第55話 諦めますか?

「まずは氷の網フリーズウェブ!」


 アスカの魔法が、周囲の地面をイービルウルフの足ごと凍らせる。


「みなさん、サポートは私がやりますので、とにかく魔物の数を減らしてください」


 アスカの言葉で、後衛達もサポート魔法から攻撃魔法へと切り替えるようだ。


「炎の矢よ、敵を貫け炎の矢フレイムアロー!」


「水の刃よ、敵を切り裂け水の刃ウォーターエッジ!」


 ミスラの炎の矢フレイムアローとソフィアの水の刃ウォーターエッジが足を取られ、身動きの出来ないイービルウルフに命中する。


「断鉄斬!」


 さらに、キリバスの魔法剣がイービルウルフの首を落としていく。


「破岩拳!」


 メリッサの拳は、イービルウフルの頭蓋骨を一撃で叩き割った。


 この手の魔物は素早い動きさえ封じれば、耐久力が低いので一撃で倒すことができるのだ。


雷の閃光サンダースパーク!」


 アスカがサポート魔法の代名詞、雷の閃光サンダースパークで群れの残りを麻痺させた。


 そして、魔物の動きが鈍くなったところを、4人が一体ずつ確実に倒していく。


「ごめんなさい。MPが切れました。回復するまで魔法が撃てません」


「ちっ、私もだ」


 ここで、ソフィアとミスラのMPが同時に切れたようだ。MPの尽きた魔法使いほど役に立たない者はいないが……


魔力譲渡マナトランスファー!」


 アスカが唱えたのは、自分のMPを対象に分け与える治癒Lv3の魔法だ。


 アスカの手から光の粒子が放たれ、ソフィアとミスラの身体を包み込む。


「「MPが回復していく!!」」


 MPを回復して、2人には最後まで戦ってもらうのだ。あくまでもトドメはアスカ以外の4人にやってもらいたいからね。


 アスカに向かってきたイービルウルフは、全て一刀の元に切り捨てられる。イービルウルフの群れはほぼ全滅し、残ったものもすでに逃げ出していた。あとはドラゴンの下位種であるドレイクと、数体のヘルハウンドだけとなった。


「ドレイクは火の玉を吐きますので、水魔法が使えるソフィアさんと、メリッサさんで倒してください。ヘルハウンドは闇耐性を持っているので、聖属性装備のキリバスさんと、ミスラさんで倒してください」


「あいよ!」(メリッサ)

「わかりましたわ」(ソフィア)

「任せてくれ」(キリバス)

「やってやるよ!」(ミスラ)


 アスカの提案に、4人が同時に返事をする。


石の壁ストーンウォール!」


 複数のヘルハウンドに同時に襲われないように、キリバスの背後に石の壁を作り出す。壁を背にすることで、正面からの攻撃に集中できるはずだ。


大気の刃エアリアルブレード!」


 ドレイクには空を飛ばれるとやっかいなので、大気の刃エアリアルブレードでその翼を斬っておくのを忘れない。


 B級の魔物は明らかに格上だったが、2組とも上手な連携とアスカのサポートのおかげで、有利に戦闘を進めていった。


 炎属性に相性がいいソフィアの水の刃ウォーターエッジが、ドレイクの身体に傷を付けていく。そこにメリッサの必殺技が唸りを上げて襲いかかった。身体を傷つけられ、動きの鈍くなったドレイクは躱すことができずに、心臓に一撃を食らい倒れる。


 キリバスもLv1からLv3までの必殺技を巧みに使い、ヘルハウンドの数を減らしていく。ミスラもキリバスの攻撃を躱した個体を炎の爆発バーニングフレイムで狙い撃ちする。激闘の末、キリバスの一突きが、最後のヘルハウンドの心臓を貫いた。


「終わった……のか?」


 キリバスが、息を切らしながら呟く。


「いえ、まだのようです」


 アスカの返答に、全員が顔を上げる。その瞳に映るのは、邪悪な蛇の王様カースバジリスクだ。鋭い牙が並んだ大きな口からは、呪いの瘴気を吐き出し、その瘴気に触れたものを『呪い』状態にしてしまう。相手のステータスを大幅に下げてから、ゆっくりといたぶって倒す、タチの悪いA級の魔物だ。


「こいつはまた、最後にとんでもない魔物が来たな……」


 メリッサが初めて見るA級の魔物に、半ば諦めたように呟く。


「カースバジリスクか。5人で戦っても勝てるかわからない相手だから、1人でも呪いを受けてしまったら終わりだな」


 キリバスも苦しい表情を浮かべる。


「では諦めますか?」


 そんな前衛2人に、アスカが厳しく問いかける。


「……いや、すまない。少し弱気になっていたようだ。何としてでもこいつを倒し、みんなで王都に帰ろう!」


 キリバスのその言葉に、全員が力強く頷く。


「まず私達後衛は、魔法道具マジックアイテムの効果で呪いが効きません。私達には気を使わずに戦ってください。それから前衛のお二人も私が何とかしますので、呪いは気にせず全力で戦ってください」


 アスカがさらっと出した指示に、ミスラは困惑の表情を浮かべている。


「呪いを防ぐ魔法道具マジックアイテムって、聞いたことないんだけど……」


 メリッサが何か言いたそうだが、今はそれどころではないので聞き流すことにする。


「よし、ここまで生き残れたのもアスカのおかげだ。僕はアスカを信じる」


 そう言って、キリバスがカースバジリスクの前に立ちはだかった。


「あたしも、アスカと貴方を信じるよ」


 メリッサがそう言いながら、キリバスの横に並んで立つ。2人の目にはもう諦めの色は一切浮かんでいない。


(いいパーティーだな。絶対に死なせないぞ)


(任せてお兄ちゃん)


「よし、いくぞ!」


 キリバスの掛け声で、命をかけた戦いが始まった。

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