第52話 全て黒ローブのおかげ作戦

 昼食を7人で仲良く食べ、アスカは午後からの授業に向かう。場所は学院の横にある、ピラミッド型の建物の前だ。


「ここは学院が所有している人工の『地上迷宮ラビリンス』だ。午後はここで魔物と戦ってもらう」


 午後は、再びライアット教授が担当に戻るようだ。


 この世界には、迷宮と呼ばれる魔物の住処がいくつか存在する。地下にあるものは『地下迷宮ダンジョン』と呼ばれ、地上にあるものは『地上迷宮ラビリンス』と呼ばれている。


どちらの迷宮も、奥に行くほど強い魔物が生息しており、中には地下50層を超える『地下迷宮ダンジョン』や地上50階を超える『地上迷宮ラビリンス』なども存在するらしい。


魔物の強さもさることながら、迷宮の奥では貴重な鉱石や魔法道具マジックアイテムが見つかることもあり、腕に自信のある冒険者がこぞって挑戦している場所なのだ。


「この『地上迷宮ラビリンス』は4階まであり、1階はF級の魔物が出る。階が上がる毎にひとつずつ魔物の級も上がり、4階ではC級の魔物が出る。Sクラスの諸君には2階まで行って、E級のホブゴブリンを倒してきてもらう」


ライアット教授の指示に従い、Sクラスのみんなで相談し2つのパーティーに分かれた。


 ひとつはアスカ、ソフィア、ミスラのパーティー。もうひとつはアレックス、トーマ、ノア、クラリスのパーティーだ。


さすがにみんなレベル上げを経験しているだけあって、E級くらいは楽に倒せるようだった。アスカも上手に手加減して、正体がバレないようにしている。


どちらのパーティーも2階まですぐに到達し、問題なくホブゴブリンを倒して帰ってきた。さすがはSクラスといったところか。


「今日の授業はここまでだが、この後、私と一緒にギルドまで行って、冒険者登録をしよう。ついでに今のメンバーでパーティー登録をして、授業とランク上げを同時進行で行うように」


 学校での授業が終わり、みんなでわいわいと雑談しながらギルドへと向かった。





 2日ぶりのギルドは、相変わらず冒険者たちで混雑していた。なぜかカウンターの前や掲示板の上に、新たなSランク冒険者の誕生を紹介するポスターが貼ってある。そこには黒ローブのイラストとともに、Aランクからの実績が紹介されていた。そしてなぜが、ポスターの端っこにクロムのサインが書いてある。


 何してんだあいつ……


 ライアット教授を先頭に人混みをかき分け、登録カウンターを目指していると、向こうからハンクが歩いてくるのが見えた。


「おう、アスカ……」


 ハンクが言い切るより早く、アスカが殺気を込めてハンクを睨む。


「アスカ……らパーティーを組んで修行する生徒達か? ライアット」


 ハンクは、上手く誤魔化したつもりでライアットに話しかけている。大分、下手くそだけど。


「ああ、今年のSクラスのメンバーだ。今日は冒険者登録をさせようと思って」


 ライアット教授はハンクと知り合いのようで、軽く挨拶を交わし、受付へと歩いて行く。


「すいません。この子達の冒険者登録をお願いしたいのですが……」


 しかしこれはまずい。カウンターの先にいたのは、あのミーシャだ。


「はい、こちらの7人ですね。あら、アス……」


 アスカの鬼の形相を見たミーシャが固まる。


「アス……の天気は晴れでしょうかね?」


 ミーシャ……さすがにそれはないだろう。


「はあ? どうでしょうかね。晴れる気がしますが……」


 ライアット教授は意外と鈍いようで、この不自然さに気づいていないようだ。


 アスカはすでに冒険者登録をしているので、残りの6人が登録を済ませる。初めて手にする冒険者カードに、みんな感動しているようだ。

 その後、ミーシャからクエストの受け方などを一通りレクチャーしてもらい、今日は解散となった。


 みんながギルドを出たところを見計らって、ソフィアとミスラがアスカを夕食に誘ってくれた。アスカも喜んでお誘いを受けている。場所はこのままギルドの食堂のようだ。


「アスカ、実は話があるんだけど……いいかな?」


 食事がひと段落したところで、ソフィアが神妙な顔をして話を切り出してきた。


「何でしょうか?」


 アスカも真面目な顔で答える。


 ソフィアはアスカからもらったアクセサリーを父親とともに【鑑定士】に見せたこと、そして付与されていたのが、今まで確認されていないスキルだったこと、父親がこのアクセサリーの出所をひどく気にしていることを告げた。


 まさか、未確認スキルだったとは。それは気になるだろうな……


「それで、あのアクセサリーはもらったって言ってたわよね? 誰からもらったのかしら?」


「えーと、そこのポスターに載ってる黒ローブさんなんですよね。それをくれたのは……」


 全て黒ローブのおかげ作戦である。


「まあ! この最近Sランクになられた黒ローブ様ですの!?」


「黒ローブ……様?」


 何で『様』なんかつけてるんだ?


 どうやら、ここ最近、冒険者や貴族達の間では新しいSランク冒険者の話題で持ち切りらしい。S級の魔物をソロで倒してしまう実力ながら、その一切が謎のベールに包まれている、孤高の冒険者。同じSランクのクロムも認める実力で、その正体は魔人ではないかとも言われている。


「そうでしたか。Sランクの冒険者様なら、あのアクセサリーを持っていても不思議ではありませんね!」


 どういう評価なのかは分からないが、納得してくれてるならよしとしよう。しかし、そこまで騒がれてしまう物なら、そのアクセサリーが狙われて返ってソフィア達が危険かもしれないな。隠蔽を付与しておいた方がいいか。


「もし、よろしければそのアクセサリーの性能を、隠蔽してもらいましょうか?」


「えっ? そのようなことができるので?」


「はい、問題ないと思います」


「俄には信じられませんが、黒ローブ様なら可能なのでしょうね。それでは、お願いしようかしら。ミスラあなたの指輪も……」


 アスカは2人からアクセサリーを預かり、黒ローブに隠蔽を付与をお願いすると約束した。


「にしても、アスカが黒ローブ様と知り合いとはなぁー。全く正体がわからないってのに、驚きだよな」


 ミスラがなかなか鋭いツッコミを入れてくる。


「たまたま、危ないところを助けていただきまして、そのまま仲良くなった次第です」


「そいつはうらやましいな。今度、紹介してくれよ」


 ミスラがさらに追い討ちをかけてきた。何でみんなこうも会いたがるんだ。


「あ、あまり人前に出たがらない人なので、聞いてはみますが期待しないで下さいね」


 アスカは苦笑いしながら、そう言ってお茶を濁しておく。


 その後は、学院の話や今日の『地上迷宮ラビリンス』の話で盛り上がり、せっかく7人しかいないのだから、一緒に戦いたいという話になり、だったら”クラン”を作ろうということになった。2人はリーダーをアスカにしようとしたが、アスカは目立つのは嫌だと断固拒否していた。結局、ソフィアがリーダーでクランを作ることになった。クラン名は『ホープ』だ。


「明日、他のメンバーにも入ってもらえるか聞いてみましょう」


 そして、その後もしばらく楽しい食事の時間は続くのであった。

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