第43話 合格祝い

 ソフィアとミスラが出て行った後、アスカはアクセサリー屋でネックレスの台座を1つと、指輪の台座を1つ買った。

 なぜ台座だけかというと、宝石部分はアダマンタイトでアスカが自分で作る予定だからだ。二人の話を聞いて、アスカがどうしても何とかしてあげたいと言ったから、自分で創ることを勧めたのだ。


 アクセサリー屋を後にしたアスカは、最後にギルドに寄ってハンクとミーシャに試験のことを報告する。嬉しいことにハンクが、『お前は絶対合格だから、明日の夜、お祝いをしてやる。ギルドに来いよ』と言ってくれた。アスカもとっても嬉しそうだったのでよかったのだが、ハンクに下心がないかしっかり確認せねば。





 翌日、アスカと話しをしながら、魔法学院へと向かう。


(お兄ちゃん、試験の時とはまた違ったドキドキだね)


(大丈夫、絶対受かってるって)


(受かってるとしたら何クラスかな?)


(アスカは間違いなくSクラスだよ)


 そんな会話をしているうちに、魔法学院に到着した。そこには、合格発表を見に来た受験生と、その保護者と思われる大人達が大勢いた。向こうの世界でも、大きな学校の合格発表は、こんな感じなんだろうなと感慨にふけってしまう。


(お兄ちゃん、あっちみたいね)


(よし、行ってみよう)


 アスカの視線の先には、巨大な掲示板が立っているのが見えた。人混みをかき分けながら、掲示板に近づいていく。

 周りでは、歓声やら泣き声やら叫び声やらがあがっているようだ。受験生の8割以上が落ちるのだから、歓声が少ないのも仕方がないか。


 合格者はクラスごとに分かれて載っており、そこには順位、合格者の番号、名前、筆記試験、実技試験の点数が書かれていた。1番下がDクラスの最低点で上に行くにしたがって、点数もクラスも上がって行く。その1番上にアスカの名前が書かれていた。


(…………お兄ちゃん、どういうこと?)


(うーん、どういうことだろうね?)


 そこに書かれていたのは


 Sクラス


 1位 626番 アスカ        

筆記試験 検討中   実技試験 100/100


 2位 125番 ソフィア・エメラルダ 

筆記試験  94/100 実技試験  85/100


 3位 124番 ミスラ        

筆記試験  86/100 実技試験  90/100

 ・

 ・

 ・


(何だ、検討中って。点数が出てないのに1位というのもよく分からない)


(とりあえず、合格でいいんだよね?)


(1位だし、Sクラスって書いてるから大丈夫だろう)


 合格者向けに入学の手続きをしているところがあったので、手続きするついでに『検討中』について聞いてみるが、その職員も前代未聞の出来事でよくわからないが、合格であることには間違いないと言ってくれた。入学式は2日後で、アスカは1位なので、式の中であいさつをしなければならないらしい。


 頑張れアスカ……


 



 合格発表を見た後、宿に戻ってアダマンタイマイから採取した、アダマンタイトを使いネックレスと指輪を作った。付与は3つで『身を守るのにふさわしいもの』と言っていたので、"全属性耐性"、"全状態異常耐性"、"結界"を付けておいた。

 結界は、魔力を込めると自分の周囲に結界を張ることができるというものだ。付与Lv4 は、持っているスキルの100%の効果を付与ができるので、Lv4の絶対防御アブソリュートディフェンスが発動するはずだ。

これは物理攻撃も魔法攻撃も防ぐことができる結界である。指輪の方にも同じ付与をしておいた。偶然もらったことにして、ソフィアとミスラにあげよう。


 ついでにアスカの装備を強化しておく。すでに胸当て、手甲、脛当てにそれぞれ3つずつ付与していたので、その全てに結界を付けておいた。アスカを守るというよりは、いざという時にパーティーメンバーを守れるようにだ。終わりの剣ジ・エンドには"自己修復"を付けておいた。




 アクセサリーの作成を終えるといい時間になっていたので、急いで片づけてギルドを訪れる。クエスト終わりの冒険者達が大勢おり、酒場も大盛況だった。一番奥のテーブルでハンクとミーシャが手を振っていたので、アスカも手を振り返し、テーブルへ向かう。


「アスカの合格と(Sランク昇格)を祝って、乾杯!」


 ハンクの乾杯で始まった、合格兼昇格祝い。昇格祝いは大々的にはできないので、表向きは合格祝いだけである。


「ところでアスカさん、前から気になってたのですが、学院に入って何をするのですか?」


 ミーシャが、目の前に出されたオークロードの肉を頬張りながら聞いてきた。この肉は今日のためにハンクが狩ってきてくれたらしい。


「それは……魔法の勉強に決まってるじゃないですか、魔法学院ですし」


「でも、アスカさんは学院で学ぶどころか、世の中にまだ知られていないような魔法ですら使えると聞きましたが、勉強すること何てあるのですか?」


 いや、まあミーシャの言う通りなんだけどね。アスカの年齢で学校に行っていないというのも違和感があるというか、友達を作らせてあげたいというか……あとは、この世界の常識を学ばせたいんだよね。


「いや、それは行ってみないとわからないというか、何というか……」


「むしろ学院の方がお前さんから勉強することになりそうだな! ガハハハハ」


 アスカが口ごもっていると、ハンクが冗談交じりにそんなことを言ってきた。俺からしたら冗談には聞こえないが。


「他にもこの国の歴史を学んだりとか……お友達を作ったりとか……」


「あー、なるほど。そっちがメインなのですね」


 アスカの本音にミーシャも納得したようだ。うん、どう考えてもそっちがメインだね。


 そんな会話を楽しんでいると、不意にハンクが真面目な顔をしてアスカに頼み事をしてきた。


「話は変わるが、酔っ払っちまう前に言っておく。明日、黒ローブの方で来てくれねぇかな。ちょっと頼みたいことがあるんだよ」


 なんだろう。ハンクにも手に負えない案件でもあるのかな?


 ハンクのお願いにアスカは迷いなく頷いていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る