルークじゃなかった? スキルポイント100で……」
「「「…………………」」」
ほお、メリッサはなかなか博識のようだ。だが、その金額を聞いてみんなが黙りこくってしまった。、
――数分後――
「でも、お金じゃないですよね。これひとつで詠唱短縮を獲得することができますし……」
ショックから立ち直ったソフィアは、お金よりもその価値に気づいたようだ。
「もしかして、これと同じものがもう1つでも手に入ったら、Lv5も夢じゃないかも……」
誰もが一度は憧れる伝説のスキルLv5。多くの者が求め、手にした者はほんの一握りだけ。その一握りは例外なく、伝説の人物となっている。その夢だと思っていた力を手にするチャンスが、今目の前にあるのだ。冒険者ならお金よりも、その価値に魅せられるだろう。
「うぉー! 絶対、優勝してやる!!」
「いえ、ハンクさんはクランメンバーじゃないので、参加資格がありませんよ」
あ、アスカの一言でハンクが泡を吹いて気絶した。
「こうしちゃいられない! あと3週間しかない。ちょっと山にこもってくる!」
そう言って、メリッサがギルドを飛び出したのを皮切りに、全員が慌てて後を追う。どうやら3週間みっちりレベル上げをして、優勝を狙うようだ。残されたのは、泡を吹いて倒れているハンクと冒険者ではないミーシャだけだ。
「やり過ぎちゃいましたか?」
アスカの問いかけにミーシャは――
「はい、ありえないほどに……」
静かに答えるのだった。
この後、アスカを除く全員が学院に3週間の欠席を連絡したのだった。クラスのメンバーが誰もいないので、アスカも3週間休みになった……
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