第47話 クロムの心配事 ⚪︎

「えっ? アスカ? いつの間に?」


 クロムは、信じられないといった顔でアスカを見つめる。カイザーキマイラもアスカの動きについていけなかったようで、前足をカウンターで切られ、驚いて後ろへと飛び退いた。


「私の方は先ほど倒し終えましたので、こちらに来たのですが……クロムさんが敵を見失っていらっしゃったようでしたので、とっさに攻撃を受けちゃいました。

 それと、こちらのカイザーキマイラは上手く無傷で倒せましたので、素材の方は期待しておいてくださいね!」


 若くしてSランクに上り詰めたクロムは、それなりの修羅場をくぐってきており、ちょっとやそっとのことでは動じない胆力を持ち合わせているはずだ。そのクロムを持ってしても、この状況は理解が追いついていないようだった。


 百戦錬磨のドラゴンバスターが、相性が悪いとはいえ防戦一方に追い詰められている相手をたったひとりで瞬殺し、自分たちが反応も出来ない速度の攻撃を易々と受け止め、挙げ句の果てに『無傷で倒したので素材の方は期待しておいて』など、あまりに場違いな発言だったのだろう。

 一瞬何を言っているのか理解が出来なかったのか呆けた顔をしていた。これが戦闘中でなければ、叫び声を上げていたかもしれないな。


 しかし、カイザーキマイラは前足を少し斬られたとはいえ、まだ戦闘態勢を崩していない。まずは、こいつを倒してから詳しく話を聞くことにしたようだ。


「アスカ、もし出来るならあいつの動きを封じてくれないだろうか。そうすれば僕らでも十分に倒せると思うんだ」


 ここでアスカに任せれば、すぐに終わるのかもしれないが、Sランクとしてのプライドがそれを許さなかったのか、あくまでも自分たちで討伐するためにサポートをアスカにお願いして来た。


「わかりました。動きを鈍らせればいいのですね」


 もちろんアスカは二つ返事でオーケーする。


(アスカ、こいつはすでに呪いにかかっている。敏捷は半減してるだろうから、翼と後ろ足でも切っておけば十分だろう)


(うん。魔法だと倒しちゃいそうだから、このまま剣で斬ってくる)


 アスカの身体が一瞬ブレたと思ったら、カイザーキマイラの右の翼が地に落ちていた。斬られたことにも気づかずに、カイザーキマイラがバランスを崩し、落ちていく。


「飛刃剣!」


 アスカの放った斬撃はたった1つだったが、クロムの放ったそれよりも、威力も速度も桁違いに大きく、カイザーキマイラの後ろ足を一本切り落とした。


「さあ、どうぞ!」


「「「……………」」」


 地に落ちたカイザーキマイラは、呪いとダメージですでに瀕死の状態である。先ほどの動きはもう見る影もない。


「天地衝!」


 アスカのお膳立てのおかげとはいえ、ようやく出番が来たブライアンが、斧術Lv4の必殺技を繰り出した。上下からの同時攻撃で、カイザーキマイラを肩口を大きく切り裂く。


強撃ちパワーショット!」


 メイの治療で復活したハイデンの矢が、今度は胴体に深々と突き刺さる。


太陽爆発オーバーフレア!」


 エリザベスの魔法も、身動きのとれない相手であれば躱されることもなく、カイザーキマイラに大ダメージを与えることができた。


「とどめだ、断鉄剣!」


 最後は、クロムの力強い一撃でカイザーキマイラの首が落ちた。


 これらの戦闘で、アスカはレベルが8つ上がり、クロムが2つ、残りのメンバーもそれぞれ3つ上がったようだ。


名前(ヒイラギ)アスカ 人族 女

 レベル 15(56) 

 職業 賢者(超越者)

 ステータス

 HP 120(1115)

 MP  130(1125)

 攻撃力 120(1115)

 魔力  140(1135)

 耐久力 120(1115)

 敏捷  130(1125)

 運   130(1125)   

 スキルポイント 175(1150)

スキル

 (剣術  Lv5)

 (炎操作 Lv5)

 (風操作 Lv5)

 (水操作 Lv5)

 土操作 Lv2(土操作 Lv5)

 (氷操作 Lv5)

 (雷操作 Lv5)

 (光操作 Lv5)

 (闇操作 Lv5)

 (重力操作 Lv5)

 (時空操作 Lv5)

 治癒 Lv1(治癒 Lv5)

 (結界 Lv5)

 (全属性耐性 Lv5)

 (全状態異常耐性 Lv5)

 (思考加速 Lv5)

 (身体強化 Lv5)

 (無詠唱)

 (魔力増大)

 (消費魔力半減)

 (魔力回復倍化 Lv5)

 (経験値倍化 Lv5)

 (経験値共有 Lv5)

 (スキルポイント倍化 Lv5)

 (ステータス補正 Lv5)

 (自動地図作成)

 (鑑定 Lv5)

 (隠蔽 Lv5)

 (探知 Lv5)

 (危機察知 Lv5)

 (鍛冶 Lv5)

 (錬金 Lv5)

 (付与 Lv5)


 おぉ、ついに俺のスキルLvが5になった! たくさん経験値がもらえたのは、S級2体と凍った森にA級の魔物が何体かいたからだろうか。


 当然、残りのスキルも全てLv5に付け替える。


 操作系の魔法が、魔力増大で一段階Lv上がる効果はどうなるのだろうか。Lv5のままなのか、はたまた知られざるその上があるのか。アスカと実験するのが楽しみだ。


 職業が【超越者】になっているが、この辺りは調べないとわからないから、帰ってからゆっくり考えることにした。




〜side クロム〜


 かろうじてカイザーキマイラを倒すことができた僕達は、無言で解体を終え王都への帰路につく。

 その道中、僕はエリザベスとメイと並んで前を歩く黒ローブの背中を見つめ考ていた。


(とんでもないものを見てしまった。S級の魔物を、魔法を使えば一撃で葬り去り、剣を使えば目にもとまらぬ動きで圧倒する。こいつは【魔道士】なのか? 【戦士】なのか? もしかして、伝説の【勇者】なのかもしれない)


 あまりの圧倒的な戦力に、心の底から寒気を覚えた。彼女はいったい何者なのだろうか。ハイデンの方を見ると、彼も身震いをしている。


(ハイデンも同じことを考えていたのか)


 そんなハイデンと目が合う。その時、彼が何かを言いたげにしているのを感じた。


(彼女の素性を探る気だな。頼んだぞハイデン)


 頷いたハイデンが口を開く。


「拙者、惚れてしまったでござる」


 …………違った。全然違った。こいつに期待したのが間違いだった。しかも完全に無視されている。


「ねぇ、アスカ。ちょっと聞いてもいいかしら?」


「はい、何でしょう?」


 僕がハイデンにがっかりしていると、エリザベスが意を決したようにアスカに問いかけていた。


「私は、自分たちの戦いで精一杯だったから、アスカがどうやってカイザーキマイラを倒したのか見ていなかったんだけど、あの凍った森は……魔法なの?」


 そりゃあ。あんな光景を見ちゃったら、魔法を使う人間なら気になるよな。僕だって気になるくらいだから。それに核心をつく質問ではないが、この質問の答えに何かヒントが隠されているかもしれない。

 俺はアスカの答えに耳を傾ける。ハイデンは別の意味で耳を傾けているようだが……


「わけあって詳しくはお話しできませんが、あれは魔法です」


 アスカは詳しくは話さなかったが、魔法だと断言した。つまり、Aランクのエリザベスが知らない魔法を、彼女は使えるというわけだ。そんなもの、伝説級の魔法しかないだろう。


「やっぱり魔法よね。あんなものを見せられたら、私の魔法もまだまだだって思えちゃうわね」


 魔法を使うものとして、格の違いを見せつけられたと感じたのか、エリザベスが素直にアスカを賞賛している。

 だが僕はエリザベスほど素直になれなかった。このアスカが世界の敵に回ったらどうなる? 止められる者はいるのか?


「私もまだまだ上を目指して頑張りたいです」


 俺の心配をよそに、可愛らしい声でアスカが答えた。


(((お前はもう十分だろう)))


 アスカの返答に、みんなの心の声が聞こえてくる気がした。


 しかし、このアスカが善なら良いが、悪に走ったら誰にも止められないのではないか。それを確かめるのはSランクである僕しかいない。


 そう思った僕は、アスカの本質がどちらなのかを見極めるため質問しようとすると、こちらを見つめるハイデンと目が合った。彼は、僕が言いたいことをわかっているかのように頷いてきた。


(今度こそ大丈夫か?)


 ここはハイデンに任せてみよう。そう思い、ハイデンに頷き返す。


「アスカ殿、お主、彼氏はいるでござるか?」


 違った……やっぱり違った。こいつに期待するのはもうやめだ。


「えっ、えっ、いませんよ!?」


「そうでござるか。フフッ」


 渋い声で気持ち悪く笑うハイデン。我がパーティーの女性陣もドン引きだ。


「今は、たくさんの人を助けたいって思っているので、そんな暇はないんですよ」


 お、なんかよくわからないが、結果的にはファインプレーだぞ、ハイデン。僕が聞きたかった言葉が自然に聞けた。人助けを目的としてるなら、今の段階でアスカは善だと思えるな。


 僕らドラゴンバスターは、それぞれ思うところがありながら、王都へと向かって歩き続けた。

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