第57話 ヤバいのはアスカ

〜side ???〜


 次の日、王都武術学院のSクラス4人は、ツインヒル平原での実戦訓練を終えて、自分たちの学院へと戻って来ていた。


「なぁ、キリバス。お前のところの魔術学院のメンバーはそんなにやばかったのか?」


 ゴードンは昨日の宴会での話が信じられなかったのか、改めてキリバスに確認している。


「あぁ、正確にはパーティーではなく、”アスカ”って子ひとりが信じられないくらい強かった」


「あれはちょっと異常だね。あたしの見立てじゃ、あれでも手加減していたと思うよ」


 メリッサも、キリバスと同意見のようだ。


「最初は、大したことない奴だと思ってたんだ。後衛という割に魔法は使わないし、しゃべりもしないし。むしろ、他の2人の方が積極的にサポートしてくれて『さすが魔術学院のSクラスだな』と思ってたんだ。

 ところが僕とメリッサが熱くなりすぎて、C級の魔物達に囲まれてから彼女は一変したのさ。今思えば、最初は僕らが経験を積めるように、大人しくしていたんだって気がするよ」


 キリバスは、そこまでしゃべって一息つく。そして、昨日の戦闘を1つ1つ思い出すかのように、ゆっくりと続けた。


「まず驚いたのは、魔物に囲まれてもうダメだと思ったとき、自分が前衛をやるから、逃げずに戦おうって言ったことだ」


「えっ!? 魔法学院のSクラスが前衛? それは、あのSランク冒険者のクロム・ロイのように、【魔法剣士】ということか?」


 ゴードンもこの話は聞いていなかったので、純粋に驚いている。


「いや、多分違うと思う。なぜそう思うかはこの後の話でわかると思う」


 そう言ってキリバスは話を続ける。


「僕も、それを聞いたときは無茶だと思ったよ。だって、C級に囲まれてるんだぜ。さらに奥からは、B級のドレイクとヘルハウンドの群れが近寄ってきてたんだ。

武術学院のSクラスの僕らが諦めたのに、魔法学院の生徒が前衛だなんて、信じられるわけないだろう?

 だけど彼女が白いローブを脱いだとき、その装備を見て彼女が本気だということがわかったよ。見たこともないダークグリーンの素材で出来た鎧と、同じ素材で作られたであろう剣は、僕の装備にも劣らないものだったからね」


 ゴードンはもちろん、横で一緒に話を聞いていたジェーンも、信じられないといった顔を見せる。

 なぜならキリバスの装備は【剣帝】が若かりし頃使っていた、S級のホーリードラゴンの素材で出来ている一品だからだ。


「そしてさ、向かってくるイービルウルフは全て一刀で斬り捨て、その上、氷操作、雷操作で僕らの前のイービルウルフの動きを封じ、挙げ句の果てに、MPが切れた後衛2人に治癒でMPの譲渡までしちゃったんだぜ。

さらにさらに土操作で僕の周りに壁を作って背後を守り、風操作でドレイクの翼を切り裂く。おそらく彼女なら1人で全部倒せたのに、ここまできてなお、僕らの経験のためにサポートに徹していたのだと思う」


「……お前、その話が本当なら相当やばくないか?」


 あまりのあり得ない能力に、ゴードンの顔が青ざめている。


「まだトドメの話が残ってるぞ。気絶するなよ。これで終わりと思ったら、カースバジリスクが現れたわけだ。呪いの瘴気については風向きがよかったなんて言ったが、まあ、そんなわけないだろ。これもアスカのおかげだったんだが、彼女、何をしたと思う?」


 キリバスがゴードンとジェーンに問いかける。


「風操作で瘴気を吹き飛ばしたのかい?」


 メリッサがそれらしい答えを導き出す。


「それならまだ可愛げがあるよ。彼女は何と結界Lv4の絶対防御アブソリュートディフェンスを使ったのさ。それも僕とメリッサに同時にだ。呪いの瘴気どころか、カースバジリスクの爪も牙も弾き返すんだぜ。あの結界のおかげで、A級のカースバジリスクがただの雑魚だったよ」


 最早、ゴードンとジェーンは開いた口が塞がらなくなっている。


「というのが、昨日の真相さ。同じクランに入った仲間だから、ありのままを伝えておくよ。ただし、他言は無用だぞ。この話が広まったら、アスカは学院にはいられないだろうからな」


 キリバス達4人は、アスカとは敵対しないようにするという意見で一致する。逆に言うと、味方にしておけばこれほど心強い者はいないということだ。自分たちが強くなるためにも、クラン”ホープ”でひたすら実践を繰り返そうと4人で誓ったのだった。

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