第46話 vs カイザーキマイラ
「
ハイデンが、敵を十分に引きつけてから放った矢は、危険察知によりとっさに回避したカイザーキマイラの後を追うように急旋回し、その皮膚に傷を付ける。
「やはり、刺さらぬでござるか」
ハイデンの矢は見事にコントロールされ、カイザーキマイラに命中するが、S級の魔物の皮膚を貫くには威力が足りなかったようだ。
突然攻撃された上、躱したはずの矢に自分の身体を傷つけられたカイザーキマイラは、ハイデンを敵と見なし襲いかかってきた。ハイデンの矢はダメージを与えるのには失敗したが、敵の気を引くという仕事は十分に果たしたわけだ。
それを見た2体目のカイザーキマイラは、ハイデンを挟み撃ちにするべく、パーティーの後方へと回り込もうという動きを見せる。
この2体目のカイザーキマイラの動きは、アスカにとって都合のいいの展開だった。アスカが一番楽な展開なのは、強力な範囲魔法で一気に倒してしまうことで、逆に困るのがキマイラ2体が近くで連携したり、クロムのパーティーと近すぎて巻き込んでしまうことなのだ。
「左手に
この世界が誕生してから、未だかつて使われたことがないであろう、Lv5同士の複合魔法。その威力は絶大で、アスカの前方1kmに渡って、全てを凍らせる極寒の吹雪が吹き荒れる。
どれだけ敏捷が高くても、いくら危険察知を持っていようとも、躱しようのない範囲での凶悪な魔法に、カイザーキマイラは為す術がない。吹雪が止んだ後には、カイザーキマイラのみならず、森そのものが凍り付いていた。
(よかった。出発前にクロムさんが素材を山分けにって言ってたから、なるべく体を傷つけないように倒そうと思ったんだけど、上手くいったみたい)
そんなことを言いながら、アスカは氷の塊になったカイザーキマイラをリュックにしまうのだった。
〜side ???〜
一方、クロムのパーティーは、カイザーキマイラ相手に苦戦していた。普段は、相手が素早ければ、クロムかエリザベスの雷操作で動きを止め、ブライアンを中心に大技で仕留めてきた。
しかし、今回の相手は雷耐性を持っており、その作戦が通用しない。その上、敏捷が高いので生半可な攻撃は全て躱されてしまう。必然的に、広範囲に広がる魔法や技に頼ることになるのだが……
「
降り注ぐ雨のように、数十本の矢がカイザーキマイラに襲いかかった。しかし、先ほど同様S級の魔物の皮膚を傷つけるだけにとどまる。
「飛刃斬!」
クロムが放った十数本の斬撃は、ことごとく躱されてしまう。
「
エリザベスも炎操作Lv4魔法を放つが、どちらかと言えば単体向けの魔法のため効果範囲が狭く、爆発の直前に避けられてしまった。余波の熱風でも大したダメージは与えられていない。
逆に、カイザーキマイラの
「聖なる光よ、麻痺を治せ、
ひとり離れたところにいたメイが、慌てて光操作で麻痺を治していく。
ブライアンにいたっては、敏捷よりもパワー重視の一撃必殺タイプなので、今のところ全く戦力になっていない。
「このままじゃまずいな……あいつの動きを止めないことには、いつかやられてしまう」
クロムの独り言は、現実のものになりつつあった。カイザーキマイラが、クロム達を脅威なしと判断すれば、あっと言う間にやられてしまうだろう。
クロムは5人で戦ってすら、互角にも及ばない相手を、たったひとりに任せてしまったことに、罪悪感を感じていた。早く倒して、サポートにまわりたかったが、今となってはこちらが倒せるかどうかも怪しい。
(頼む、生きていてくれ!)
余裕のない中ではあるが、この作戦を考えたクロムが後悔とともにチラッとアスカに目を向けると……
(今、黒ローブが氷漬けになったカイザーキマイラを、リュックにしまっているように見えたのは、気のせいだよな?)
ズガァァァン!
クロムがほんの少し目を離した隙に、ハイデンがカイザーキマイラの
「ハイデン!」
クロムはそう叫んだ直後、自分の真後ろから殺気を感じ振り返った。目の前には振り下ろされる、カイザーキマイラの前足。
(ここまでか……)
油断をしたわけではない。自分達の実力が足りなかったのだ。せめて、今まで共に戦ってきた仲間達だけでも生き残ってほしい。そんな思いを抱きながら、最後の時と覚悟を決める。
ザシュ!
「「「クローム!!」」」
パーティーメンバー3人の叫び声が
しかし、クロムの最後が訪れることはなかった。
いつの間にか、クロムの横に立っていたアスカの
「こちらは終わったので、サポートしていいかどうか聞きに来たのですが、必要なかったですか?」
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