第41話 魔法学院実技試験
ミスラが控え室を出て、しばらくすると『ドンッ!』という何かが爆発するような音が聞こえた。炎操作を持っていたから、おそらくミスラが放った
次に呼ばれたのはソフィアだ。
「それではアスカさん、先に行って参りますわ」
「はい、頑張って下さい!」
ソフィアは水操作Lv2だから、
案の定、水の流れる音と何かがぶつかる音がした。間違いないな。
(そうすると、ミスラの言うことに信憑性があるとすれば、Lv2の魔法を使っておけばSクラスに入れるってことか?)
(でも、違ってたら嫌だから、試験官の人に聞いてみるね)
流石はアスカ、抜かりがないね。
その後も受験生が順番に呼ばれ、いよいよ控え室はアスカひとりになってしまった。やはりアスカが最後だったようだ。
「君が最後か、こちらに来たまえ」
今更だけどこの学院の教師だろうか、アスカは呼びに来た男性について部屋を出て、廊下を歩いて行った。
「この教室に入って、中の先生の指示に従うんだ」
感情をあまり見せない男性の指示のもと教室の中に入ると、眼鏡をかけベージュ色のスーツのような服に身を包んだ、見るからに気の強そうな女の人が立っていた。
かなり広い教室の中央には、マネキンの上半身だけのような物がおいてある。おそらく魔法の的になっていると思われる。だけど、アスカが最後のはずだが、見たところ傷ひとつ付いていないようだ。材質は……ミスリルとなっている。
「こんにちは、アスカさん。私はこの学院の教師でミルと言います」
「初めまして、アスカです。よろしくお願いします」
実技試験担当の教諭であろう女性が、見た目とは裏腹に優しい声で自己紹介を始めた。
アスカも見た目と声えのギャップに動揺したようで、少々声が上擦っている。
「では早速ですが、NO.626、アスカさんの試験を始めます。操作系のスキルを持っているなら、向こうにある的に向かって放ってください。持っていなければ、今できる魔力操作を私に見せてください」
予想通りの試験内容だが、どの程度の魔法を使えばSクラスに入れるのかアスカが聞いてもらう。
「あの、すいません。どのくらいの魔法を放てばSクラスに入れるのでしょうか?」
「あら、みなさんはとにかく全力を出されるので、そんなことを聞いてきた受験生は初めてですわ。よっぽど高い実力を持っていらっしゃるのかしら?」
前言撤回。何か言い方がきついなぁ。これは美人なんだけど結婚できないタイプだな。
「いえ、そういうわけではないのですが……」
アスカが厳しい突っ込みにしどろもどろに答える。
「いいですわ。教えたところで、使えなければ意味がないですからね。隠す必要もないので、各クラスの目安を教えて差し上げましょう。
まず、D,Cクラスは魔力によって自然現象を操作できることが必須ですよ。 例えば、風を吹かせたり、炎を動かしたりといった具合にです。
操作系のスキルを持っており、しっかりと使いこなせていればB〜Sクラスに入れるでしょう。SクラスとなるとLv2相当のスキルがないと難しいですね。その年によっては、Sクラスは0名ということもありますから」
どうやら、Lv2の魔法が使えればSクラスには入れるようだ。
(アスカLv2でも十分そうだな。よかった、土操作のLv3魔法は
(それじゃあ、Lv2の
(それでいこう。あまり威力が低すぎても心配だから、そこそこ魔力を込めて撃つんだぞ!)
(わかった、じゃあそれでいくね!)
「じゃあ、いきます。
アスカの口から飛び出した可愛い声とは裏腹に、ミスリルの的の上空にゴツゴツとした巨大な岩石が現れた。その直径およそ3m。いつもよりは大きいが、全力にはほど遠い。ちょっと、控えめじゃないかな?
俺の心配をよそに、勢いよく落下した岩石は圧倒的な破壊音を残し、ミスリル製の的を粉々に打ち砕いた。勢い余ってこちら飛んできた岩石とミスリルと床の破片を、アスカは慌てず騒がず結界魔法の
よく気がついたぞアスカ。そこに気がつくとは立派に成長しているな。
「は?」
ところが、それを見た試験監督の女性は間の抜けた声を上げた。
えっ? まさかこれってやっちゃったパターン?
「えっ?」
アスカも驚きのあまり、瞬きもしていない試験監督の女性を見て、やりすぎだと気がついたのか、思わず素の声が漏れていた。
「はぁぁぁぁぁ!?」
「すいません……的を壊してしまいました……弁償ですか?」
いやいや、アスカが気にしていたのはそっちだったんかい!
「いやいや、そこじゃなくて、いや、そこもですが、いや、弁償はしなくていいのですが。それより何ですか今のは!?」
「えーと、何と言われましても……普通の
もうそう言うしかないよね。何とかごまかせるといいんだけど。
「いえ、全くもって普通の
これはアレだ。比較対象がいなかったから仕方がないね。俺達にとってみればあのくらいの大きさは普通だったし。何なら少し控えめなくらいだったし。
「えーと、そのー、偶然ですかね?」
「なぜ私に聞くのですか。ちなみに偶然で魔法の威力が上がったりはしません」
「うっ、そうですよね。……たぶん、運がよかったのだと思います!」
「わかってて言ってますよね。運でも魔法の威力は上がりません」
ぐぅ、やっぱり怖いなこの先生。俺のいた中学校の英語の先生にそっくりだ。
「はぁ、わかりました。もういいでしょう。これだけの魔法が使えればあなたは合格間違いなしでしょうから、入学してからゆっくり聞かせてもらいますわ」
「お、お手柔らかにお願いします……」
こうして国立王都魔法学院の入学試験は無事? に幕を閉じるのだった。
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~side ???~
魔法学院の教師であるミルは、学院に用意された自分の部屋で、今日の試験を振り返っていた。
彼女の感覚では受験生のレベルは、例年よりも少しよかったと感じていた。実際、Lv2のスキル持ちが数人いて、しっかりと使いこなしていたようだし。今年は、Sクラスが0人ということもないだろう。
問題は最後の受験生だ。
「アスカって言ってたわね」
彼女の発言は最初からおかしかった。明らかに彼女の視点は、『どこまで出来れば合格』ではなく『どこまで抑えればいいのか』だった。つまり、あれでも全力ではなかったということだ。
受験票を見ると13歳でレベル15と書いてある。それもなかなか凄いことだが、とてもじゃないが彼女はそんなレベルではなかった。新種の魔法かと疑ってしまったくらい、桁違いの魔法を放ったのだ。
しかも、実力を隠してだ。あの時は驚いて気付かなかったが、今になって思い出してみると、彼女は詠唱していなかったはず。
(そんな人間が存在するのだろうか?)
「すぐに院長に報告しなくては」
ミルはそう呟いて誰もいなくなった教室を後にした。
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