第44話 Sランクパーティー『ドラゴンバスター』
お祝いをしてもらった次の日、ハンクの依頼通りに黒ローブを着てギルドに顔を出す。
「あんたSランクなんだってな、俺らとパーティー組んでくれねぇか?」
「ちょっと待て、抜け駆けは許さんぞ。そんなBランクの雑魚より、Aランクの俺と新しいパーティーを作らないか?」
「ちょっと、あんただって抜け駆けじゃないかい。ねぇねぇ、あんた。私達のクラン『クイーンズナイト』に入ってくんないかね。あんたなら副リーダーを任せられるんだけどさ」
蜜に群がる蟻のようにやってくる冒険者達。アスカに話しかけてきているのは、おそらくBランク以上の者達だろう。それ以下の冒険者は、もの凄い羨望の目で遠巻きに見ている。
中にはアスカを拝んでいる者までいるようだ。こんな芸能人並みの待遇に慣れていないアスカは、人混みの中心でどうしてよいか分からず困っているようだ。
「おい、今日はギルドの依頼できてくれたんだ。その辺にしといてもらおうか」
救世主きたー!
ハンクの野太い一声で、冒険者達は名残惜しそうな顔をしながらもアスカを解放した。
「ありがとうございます。助かりました」
「いや、お前さんを呼んだのはこっちだからな。逆に迷惑かけちまったようで申し訳ない」
そう言ってハンクは、アスカを奥の部屋に案内する。そこにはすでにひとりの人物が席に着いていた。
「紹介する。チーム『ドラゴンバスター』のリーダー、クロム・ロイだ。そして、クロム、こっちは最近Sランクに昇格したアスカだ」
まずはハンクがお互いを紹介をする。
覚えているぞ。確かこいつは、ミーシャが羨望の眼差しで見ていたSランクパーティーのリーダーだったな。アスカを見て『素質あり』とか言ってたから覚えているぞ。
「初めまして、アスカ……さんかな? クロムです」
「初めまして、アスカです。よろしくお願いします」
二人が簡単に自己紹介を済ませたところで、ハンクが席に着くように勧めてきた。こうしてみると、一応常識のある大人なんだなと再確認させられるな。
「まぁ、2人とも席について話を聞いてくれ」
2人が席に着くと、おもむろにハンクが話し始めた。その話によると、実は最近、王都の北にあるチックの森に凶悪な魔獣が出現するようになったらしい。
Aランクの冒険者パーティーが狩りをしていたところ、急に襲われパーティーは壊滅状態に。何とか死者は出さずに、命からがら逃げ出してきたそうだ。
その冒険者達の話によると、その魔物はおそらくS級のカイザーキマイラと思われる。このまま放置しておくと、チックの森で狩りができないだけではなく、王都まで危険が及ぶかもしれない。Aランクのパーティーが全滅したことからも、Sランクに依頼するしか手は残っていないというわけだ。
「なるほど。状況は理解した。だが1つ疑問が残る。なぜ共闘する必要が? 我々はお互いにSランクだ。どちらかが向かえば事は済むのではないだろうか?」
クロムがもっともな疑問を口にする。
「そこなんだがよ、実はそのカイザーキマイラが2体いるらしいんだ。S級が2体なんぞ想像したくもないが、その脅威は1体の比較にならないだろう。それで向こうが2体いるなら、こっちもSランクを2人揃えようと思ったわけよ」
(なんか面白いことになってきたな)
(何言ってるのお兄ちゃん、不謹慎だよ!)
「S級が2体。さすがに僕らも経験したことがないな」
クロムはそう言いながらも、楽しそうに笑顔を浮かべている。
「こっちは了解した。アスカさんさえよければ一緒に倒しに行きたいと思う」
クロムはそう言ってアスカを見つめる。
(うちのアスカはお前にやらんぞ!)
(そんなこと誰も言ってないよ……)
「私も特に問題ありません。すぐにでも出発できます」
アスカも同じく了承した。段々と俺のアドバイスがなくても、自分で考えて決めるようになってきた。妹の成長が喜ばしい反面、俺の役割が減って寂しくもある。
「そうか、そいつは助かる。しかし、S級2体の同時討伐は前例がない。くれぐれも慎重に頼む。無理だと思ったら引き返してくれて構わないからな」
こうしてクロム率いるドラゴンバスターとの共闘が決まり、細かい打ち合わせをすることになった。
その結果……
・30分後にギルド前集合
・基本的にお互いのパーティーで一体ずつ討伐する
・余裕があればお互いのサポートをする
・報償や素材は半分ずつ山分け
・おやつは300ルークまで
ということが決まった。
くそー、クロムめ! おやつは300ルークまでだと? イケメンだけではなくユーモアまで兼ね備えていたか。悔しい!
アスカは特に準備もないので、30分間ミーシャと談笑しながら過ごす。学院で出会ったソフィアやミスラのことを話すと、さすがにエメラルダ家のことは知っていたようで、一緒に受験したことをうらやましがっていた。そして30分後……
「アスカ……さん? 君のパーティーメンバーはどこかな?」
クロムが困惑した顔で立っていた。
「えーと、今はソロでやってますのでパーティーメンバーはいません」
「ん? んんん? 君は最近Sランクに昇格したんだよね? まさかソロで昇格したわけじゃないよね?」
「いえ、ソロで昇格しました」
「「「…………」」」
固まるクロムのパーティーメンバー達。
「クロム、その話はまた今度にしよう。今話したらキリがないような気がする」
背中に明らかに魔力を帯びているであろう
「そ、そうだね。その話はいつかゆっくり聞かせてくれ。気を取り直して、パーティーメンバーを紹介しよう」
そう言ってクロムは、チームドラゴンバスターのメンバーを紹介を始める。
「こいつはうちのメインアタッカーで【戦士】のブライアンだ。そして、こっちがうちのサブアタッカー兼斥候の【狩人】ハイデンだ。そしてこっちは【魔道士】のエリザベス、最後に【聖者】のメイだ」
4人の紹介が終わり、それぞれと挨拶を交わす。ブライアンは斧術Lv4、身体強化Lv3を持つ、完全に物理特化のアタッカーだ。ハイデンは弓術Lv4に探知Lv3、鑑定Lv1を持っている。エリザベスは炎操作がLv4、雷操作がLv3の2属性魔法の使い手だ。メイはクラリリス教会に所属する【聖者】で治癒Lv4、光操作Lv3を習得している。全員がAランク冒険者だ。
このメンバーに【魔法剣士】のクロムが加わり、チームドラゴンバスターが完成する。さすがにSランクパーティーだけあって個々の実力があり、バランスもよいパーティーのようだ。
(こいつらみんなクロムと同じように、スキルポイントを水増ししてるな。でもアスカなら1人でも勝てそうだが……)
(やめてよお兄ちゃん、縁起でもない)
「改めまして、アスカです。わけあって素性を隠しているので、この格好でお許し下さい。得意な物は剣と魔法です。よろしくお願いします」
Sランクになると素性を隠す者も多いらしく、特に違和感なく接してくれている。むしろ、こんなに堂々と手の内を明かすドラゴンバスターの方が珍しいらしい。
「それじゃあ、チックの森に行きますか。細かい戦闘方法は現地で魔物を確認しながら決めようか。そのためにもハイデン、先に相手を見つける必要があるぞ」
「任せておくでござる」
ハイデンが低い声で一言だけ発する。ハイデン渋いぞ! 格好いいぞ!
そのハイデンがアスカに話しかける。
「お主の声、可愛いな」
前言撤回!! 声だけでなぜ欲情してるんだハイデン!! アスカ、こいつには絶対近づくんじゃなーい!
こうして、一抹の不安を残しつつ、チームドラゴンバスターとの共闘が始まった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます