第40話 魔法学院筆記試験

「さあ、今日は魔法学院の入学試験だね!」


 朝起きて早々、アスカの元気な声が響き渡る。昨日のレコビッチさんの件で落ち込んでると思ったが、全然そんなこともなさそうだ。俺が声をかけるまでもなかったな。

 それに、これだけレベルを上げれば、筆記試験が上手くいかなくても、実技試験でなんとかなるだろう。


 アスカは、この日のために準備した、紺色の制服のような服を着て学院に向かう。受付で名前を伝え、ギルドカードを見せる。まだ冒険者登録していない受験者は、王都発行の身分証明書を見せるらしい。

 受付を終えたアスカは職員から626と書かれた番号札をもらった。単純に考えて626人以上受験者がいるということだろう。確か魔法学院は、D,C,B,A,Sクラスがあり、A~Dまでが各20人ずつ、Sは0~10名しか合格できないと聞いている。最大でも90人しか合格できないところに、600人以上の受験者がいるのだ。


(何だか緊張してきた。大丈夫かなお兄ちゃん?)


 向こうの世界でも、2人とも高校受験前に死んでしまったので、これが初めての受験になる。まさか、こっちの世界で受験するとは思っていなかったので、悲しいような、それでいて嬉しいような。向こうでの受験もこんな感じだったのかと思うと、ちょっと感慨深い。それはさておき……


(大丈夫だアスカ。この試験のために準備をしてきたんだ。絶対合格できる!)


『受験』という言葉と受験生がたくさんいることで緊張はしているが、おそらく心配はないだろう。周りの受験生を鑑定しても、ほとんどが一桁台のレベルで、たまに二桁のレベルがいるくらいだ。スキルもLv2を持っている者はほとんどおらず、結構な数のスキルなしもいる。さすがにこいつらが受かって、レベル48、Lv4スキル複数持ちのアスカが落ちることはないだろう。

 

 アスカは大分最後の方の申し込みだったらしく、受付が終わってすぐに係の者と思われる人達が、受験生を誘導し始めた。


 番号ごとに教室が割り当てられ、いよいよ筆記試験が始まった。この番号は申し込み順らしいので、アスカの後ろに誰もいないところを見ると、アスカが最後に申し込んだようだ。


 筆記試験は諦めていたのだが、試験内容は何と簡単な読み書きと計算の問題ばかりで、残りがスキルについてだった。スキルナビゲーターの俺にとっては、とっても簡単な問題だったので全てスラスラ解いてやった。

 ただ、最後の問題だけ『古代文献に載っている複合魔法について知っていることを書け』という古代文献を読んだことがない俺にとっては、どこまで書いていいのかわからないものだった。


 しかたがないので、炎操作と風操作だけLv5の魔法の記録が残っているとハンクが言っていたのを思い出し、最近の記録にはなさそうな、Lv5地獄の噴火ボルカニック・インフェルノ+Lv2激水流ウォーターストリーム=複合魔法深紅の雨クリムゾン・レインについて書いておいた。


 


 お昼ご飯を挟んで、午後から実技試験が始まる予定だが、アスカも筆記試験が終わり、緊張がほぐれてきたのか、周りを見る余裕がでてきたようだ。余裕が出てくると周囲の声が聞こえてくるようで、試験の内容や合格した後の話、そして意外と多かったのがこの王都で11人目のSランク冒険者が誕生した話しだった。


 誰も素性を知らない謎の冒険者ということで、様々な憶測が乱れ飛んでいるようだった。曰く、人間になりすました魔人だとか、曰く、勇者の生まれ変わりだとか、曰く、黒いローブで身を包んだ美少女だとか。


 最後の話、誰が言ってるんだよ! めっちゃあってんじゃん。特に美少女ってところが!


 兎にも角にも、そんな噂話を聞きながらご飯を食べ、午後の試験に臨む。

 実技試験は控え室のような場所に30人くらいずつ集められ、そこから番号順にひとりずつ別室に呼ばれ試験を受けるという内容だった。他でも同じように行っているようで、時折、遠くから爆発音のような音が聞こえてくる。

 アスカが控え室で自分の順番を待っていると、2つ、3つ年が上であろう女の子の二人組が話しかけてきた。


「ねぇねぇ、あなたすっごく若く見えるけどいくつなの?」


 2人の内の、痩せてはいるが、鍛えられた引き締まった体で、身のこなしも軽やかな、何より猫耳が可愛い獣人の女の子が話しかけてきた。ちなみにもう1人は、焦げ茶色のストレートヘアーで、アスカと同じくらい小柄で、清楚な雰囲気の女の子だ。


「あっ、私ですか? 13歳です」


「へー、その年で受験するなんてよっぽど実力があるのね」


 猫耳が感心したように声を上げる。


「あ、自己紹介がまだだったね。私の名前はミスラ、こう見えてスキル持ちよ」


『スキル持ち』という言葉に周りがざわつく。受験生の半分はスキルを持っていないからだ。

 そしてもう1人は……


「私の名前はソフィア・エメラルダです。私も一応ですがスキル持ちです」


 その子が自己紹介すると、先ほど以上に周囲が騒然となった。


「……エメラルダってあの宮廷魔術師で、このエンダンテ王国魔法部隊の部隊長を務めるエメラルダ様の娘か!?」

「そういえば、エメラルダ様の娘が今年受験するって噂があったな」

「彼女がその娘か、お近づきになりたい」


 周りの受験生が勝手に解説をしてくれたおかげで、大体のことはわかった。つまり彼女は偉い人の娘なんだな。


「あの、私はアスカと言います。田舎から出てきたばかりなので、魔法やスキルについてもよくわかっていません。それを勉強したくてこの学院を受験しました」


 アスカが事前に用意しておいた、無難な回答を披露する。


「魔法やスキルについてよくわかってないって、あなためっちゃうけるんだけど。ここは数ある魔法学院の中でも最高峰の学院なのよ。『ちょっと学びに来ました』ってレベルで受けるところではないけど、まあいいわ。ここではスキルを持っていなくても、魔力さえ操作できれば、DクラスやCクラスに入れるチャンスがあるから。Sクラス確定の私達とは同じクラスには慣れないと思うけど、頑張ってね」


 そう言って、ミスラと名乗った獣人の子はさっさと自分の席に戻っていった。


 悪気はないんだろうが、いちいちかんに障る言い方だな。同じSクラスになったら大変そうだな……


「ミスラが失礼なことを言ってすいませんでした。私はあなたのような可愛い方が学友でしたら、とても嬉しいです。お互いに合格できるように頑張りましょう」


 逆に、ソフィアはもの凄く柔らかく丁寧な対応をしてくれる。よし、君はアスカの友達になることを許可しよう!


「はい、ありがとうございます。一緒に合格できるように頑張ります」


(俺はソフィアちゃんの方がいいな)


(もうお兄ちゃんったら、鼻の下が伸びてるよ! 見えないから多分だけど)


 ちょっとのぞき見しているみたいで微妙な気持ちになるが、2人を鑑定してみたら、ミスラはレベル15で炎操作Lv2を覚えていた。気の強そうな彼女にぴったりのスキル選択だ。

 一方、ソフィアはレベルが12しかないのに水操作Lv2を持っている。おそらく生まれつきスキルを持っていたのだろう。

 その他にも受験生を鑑定した見たが、彼女たち以上の逸材はいなかった。そんな感じに時間を潰していると、ミスラの順番が来たようだ。


「それじゃあ、一発かましてくるわ!」


 そう言ってミスラは、ソフィアに手を振りながら控え室を出て行った。

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