第50話 国宝級のプレゼント
「帰りがけにすまない。少し話をしたいのだが、よいだろうか?」
アスカは今日の入学式の挨拶のことでずっと緊張していたので、正直、疲れていて早く宿に帰りたそうだったが、Sクラス担当の先生の誘いを断るわけにもいかず、話を聞くことにしたようだ。
ライアットは『古代魔法研究会』と書かれたプレートが掲げられている教室の前で立ち止まり、アスカに中に入るように促した。中に入り、テーブルを挟んで向かい合った形で座る。テーブルの上には、筆記試験で提出したアスカの解答用紙が置かれていた。
「疲れているところを申し訳ない。君の筆記試験の解答で気になるところがあったので、直接君に聞いてみたいと思い来てもらったのだが……」
「もしかして、合格発表の時に書いてあった『検討中』というのと関係ありますか?」
「まさしくそうなのだ。率直に問おう、君が最終問題で書いた複合魔法だが、どこかで聞いたことがあるものなのだろうか?」
ライアット教授の話によると、アスカが解答した
さらに余白に書かれていた
同僚達から見ると、問題の意味もよく分かっていない受験生が、適当に書いた解答に振り回されているように見えたらしい。しかし、誰よりも古代魔法を研究してきたライアットには、この解答があまりにも自然で納得のいくものだったので、アスカに確かめずにはいられなかったのだ。
(お兄ちゃん、なんて答えようか?)
(そうだな。さっきのアクセサリーも含め、黒ローブさんのせいにしちゃおうか)
どうせ黒ローブがSクラスに昇格したことが、そのうち発表されるだろうし、ヘタすればSSクラスに昇格するかもしれない。その黒ローブと知り合いということにしておけば、全て納得してもらえるのではなかろうか。
「実は私、最近Sクラスに昇格した冒険者の方と知り合いになる機会がありまして、その方に色々教わったのです」
「む、Sランク冒険者だと? しかも、最近昇格したということは今、王都でも噂になっている黒いローブを着た冒険者のことか? その冒険者は色々な意味で規格外と聞いている。そうか、Sクラス冒険者なら、どこかで独自の知識を手に入れることができるかもしれないな」
こちらの予想通りに、都合よく物事を考えてくれる。
(これは使える)
と思ったのもつかの間――――
「その黒ローブの冒険者を、紹介してはくれないだろうか?」
ライアットは、いきなりとんでもないことを頼んできた。
「実は私達の古代魔法の研究も、最近は少々行き詰まっていて、何でもいいから新しい知識や考え方がほしいと思っていたところなのだ。もし、その黒いローブの冒険者が、私達の知らない知識を有しているのであれば、我々の研究も新たな局面を迎えられそうな気がする」
「き、聞いておきます……」
アスカはそう答えるのが精一杯だった。
ライアットは再度アスカに強くお願いをしてから解放してくれた。
(ねぇ、お兄ちゃん。ライアット先生は古代魔法の研究に命をかけているみたいだから、いつかは協力してあげたいね)
(そうだな。今度、風操作で空気の振動を抑えて、声を変える練習をしてみよう。それができたらちょっとだけでも、協力してあげようか)
そんな会話をしながら、アスカと宿に戻った。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
~side ソフィア~
アスカと別れ、正門で待つ父の元へと走って行った私は、父に1つのネックレスを見せました。
「お父様、これが私の見つけたアクセサリーになります」
「ほぅ。昨日までの様子を見ると、とても間に合うとは思わなかったが、それが演技だったのか今日、偶然にも手に入れることができたのか……まぁ、どちらにせよ、これが私を満足させることができるものかどうか、確かめに行こうか」
私はその言葉を聞いたとき、少しの不安を覚えました。アスカが嘘をついているとは思わないけど、このネックレスに本当に3つの付与が施されているのか、その付与がアスカの言った通りのものなのかは。自分では確かめられないから。
おそらく父は、【鑑定士】のところにこのネックレスを持って行くつもりでしょう。そこで、このネックレスにそのような価値がないとわかったら……いや、アスカがそんなことをするはずはないでしょう。
出会って間もないけど、あの挨拶を聞き、実際に話してみてアスカの人となりが分かったような気がします。彼女は困っている人は見過ごせない、とんでもないお人好しなのです。そう信じて、父の後をついて行く。
「このネックレスを鑑定してもらいたいのだが」
父が【鑑定士】にネックレスを差し出した。
「これはこれはクロード様、いつもお世話になっております。これは、なかなかよさそうな品ですね」
そう言って、【鑑定士】は丁寧にネックレスを受け取り、鑑定を始める。
(そういえばアスカは、属性耐性と状態異常耐性って言ってましたわね。何の属性耐性で何の状態異常耐性なのでしょう。使い手の多い炎耐性や風耐性、それから治しづらい麻痺耐性や石化耐性だったら嬉しいのですが。さすがにそんな貴重な効果は期待しすぎかしら)
少しの不安と、少しの期待を込めて【鑑定士】の鑑定結果を待つ。すると……
「……ク、クロード様。こ、このネックレスは……ど、どこで手に入れたものでしょうか?」
【鑑定士】が声を震わせて尋ねてきた。その顔はひどく青ざめており、今にも倒れてしまいそうでした。
「娘が見つけてきたものだが、どうかしたのか? 付与はちゃんと付いているのか?」
「ふ、付与が付いているどころの騒ぎではありません。こ、これは、と、とんでもない品物です。私もこの仕事を長くやっておりますが、初めて見るスキルが、2つも付与されております。これは、世紀の大発見かもしれません。すでに私は震えが止まりませんよ……」
【鑑定士】は今にも倒れそうなくらい顔が真っ白になり、ガタガタと音を立てて震えています。
「言ってることがよくわからんな。何が付与されているのかね?」
父は、要領の得ない【鑑定士】の答えに少しイライラしながら聞き返しました。
「このネックレスに付与されているスキルは3つ。ひとつは"全属性耐性"です……」
「はぁ!?」
私は、父のこんな素っ頓狂な声を聞いたのは初めてでした。いつも厳格で、どんな場面でも取り乱すことがなかった父が、間の抜けた声を出し、口を開けて呆けているのです。そのくらいとんでもない性能のスキルが付与されていたのでした。
「全属性? そんなものが存在するのか?」
問い返した父の声も【鑑定士】同様震えていました。
「わたくしの鑑定には、そう映っております。さらに2つめが"全状態異常耐性"です」
「ほわぁぁぁ!?」
私は父の2度目の素っ頓狂な声を聞きました。前回にも増して、間の抜けた声になっていることに、父は気づいていないようです。でもそれも仕方のないことなのかもしれません。このスキルの性能は、それぐらいとんでもないものなのですから。
「そして、最後に付与されているのが結界Lv4です」
「オーマイガー!?」
私の父はいったい何語をしゃべっているのでしょうか? あっ、泡を吹いて倒れてしまいました。
父が気がついたところで、【鑑定士】と父で能力の確認が行われました。付与の能力を発動させるには、魔力を込める必要があるので、私がネックレスを付けようとしたのですが、そんな危険なことをさせるわけにはいかないと、ミスラが代わりを申し出てくれました。
ネックレスを付けたミスラに、父が炎操作の魔法をLv1から順に使っていきます。Lv4までの魔法を使いましたが、ミスラは火傷ひとつ負うことはありませんでした。さらに私が水操作の魔法を放ちましたが、同じように傷ひとつ付けることができませんでした。
状態異常の魔法を使える者はいませんでしたので、そちらは確認できませんでしたが、ミスラが魔力を込めて結界を発動させると
このスキルのどれかひとつが付いているだけでも、国宝級の
ミスラの指輪にも全く同じ付与が施されていたのです。しかも、この2つの
「とんでもないことが起こってしまいました……」
【鑑定士】はあまりの衝撃に立っていられないほど憔悴しており、父もこの
自分が見つけたものであれば、間違いなく国王に献上し、研究に回してもらっていたでしょう。そうなればおそらく、全世界を揺るがす発見となるはずです。
何せ、この指輪を持っているだけで魔力が続く限りほぼ無敵になってしまうのですから。魔法も状態異常も物理攻撃でさえも防いでしまいますので、このネックレスや指輪の持ち主に傷を付けようとすれば、それこそ伝説のLv5魔法か、使用者の魔力が尽きるまで攻撃を繰り返さなければならないでしょう。
こんなものが量産でもされれば、国家戦力のバランスが大きく崩れてしまいます。これを持った国は、全世界をその支配下に治めることができてしまうでしょう。
しかし、これは私が友人からもらったものです。父も入学式には参列していたので、入学生主席の挨拶を聞いているでしょう。
父が言うには、『なんとも甘っちょろい、理想論を言うものだと思ったが、不思議と嫌な気持ちはしなかった』だそうです。父があの演説を聴いてそう思うなんて意外でした。
アスカは知り合いの冒険者にもらったと言っていました。それを父に伝えると、『その冒険者と会わなくては……いや、しかし……』と呟いたまま、考え込んでしまいました。その時私は気がつきました。場合によっては、このネックレスと指輪、そしてその冒険者を闇に葬らなければならないかもしれないことに。
でも、すぐには結論が出なかったようで、このネックレスと指輪は私とミスラがそのまま持っていることになりました。
せっかくお友達に貰えたプレゼントですので、できればずっと持っていたいと思う私でした。
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