第53話 オークションに出品する

 次の日、アレックス達4人にクランの話をすると、喜んで了承してくれた。

 それからしばらくは、授業ではパーティーを組んで地上迷宮ラビリンスに挑戦したり、放課後はクランでチックの森やツインヒル平原の入り口付近で、レベル上げやランク上げをする日々が続いた。おかげで、みんなレベルが20を超えたし、戦い方も上手になってきている。


 ちなみに、ソフィアとミスラから預かったアクセサリーは隠蔽を施し、見た目普通のアクセサリーにして返しておいた。




 そんな日々が続き、クロム達とカイザーキマイラを倒してから、丁度一週間が経った。今日は学院が休みの日なので、かねてから予定していたオークションに行ってみることにした。

 ひとりだとちょっと心配なので、ミーシャに付いてきてもらうようにお願いしている。姿を見せないようにこっそり参加する予定なので、ついでに主催者や落札者と対応してもらおうと思っているのだ。

 ミーシャには、仕事を増やして申し訳ないとアスカが謝っていたのだが、むしろ彼女はノリノリだった。目立つのは嫌いじゃないらしい。

それでも、もちろんその分のお給料は払うつもりだ。




 オークション会場は商業地区の真ん中にあり、始まる前から多くの貴族や商人、王都の有力者で賑わっていた。ミーシャが慣れた様子で主催者と交渉し、飛び入りの参加を認めてもらう。主催者も過去に例のない商品に大興奮で、自分も参加したかったと悔やんでいた。


 オークションが始まると、競売人が軽快な口調で商品を勧めていく。B級の魔物の素材やA級の魔物の素材が多く、時々、迷宮で見つかったであろう希少な鉱石や魔法道具マジックアイテムが売りに出されている。今まさに、鋭利が付与された片手剣が1000万ルークで落札された。


「本日予定されていた商品は、全て落札されました。本来はここでオークション終了となるはずでしたが……」


 予定の品が全て落札されたことで、何も知らない者達は帰り支度を始めていた。しかし、今はその手を止めて、何事かと競売人の次の言葉を待っている。

 ギルドから漏れた情報で、『カイザーキマイラが飛び入りで出品されるらしい』という噂を聞いていたものは、これから始まる熾烈な争奪戦を予想して気合いを入れ直していた。オークション会場になんとも言えない緊張感が漂っている。


「急遽、飛び入りでの参加がありましたので、最後にそちらの商品をオークションに出したいと思います。その商品は……こちらです!!」


 いつの間にか、舞台の中央に置かれていた巨大な置物の布が剥ぎ取られる。そこに現れたのは、氷漬けになったS級の魔物、カイザーキマイラだ。その身体には傷ひとつなく、最高の状態で保管されている。


「うぉぉぉー!」

「なんだこれは!?」

「噂は本当じゃったか!!」

「至急旦那様に連絡を!」


 このことを知らなかった者達が、慌てて参加の準備を始めている。代理人達は急いで、主に連絡を取っているようだ。


「さあ、ご覧の通り本日最後の商品は、S級の魔物『カイザーキマイラ』だ!! S級の魔物の素材など、月に1体出るか出ないかだというのに、見てくれこの商品を! 氷漬けにされており、傷ひとつない完璧な状態だ! 未だかつてこのような商品を見たことがあるだろうか!?」


 競売人の紹介も段々ヒートアップしてくる。


「爪や牙、皮などは素晴らしい装備品に、内臓は希少な秘薬の材料に、余すところなく利用できること間違いなし! さらには傷ひとつない完璧な状態なので、剥製や研究材料にも持って来いの商品だ。もう二度と出ることのないかもしれないこの商品、5000万ルークからどうぞ!!」


 商品価値がよくわからなかったので、5000万ルークで始めてもらったが、あっと言う間に1億ルークを超えてしまった。尚も、激しい争奪戦が繰り広げられており、会場のボルテージも最高潮に達している。

 その様子を舞台から眺めていると、客の中にレコビッチさんの姿を発見した。今も釣り上がっている金額が、予算を超えてしまったようで、悔しそうな顔をしながらことの行く末を見守っている。


 最終的には28億ルークで、王都一の大富豪と言われているモーリー・ハイムリッツ氏が落札した。研究材料にしようと狙っていた魔物研究所の所長や、剥製にして自慢しようと考えていた貴族達ががっかりと肩を落とす。


 そして、商品の提供者が今話題の黒ローブの冒険者であること、その専属受付嬢がミーシャであることが紹介された。今後、黒ローブへの依頼はミーシャを通すことになるので、姿を現さない黒ローブに代わってミーシャが一躍時の人となっていた。


「ぶっぴーぶぴー、これよこれ、私が待ち望んだものは! 今が人生で1番輝いている時だわ!」


 ミーシャはまるでアイドルにでもなったかのように有頂天になっていた。


(俺も思わぬところで、笑いのエネルギーを補給させてもらって満足できた! アスカ、まとまったお金も手に入ったし、今度、家でも買いに行こう!)


(まだ信じられないけど、宿に泊まるのも疲れてきたから、家が買えるといいね)


 こうして俺たちのオークションデビューは幕を閉じたのだった。

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