第42話 ソフィアとミスラ
~side ???~
ミルがアスカについて考えを巡らせている時、魔法学院で教鞭をとるライアットもまた、一枚の回答用紙を前に頭を悩ませていた。
実はライアットは、今回の入学試験の筆記問題を作成した教授だった。基本的に計算問題や、スキルに関する知識を確かめる問題を出すのだが、今回は最終問題に複合魔法についての問題を出した。
それは自身が魔法理論を専門としており、特に未だ解明が進んでいない複合魔法について深く研究していたからだ。若い彼らに、少しでもこの分野に興味を持ってもらいたかったというわけだ。
回答できたほとんどの受験生は、一般的に知れ渡っている伝説の魔法について書いていた。数百年前に【勇者】と呼ばれる者が魔王を倒す時に唱えた魔法で、炎に包まれた巨大な流星を作り出すというものだ。
ライアットは、同じように複合魔法に興味を持つ仲間とともに言い伝えを研究し、その魔法は炎操作のLv5魔法と土操作のLv3魔法、
ただ、Lv5魔法を使える者など噂レベルでしか聞いたことがないし、ましてや複合魔法を放つのに必須条件である無詠唱を持っている者など、噂ですら聞いたことがなかった。
理論的には可能であっても、検証できる者がいない。そんな状況でも、『いつかは誰かが、自分達が正しかったこと証明してくれる』そう思うと研究にもますます力が入るのであった。
ところが、だ。今、ライアットの前にある解答用紙には、全く別の魔法が書かれている。
――――――――――――――――――――――――――――
魔法名「
元になる魔法
炎操作Lv5
効果 「全てを焼き尽くす、溶岩の雨を降らせる」
――――――――――――――――――――――――――――
これがその解答だ。
普段であれば、受験生が適当に考えたものだろうと、軽く流してしまうところなのだが、この解答は適当に見えて、妙に納得いく部分が多かった。
まず魔法の名前だが、実は最新の研究では、『Lv5の魔法の名前は2つに区切られる』とされている。まだあまり知られていないので、受験生が知っているとは思えない。だが、この解答用紙に書かれたLv5魔法の名前は、きちんと2つに区切られていた。
元になる魔法に炎と水を選んだのも妙なのだ。炎と水は反対属性なので、互いに効果を打ち消しあってしまう。それが常識だと思われているので、わざわざこの組み合わせ選んで書くことはなかったはずだ。
しかし、この解答を見ていると、その常識が本当に正しいのか疑問に思えてくる。いや、打ち消しあうというのは間違いないが『複合魔法にその常識が通用するのか』という疑問に達するのである。
さらに極めつけは、右上の余白にあった。この
この解答用紙の名前の欄にはアスカと書いてある。他の問題も全て正解で、スキルに関して並々ならぬ知識を有していると考えられた。
「院長に報告しなくては……」
そう呟いて、ライアットは自分の研究室を後にするのだった。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
~side ショウ~
学院でそんなことが起こっているとはつゆ知らず、当のアスカは試験が終わった解放感から、商業区でショッピングを楽しんでいた。とは言っても、オシャレ要素はあまりなく、機能性重視のアクセサリーを見ているだけなのだが。
そして、2軒目のアクセサリー屋さんで、何やら店員ともめている女の子2人組を見つけた。
「ここには付与が3つ付いている、アクセサリーは置いてないのか?」
どうやらこの2人組は、付与付きのアクセサリーをお求めのようだ。
「3つとなると、そう簡単には手に入らないものでして、この店ではこれしか置いておりません」
そういって店員はひとつのネックレスを差し出す。
「お前はふざけてるのか? このネックレスに付与されてるのは"鋭利"、"速射"、"呪い"だろ! ネックレスには必要ないもんばっかり付けやがって! つけた瞬間呪われるだろう、これ!」
ブハ! 思わず笑ってしまった。このネックレスを装備したら、動くたびに胸が切れるわ、何か発射されるかもしれないわ、呪われるわでいいことないだろう。そりゃこんなの勧められたら、俺でも怒るな。
(あれ、お兄ちゃん。あの2人って試験の時にいた……)
(本当だ。ソフィアとミスラだったかな?)
どうやら店員ともめてるのがミスラで、後ろで申し訳なさそうにしてるのがソフィアのようだ。
「ミスラ、もういいでしょ。他を探しましょう」
ソフィアが店員に食ってかかりそうなミスらを必死になだめている。
「他っていっても、もうここが3軒目で他にアクセサリーを売ってるところはないでしょ!」
「ないものは仕方がないわ。今日はもう諦めましょう」
何だか事情がありそうな2人だが、俺達には関係ないか。っと思っていたら、2人が店を出ようと振り返った瞬間、アスカと目が合った。
「おや、アスカだったか。お前も付与付きのアクセサリーを買いに来たのか?」
アスカを見つけたミスラがすぐに声をかけてきた。ソフィアも橫で静かに頭を下げている。
「いえ、そういうわけではないのですが、試験が終わってホッとしたので、色々なお店でも見て回ろうかなと思ってました」
「まあ、そうでしたの。それで試験の方はいかがでしたか?」
ソフィアの声は、ミスラとは対照的に静かで落ち着いている。丁寧なしゃべり方と相まって、とても穏やかな気持ちにさせてくれるな。かといって、元気いっぱいのミスラの声が嫌なわけじゃあないけど。
「はい、できることは全てやったと思います」
「それはよかったです。お互いに合格できてるとよいですね!」
うん、ソフィアはしゃべり方だけじゃなくて性格もすこぶるいいようだ。
「ところでお二人はなぜここに?」
アスカが問いかけると、ミスラが先ほどの興奮が冷めていなかったのか、もの凄い勢いで話し始めた。どうやら、ソフィアの家系は貴族の生まれで、代々魔法使いとして王国に使えているらしい。ソフィア自身もゆくゆくは宮廷魔術師になりたいと思っており、そのために魔法学院を受験したようだ。
その際、学校の試験とは別に魔法団の団長である父親から、ある課題を出されたそうだ。それが『自分の身を守るにふさわしい、付与が3つ付いたアクセサリーを、入学式までに探してくること』だったのだ。
これがなかなか難題で、王都にあるアクセサリー屋をしらみつぶしに回ったが、なかなか見つからず、あっても先ほどのようにふさわしい付与が付いていない物ばかりだったため、イライラしたミスラが店員に絡んでいたというわけだ。
「そうだったのですか。私も機会があれば探しておきますね」
「ありがとうございます。もし見つけることができたら、その時は売っている場所だけでも教えていただけるとありがたいです」
「そうだぞ。間違っても買おうと思うなよ。目が飛び出るほど高いからな!」
ミスラがお前に買えるわけがないぞと言わんばかりに、ニヤッと笑う。
聞けば付与が1つ付いているだけでも最低1000万ルークはするらしい。さらに付与が1つ増えるたびに、値段の桁も1つ増えるそうだ。それが最低の値段なので、有用な効果が複数付いているものは、それこそ値段が付けられないような物も存在するらしい。
お金に困ったら、アスカにアクセサリーに付与を4つ付けさせて売ろうかな……
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