第59話 デスバレー峡谷で鉱石採集

 武術学院との合同実戦訓練以来、Sクラスに対する学院の対応が変わってきている。教授の授業が少なくなり、実戦訓練が増えているのだ。


その中には、クエストを受けての課外訓練も含まれているので、授業の時間にレベルやランク上げが可能になっている。教授の引率がなくても、許可さえあれば自分たちで行けるようになり、その結果、Sクラス全員のレベルとランクが大幅にあがった。


 ソフィアはレベル35で【賢者】、水操作Lv3と治癒Lv2を覚えている。

 ミスラはレベル37で【魔道士】、炎操作Lv3と雷操作Lv2を選択した。

 アレックスはレベル36で【魔法使い】、土操作Lv3と鍛冶Lv2を取得した。

 ノアはレベル35で【魔道士】、雷操作Lv3、光操作Lv2を選んだ。

 クラリスはレベル35で【賢者】、風操作Lv3と治癒Lv2を取得した。


 全員のメインスキルがLv3になっており、それぞれ2つめのスキルも覚えている。ソフィアとクラリスは治癒を選んだ。冒険者全体で見ても、回復役が少ないからだそうだ。

 アレックスは鍛冶を選んでいる。父親の後を継ぐのか聞いてみたが、必ずしもそうとは限らないと答えが返ってきた。『【戦士】たるもの自分の装備は自分で管理できるように』というのが目的らしい。

 ノアは状態異常回復できる人材がいないので、光操作を選んだ。ミスラは完全に攻撃特化型の【魔道士】だ。


 そしてアスカはお手伝いに徹していたので、それほど強い敵とは戦っていないがそれでも2つほど上がっていた。


 名前(ヒイラギ)アスカ 人族 女

 レベル 30(58) 

 職業 賢者(超越者)

 ステータス

 HP 124(1215)

 MP 134(1225)

 攻撃力 124(1215)

 魔力 144(1235)

 耐久力 124(1215)

 敏捷  134(1225)

 運   134(1225)   

 スキルポイント 200(1325)


 しかし、これはやばいかもしれない。補正や倍化がLv5になって、ステータスとスキルポイントのインフレが始まってしまった。


 補正も各種倍化も通常の10倍になっているので、この段階ですでにS級の魔物を素手で倒してしまうレベルまで達している。さらにレベルが上がれば、動く災害となってしまうだろう。




 そんなレベル上げの日が続き、今日は住宅兼店舗の完成の日となった。


 学院の授業が終わった後、商業区へ向かう。今まで寝泊まりしていた宿も今日で最後なので、部屋をきれいに整頓し女将さんに挨拶をして出て来た。


 親方は注文通りに改装してくれたようで、大きな屋敷が新築のように綺麗に様変わりしていた。工房や研究室も揃っており、生産活動にも力を入れることができそうだ。親方にお礼を言い、代金の3億ルークを支払う。


「疑っていたわけではないんだが、本当に3億を簡単に払えちまうんだな」


 親方も、まるで回復薬ポーションを買うかのように家を買うアスカを見て、半ば呆れているようだ。クランの拠点の方も土地の確保はできており、これから急ピッチで作業を進めていく予定なのだそうだ。


「これが私達の新しい家か~」


 アスカがまだ出来立ての家に入り、各部屋を探検している。探検ついでに、倉庫には空間拡張と時間停止を付けておいた。これで魔物の素材や薬草なども安心して置いておけるだろう。


(アスカ、せっかく家ができたから素材集めに行かないか?)


(うん。鉱石とか薬草だね。どこに採りに行こうか?)


 2人で相談して、今日、授業で習ったばかりのデスバレー峡谷に行くことにした。そこの奥深くでは、オリハルコンやヒヒイロカネといった、希少な金属が採れるらしい。

 ただ、『奥にはA級やS級の魔物がウロウロしてるから絶対に行かないように』と、ライアット教授が言っていたが、Sランク冒険者の黒ローブさんには関係ないだろう。


 そうと決まったら早速出発だ。


 アスカは黒ローブをまとって、屋上から飛び立つ。インビシブルタイガーを真似て、光操作で姿を隠しているから見られる心配もないはずだ。





 デスバレー峡谷はチックの森のさらに北、神聖王国クラリリスとの境界にある。

 ここには世界にいくつか存在する『地下迷宮ダンジョン』がある。今日は時間がなくて行けないが、アスカは『いつかクランで挑戦したいなぁ』なんて考えているようだ。


(アスカ、このまま飛んで下まで行こう)


(うん、そうだね)


 普通の人は、断崖絶壁を何時間もかけて降りるのだろうが、アスカは空が飛べるので真っ直ぐ下まで降りる。まあ、この峡谷をわざわざ降りる物好きなど、そうそういないのだが。


光球ライト!」


 アスカが、光操作Lv1で光の玉を作り出す。光とは無縁の世界に明かりが灯り、そこにいた魔物達が姿を現した。

 全長3mはある、A級のデスタランチュラがC級のブラッドスネークを捕食している。デスタランチュラは猛毒と粘糸を持っており、敵を動けなくしてから毒を送り込むのだ。


 強い、弱い、じゃなくて気持ち悪いな、これ……


 アスカは昔から蜘蛛が嫌いだったので、露骨に嫌な顔をしている。そのデスタランチュラは、次の獲物をアスカに決めたようで、毒で動かなくなったブラッドスネークを放っておいて、アスカに近寄って来た。


太陽爆発オーバーフレア!」


 アスカの一撃で蜘蛛の胴体が吹き飛ぶ。

 その音を聞きつけ、数十匹のデスタランチュラが、岩の隙間から這い出てきた。


大津波ダイタル・ウェーブ!」


 アスカは無表情のまま、問答無用で水操作Lv5の魔法を放った。ちなみにこの世界では、まだ未確認の魔法のはずだ。

 デスタランチュラどころか、近くにいたであろう他の魔物も、突如現れた暴力的な激流に流され、岩壁に叩きつけられ、水に溺れ、次々と息絶えていく。


(この辺りの魔物はいなくなったね!)


(お、おう。そ、そうだな)


 水が引いた後、辺り一帯には魔物の気配はなくなっていた。

 アスカは事前に用意していたツルハシで、岩壁を壊し、中からぼんやり光る鉱石を取り出していく。白く淡く光るのがオリハルコンで、薄く金色に光るのがヒヒイロカネだ。人の手が入っていないせいか、かなりの量の希少な金属が手に入った。

 さらに1つだけだが、スキルクリスタルまで見つけてしまった。こぶし大の大きさで、鑑定すると、『スキルクリスタル1000』と出た。おそらくかなり貴重な品だろうが、アスカにはもう必要のないものだったりする。


(よし、鉱石はこのくらいでいいだろう。スキルクリスタルが手に入ったのもラッキーだったな。後は少し戻って、チックの森で薬草を取って帰ろう)


(はーい)


 アスカは峡谷の底から飛び立って、チックの森へ向かった。

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